いよいよ折り返し地点の3作目。もう既に雄次と耕作のドタバタっぷりに心を打たれ、既に離れるのが辛くなってきている。監督、『蛇の道』のセルフリメイクだけでなく、この『勝手にしやがれ!!』シリーズとして何か新作を撮ってくれないだろうか…。いや同じ方向性の作品でも構わない。まったく、黒沢清にこんなにもコメディを撮る才能があるだなんて考えたこともなかった。3作目まで観てようやくたどり着いた感想としては、この「テレ東深夜ドラマ感」が最高だな、と。30分くらいの枠の1クールドラマ、24時過ぎに放送してるようなちょっとしたアングラ感。周りに話しても観ている人はそんなに見つからないような。もちろんこのシリーズはOVAなので、当時の環境を考えると実際にはドラマよりも視聴ハードルは高い訳だが。それでもこの哀愁漂う味は、思春期の時に夜更かしして観てた深夜ドラマのそれと似ているように思える。題材はアングラだが、トーンは決して重苦しくなく、観ている人の活力になるような、微笑ましく感じられるような。もしこの作品に学生時代に触れていたら、きっと生涯忘れられないレベルの作品になっていただろう。いやむしろ、今でもそうなりつつある予感がしている。
3作目の『黄金計画』は、雄次と耕作が関わった老人が実は5000万を盗んだ犯人の1人で、その金を手に入れようと2人が奔走するストーリー。しかし図々しい老人の孫娘に振り回され、その上老人のかつての仲間だった2人組にも追いかけ回され、挙げ句の果てには5000万の横取りを狙う悪徳刑事まで登場する。3作目ともなるとこのテンションにだいぶ慣れてきて、ある程度物語のフォーマットを理解した上での楽しみ方が上乗せされる。平気で人を逮捕し街中で銃をぶっ放す刑事が登場しても、どっかでコメディの犠牲になるのだろうなと、フリとして認識できるようになった。だが悪徳刑事の恐ろしさもしっかりと描いている辺りはさすが黒沢清。人の命を何とも思っていない極悪っぷりに酔いしれてしまう。
今作はスタートから凄い。雄次と耕作は捜索を頼まれていた車椅子の男を老人ホームで見つける。まともに会話ができなさそうなその男性を車椅子ごと運ぼうとすると、男は急に走り出してしまうのだ。突然ダッシュする天本英世がかなり面白い。しかしその勢いで男は死亡し、依頼を果たすことは叶わなくなってしまう。後に男の仲間だったと判明する依頼者の2人は激しく落ち込み、事件は終わったかのように見えた。その後、男の遺産であった車を勝手に持って行った2人の元に、孫娘の律子が現れる。ポンコツの車を取り返した矢先に事故を起こし、この女が今回の厄介ゲストであることは否が応でも伝わってくる。
律子はこれまでのゲストとは違い天真爛漫といった性格で、かなり子どもっぽい。しかしその幼さがうまく演出されており、耕作との歌いながらのやり取りなどはかなり楽しかった。『勝手にしやがれ!!』シリーズのこの何でもない会話が絶妙に面白かったり、ちょくちょく歌が挟まれていたりするコミュニケーション、すごく好きかもしれない。それだけでキャラクターの馬鹿さ加減と距離感が表れているように思う。エンディングの『森のくまさん』もずっと最高。律子に話を戻すと、彼女は平気で人の物を盗み即座に売っぱらってしまうという変わった癖を持っている。こんな泥棒猫に対して愛着を抱ける雄次と耕作、すごい。先生なんて結局店のものほとんど取られてる。あと、雄次の家が過去2作と変わっていて、託児所の跡地になっているのは何かあったのだろうか。単なるロケ地の問題とも考えられるが、よりによって託児所とは…。
依頼人の西と猫島が、今度は律子探しを依頼してくる。律子は祖父から宝の地図を渡されており、雄次達はそれこそが5000万円の在処をしましたものだと考える。そんな取引現場に悪徳刑事の九条が乗り込んできて、西と猫島はあっさりと逮捕。おまけに雄次も目をつけられ、その後に律子と耕作まで逮捕されてしまう。こんな勢いで逮捕できる九条は一体何者なのか。またも黒沢清お馴染みの銃が登場するのだが、今回は刑事の所持品ということで違法性はない。まあバンバン撃ちまくるのはさすがにおかしいけれども。その後、地図と交換で雄次達は九条の魔の手を逃れるが、車に何かあるのではと疑った九条がまたも雄次の家に乗り込んでくる。勢いで気絶させ車のトランクに押し込まれる九条。更に2人は、地図の場所の解読にも成功し現地へと向かう。一方で釈放された西と猫島も雄次の家で工作の書き写した(なのにわざと池を書き足してた)地図を発見。「池を消せばいいんだ…あそこだ」っていうさらっとしたセリフがツボだった。そこで拘束を解いた九条も加わり、物語はクライマックスへ突入する。
森の中で九条を気絶させる西と猫島。埋められたトランクケースを見つける雄次達。追いかけてくる西達に気づき、逆に西達を追う雄次達。逃げる西達。構図が突然逆転するのがめちゃくちゃ面白い。5000万持ってるのに追う側になるの、一体なんなんだ。しかしそこに九条が現れ、西と猫島をあっさりと銃殺する。前作は共に旅行を計画していた仲間が殺されたので雄次は激怒していたが、今回は敵の一派なので逃走することに。冒頭の老人と言い、このシリーズはどんどんカジュアルに人が死ぬようになってきた。雄次は自分だけ囮になり、作った落とし穴に九条をはめることに成功する。人の生き死にがかかったこの状況で落とし穴が起死回生の策になるギャップ。しかもそのまま逃げるのではなく、「埋めろ!」とスコップで九条を土の中に葬ろうとまでするのだ。九条も応戦し、穴の中から銃撃を試みる。この長回し、あまりに馬鹿馬鹿しくて最高だった。最後には銃を持った手首だけが残るのも良い。その後地中から自力で脱出するも、「こう来るか」と笑みを浮かべトラックに轢かれて死亡。生粋の悪役なのに何だか味のある粋な死に方をした。結局トランクケースの中身は孫娘に贈られた家族との思い出の品々であり、雄次達の行動は徒労に終わる。
今作で好きなところはやっぱり雄次と耕作のあっち向いてホイ。序盤とラストに2回あるのだが、全てに即負けてしまう耕作がかわいい。駄々をこねるのも何なんだ。鰻と中華どっちを食べるか決めるためにあっち向いてホイをして、雄次が2回も勝ったのに、次のカットでは「ゲロ吐くまで食うなよなあ」と2人で中華を食べに行ったことがセリフで分かるようになっている。この微笑ましいやり取りのスピード感が楽しい。敢えて描写せず、カットを変えて事後にし、余白で笑わせてくる演出がとても良かった。
心を動かされるのはやはり雄次の決意や行動なのだけれど、耕作の後輩っぷりにもどんどん拍車がかかっていき、それをちゃんと可愛がってしまう雄次の人の良さも強調されていく。残り3作、どんな話が待っているのかますます楽しみである。