『忍風戦隊ハリケンジャー』、『爆竜戦隊アバレンジャー』に続いて『特捜戦隊デカレンジャー』も20周年記念作品が上映された。ハリケンもデカレンも10周年記念作品があったし、何ならデカレンはスペース・スクワッドもあったので、「時を経て再び戦隊メンバーが集合!」という周年作品ならではのお祭り感はちょっと薄いかもしれない。しかし、個人的にはこのお祭り感の大袈裟っぷりに引いていた部分もあったので、ジャンルを変えて時代劇になったハリケン20thや、お祭り感を全く感じさせずテレビシリーズ地続きの世界観を提示してくれたアバレン20thにはとにかく感動した。そして今回、第1話のサブタイトルを彷彿とさせる『ファイヤーボール・ブースター』という副題からしていろいろな思いが込み上げてくる。放送開始前の時点で熱血レッドのバンを火の玉になぞらえてファイヤーボールと形容しているのがもう凄いが、その第1話とのリンクを感じずにはいられないサブタイトルにしびれる。
この20thを思いっきり楽しむためにデカレンジャー全50話と劇場版、Vシネを予習しておいたのだが、改めて『特捜戦隊デカレンジャー』という作品のクオリティに感動してしまった。悪の組織がいないという前代未聞のスーパー戦隊ながら、古今東西の刑事ものや探偵もののオマージュ回が多く、エピソードもバラエティに富んでいる。中でもやはりデカブルーことホージーのメイン回、『ハードボイルド・ライセンス』は素晴らしい。改めて鑑賞してホージーを大好きになってしまったし、彼がバンへの想いを吐露する最終決戦では号泣してしまった。『特捜戦隊デカレンジャー』は、ホージーがバンを「相棒」と認めるまでの物語だと私は思っている。
最終回でファイヤースクワッドに任命されたバンは地球署を離れることになり、その後続編の度にバンが何らかの理由で地球に帰ってくることがお決まりになっていた。今作でも例に漏れずバンが地球に帰ってくるのだが、いつもと違うのは塁という後輩を連れていること。40代になり後進育成に力を注ぐことを意識し始めたというバンの言葉にずっと違和感を抱えていそうなホージーが素晴らしい。そう、この『ファイヤーボール・ブースター』は1年かけて描かれたバンとホージーの「相棒」としての物語と地続きなのだ。私にはそれが何より嬉しく、『デカレンジャー』をずっと好きでいてよかったという気持ちが更に強くなった。
パンフレットのインタビューを読むと、ホージーにこういう見せ場を用意したいと最初に訴えたのは、プロデューサーとしても名を連ねているセンちゃん役の伊藤陽佑だったらしい。他のメンバーは結婚などこの20年で人生にいろいろと展開がある中で、ホージーにはそういったドラマがない。だからこそホージーに見せ場を作りたいという思いがあったそう。これは本当に伊藤さんにありがとうと言いたい。10YAの時も2年近くボスの事件の真相を調べていたのにホージーはやさぐれ者扱いにされており、「いやホージーがそんなことになるわけねえだろ!」とつっこんだ人間なので、今回しっかりとクローズアップされたのはとても嬉しかった。
年相応のポジションに収まろうとするバンを見て、きっとホージーは誰よりも悲しんだのだろう。TV版で彼はバンに憧れていたことを独白し、自分のような人間には努力すれば誰でもなれるが、バンの代わりはいないとまで発言していた。久しぶりの再会で相棒と認めた男の変わり果てた姿を見てしまったら、当然口などききたくないはずだ。誰よりも憧れていた人間がまるで別人のようなことを平気で言うのだから。事件捜査がスイスイと進んでいくのでホージーのモヤモヤはあくまで序盤にサラリと差し込まれるくらいなのかなと思っていたら、ラストバトルでとんだサプライズである。「みんなのおかげで…」などと呟き地面に倒れるバンに対して「そうじゃねえだろ!」と叱咤激励するホージー。それはTV版でホージーがクヨクヨしていた時にバンが声を荒げて思いをぶつけたあのシーンとも重なる。ボスから預かったディーソード・ベガをバンに託すシーンはさすがに泣いてしまった。何より、ここで当時の気持ちを甦らせたバンを演じる載寧龍二が凄い。それまではクールな大人にも見えていたのに、突然あの頃のバンに戻る。特撮ヒーローを演じた役者さんが数年ぶりにそのキャラを演じると演技力が上がっていて結果的に別のキャラに見えてしまう…というのは結構あるあるで。確かに10YAでもバンの演技は少し落ち着き気味だったので今回もあまりそこに違和感は持たなかったのだけれど、ラストでバンが吹っ切れた瞬間に、TV版の彼が戻ってきたようで感動してしまった。と同時に、『ファイヤーボール・ブースター』とは、バンがホージーとの掛け合いで自分のエンジンを掛け直す物語でもあるのだなあと気づく。だからこそのブースターなのだろう。
また、今回のゲスト枠でバンの後輩・塁のポジションも、他のメンバーにとにかく突っかかっていた初期のバンを彷彿とさせる。センちゃんを見てボスに対して「こんなんでデカとしてありなんすか!?」とかも言っていた頃のバン。今思えばだいぶキツいよなあと。バンよりは冷めているものの、地球署のメンバーに呆れ返るという意味では、塁も先輩と同じ道を通っているのだ。第1話を想起させるタイトルは、塁のEPISODE1としても機能しているのかもしれない。また、演じる長妻怜央の演技力もかなり高く、デカレンジャーの男性メンバーに負けない上にどのメンバーとも似ていないタイプのイケメンで、かなり好感が持てた。
ネットでは公開前に「20周年のお祭りを楽しみたいのにアイドルをゲストに入れるだけでなく新しいデカレッドにしてしまうのはどうなんだ」と苦言を呈する人もいたのだが、そういった否定意見を吹き飛ばすキャラクターになっていたように思う。というか、自分はむしろアイドルから2人もゲストを迎えるという辺りに、この作品の本気度を感じていた。10YAの頃は周年作品自体がまだ手探りな状態で、正直に言えば「内輪ノリ感」が否めなかったのだ。あの頃観てくれていた人達を喜ばせようという気持ちはよく分かるし、10YAや20thが初見という人は確かに少ないかもしれない。しかしコンテンツである以上、内向きなものは衰退していくのも事実。コンテンツとは新規層を取り込みファンの裾野を広げてこそのものだと思うので、放送当時子どもだった世代のアイドルをゲスト出演させ、そのファンを呼び込もうというのは映像作品としてすごく真っ当な作りをしていると言えるのではないだろうか。もちろんお祭り作品を否定はしないが、自分としてはこの20thの企画やノリにかなり感心しているので、ゲストのキャスティングは素晴らしかったと思っている。ただ、肝心の塁の変身シーンが回想の1回だけなので、本人のファン達が喜んでくれているかどうかは分からないが…。
そして、今回の20thが作られた背景にはキャスト陣の尽力があることを忘れてはならない。戦隊史上最初の周年企画である『ハリケンジャー 10YA』もキャストの企画から始まり、その後も10周年や20周年作品はキャストから声が掛かるパターンがかなり多い。何なら4月に『王様戦隊キングオージャー』とのVシネが公開された『獣電戦隊キョウリュウジャー』もキャストの影響が大きい。『仮面ライダー555』も同様である。そして今作も伊藤陽佑ら3人が主体となって塚田P達に働きかけたらしい。吉田夫妻が高知県に住んでいることから、クラウドファンディングまで始めて高知県ロケを決行。しかも物語でも実際に高知を訪れる形となり、太秦映画村回のような古き良きスーパー戦隊のロケ回の味を堪能することができる。何なら太秦映画村もロケ地として使われている。1年もののライダーや戦隊がTVシリーズで地方ロケを行うことはほとんどなく、劇場版でも珍しいほうなので、これはかなり新鮮だった。しかも現実にはデカレンジャーでラッピングされた電車が走るなど、今作は地域活性化の側面も持ち合わせている。露骨なダイレクトマーケティングではあるものの、それもまたスーパー戦隊の良さ。周年作品だという気負いがあまり感じられないというか、むしろ別の角度からデカレンジャーの新作を作ろうとする脱力感が自分にとっては心地よかった。それでいてホージーとバンのあんな掛け合いを見せてくれる。TV版の精神は全く変わっていないのも嬉しい。この高知ロケはやはり東映的にもいろいろと訴えたい部分だったらしく、パンフレットにも見開きでロケの様子が記されている。それによるとスピンオフを含めて撮影期間はたったの12日だったらしい。映画の制作期間というものの平均を知らないのだが、まさか撮影に半月も要していないとは…。
ただ少し残念だったのはアクション。デカマスターの登場はそこまで期待していなかったし、今回のボスの距離感もちょうどよかった。しかし、フィギュア王のインタビューで福沢アクション監督が語っていた「『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME.3』を意識した、メンバー達の見せ場を長回しでそれぞれクローズアップする」という演出に期待を寄せていた自分にとって、実際の映像はかなり期待外れだった。私は『ガーディアンズ』でもその該当のシーンにしびれたし、きっと映画を観た多くの人があの撮り方に衝撃を受けたと思う。今作でのそのシーンは実に分かりやすい。全員がデカスーツを装着し、いざ最終決戦!という形でサイキックラバーのOPの20周年ver.が流れ始める。そしてデカレンジャー一人一人のアクションがワンカットで見事に繋がっていく…はずだったのに、なぜか5人目のデカブレイクは別カット。しかも最後のデカレッドでもまたカットを割るのだ。いや、こういうのは6人でやるから意味があるのではないのか…中途半端な人数でやったらむしろ扱いに差が出ている感じすらあるぞ…と、終盤に肩を落としてしまった。何か事情があるのかもしれないが、4人までの繋ぎが本当に素晴らしく、『ルパパト 』の動くカメラで撮影された独特のアングルのアクションを彷彿とさせる程心を打たれたため、4+1+1の構図になっているのが残念でならない。ただやはりその後にバンとホージーの掛け合いという最高な演出を観られたので、この点だけで作品への思いが変わることはない。けれど、期待を煽っておいてどうして…という部分は引っかかり続けている。
最後に少し愚痴ってしまったが、肩肘張らず、いい意味で『特捜戦隊デカレンジャー』の良さが濃縮された作品だったのではないだろうか。世界観的にデカレンジャーという作品は無限に続けることができるし、映像作品でなくとも小説や漫画などでこれからもどんどん展開してもらいたいなと思っている。いずれ『風都探偵』の連載が終わったら塚田Pに本格的に着手してもらえないだろうか…。