映画ドラえもんマラソン、もう5作目なわけだがこれまたとてつもなく面白く、まったく退屈しなかった。こんなにポテンシャルのあるシリーズを今まで自分はつまみ食いに留めていた上にのぶ代時代の作品をほぼ観ていなかっただなんて、生きていることが恥ずかしくなってくる。『のび太の魔界大冒険』は魔法がテーマになっており、科学の発展により魔法が廃れてしまったと出来杉くんから聞いたのび太が、もしもボックスで「もしも魔法の世界になったら」と願ったことで誰もが魔法を使える世界に変わり、地球を支配しようと企む魔王達と戦うことになる大長編。
前作『海底鬼岩城』は重厚なトーンで冷戦問題を題材にしていたが、本作は見事なまでの冒険活劇。魔法というカラッとしつつミステリアスな要素にずっとワクワクが止まらない。前作の不振を受けて1作で降板させられかけた芝山努監督が今作で持ち直したというのも頷ける素晴らしい出来栄え。
ドラえもんとのび太の前に突然自分達の姿をした石像が現れるという冒頭だけでこんなにも心惹かれるとは思わなかった。自分はリメイク版の映画を過去に観ていたのだが、このドラえもんとのび太の石像が出てくるというだけで恐怖と好奇心を強く喚起させられたことをよく憶えている。しかもその石像はのび太達が見ていない間に移動して、しばらくするとどこかへ消えてしまう。これが子供心に恐ろしく、『魔界大冒険』はややホラーチックな印象がずっと頭の中にあった。
今回初めてリメイク元の映画を観たわけだが、石像が出た瞬間に当時感じたこの映画への恐怖と好奇心が蘇り、一気に心を掴まれてしまった。1作目から順番に観ているので、ドラミの初登場も地味に嬉しい。そういえば映画になるとジャイアンの心が綺麗になるとよく言われているが、3作目でその片鱗を見せたものの、そこから先はなかなか普通のジャイアンのように思う。ここから先のどこかでスイッチが切り替わり、明確に「心の綺麗なジャイアン」がスタートしていくのだろうか。それも楽しみ。
魔法の世界になっても、結局ほとんど魔法を使えないのび太。空飛ぶ絨毯は高級品らしく野比家には置いておらず、何ならのび太のパパは免許すら持ってない。こっちの世界でも引き続きのび太が落ちこぼれというのが面白いが、そんな彼が魔界接近説を提唱する満月博士と出会うことで物語のトーンが一変する。まず魔界接近説という設定が面白い。科学世界のこちらで言うとシンギュラリティみたいなものなのだろうか。魔法が当たり前になれば、魔法を使う異星人が攻撃してくるという発想も圧巻。ここまで5作品映画ドラえもんを観てきて、自分が何より心惹かれているのが映画の世界観なのだが、この作品はとりわけ凄い。
ただ魔法の世界になる〜というだけでなく、その世界において悪となり得る存在を定義し、その悪とのび太達との戦いへの道を結んでいく手腕。魔法の世界になったなら魔法が使えない人間が闇堕ちする…的な展開を自分はすぐに連想してしまうが、藤子不二雄はそんな当たり前には手を出さない。魔法世界における悪は魔物だと位置付け、その魔物の脅威をしっかりと描く。科学の代わりに魔法が発展した世界なのに、舞台設定にきちんとメカニズムが設定されていることに唸らされる。
そして魔法世界を生み出してしまったことをのび太が後悔する展開も上手い。実質は3作目『のび太の大魔境』でジャイアンが抱えた後悔と似たようなものなわけだが、その普遍的な思いはやっぱりこちらの胸を打つ。自分が世界を作らなければ誰1人魔物に苦しめられることはなかった、けれどもしもボックスで元の世界に戻したところで、こっちの世界はパラレルワールドとして続いていく。それならば見捨てることはできないと、のび太の中に溢れる強い決意にグッとくる。
のび太達を石に変えてしまうメジューサのデザインも恐怖を煽る。大魔王デマオンのあっさりとしたデザインも禍々しい。4作目に引き続き敵側のデザインがとにかく素晴らしいので、次作以降もこの辺りには期待したい。
総じてかなりバランスが良く、時間移動の面白味も強くてとても好感の持てる作品。5作目まで観て、ドラ映画の良さはやはり世界観やバックボーンの深みにあるなと感じているので、まだまだこの先が楽しみである。