面白い映画を観ると自然と明日への活力が湧いてくるような、逆に現実から逃げて映画の世界に上映後も浸っていたくなるような、とにかく高揚した状態になることがあるのだけれど、個人的には2025年で最もその感覚をもたらしてくれた映画が、この『WEAPONS/ウェポンズ』だった。待ちに待った『バーバリアン』のザック・クレッガー監督最新作。しかも前作同様にオリジナル脚本。邦画も洋画も原作付きの作品が当たり前の中で、こんなにも独創的で見事な映画が作られていることがまずとても嬉しい。
『バーバリアン』を観た人にはザック・クレッガーの素晴らしさは説明不要だろう。私は『バーバリアン』を観て、スッと場面転換する潔さや、家屋の間取り・奥行きを巧みに利用した空間の捉え方、そして効果的な長回しによる恐怖の増幅などなど、とにかくホラー映画作家としての力量を彼に強く感じていた。同時に、荒唐無稽で摩訶不思議な話運びや、「やりすぎだろ!」とつっこんでしまいたくなるような馬鹿馬鹿しさも携えている多彩さにも心を奪われたのである。これは『ヘレディタリー/継承』を初めて観た時の興奮とかなり近い。ホラーとして申し分ないが、それ以上に人間ドラマが完璧で、ユーモアのセンスも自分に合っている。こんなに理想的な作品に出会えることはなかなかないぞと『バーバリアン』時点でザック・クレッガーを高く評価していたのだが、『WEAPONS/ウェポンズ』はその高い期待すらもぴょいと飛び越えてしまう紛れもない傑作だった。
午前2時17分にあるクラスの生徒17人が家を抜け出し奇妙な走り方で暗闇の中に消えていく…というスタートから既に不気味で、鑑賞欲を掻き立てるには充分すぎるほど。しかし、この映画はその怪異の謎を解くだけに終わらない。子ども達の失踪を発端として、その街に住む人々の心模様をしっかりと描いていく。十数分ごとに主役が変わり、たくさんの登場人物の視点から物語を楽しむことができる構造も素晴らしかった。1人の視点で起きた不可解な出来事が、他の視点で説明されていく鮮やかさ。そして一人一人が主役である時間は少ないながら、そのキャラクターの個性や生き方を深くまで想像できる演出も見事。特に薬物中毒のジェームズは凄い。クスリが切れてイライラしている描写からスタートし、知人に電話で金の無心をしながら停まっている車のドアにひたすら手をかけ、空いていたら中を物色。女の子のものと思わしきリュックをあっさり盗んで中身をポイポイ道に捨てていく。このテンポが良すぎるクズっぷりに笑ってしまうが、彼はその後悲劇に見舞われることになり、最終的には同情してしまう。
教師のジャスティンや父親のアーチャーを通して、「喪失」の物語を描きながら、『バーバリアン』にもあった「支配」の話も忘れていない。『バーバリアン』は男性による女性の支配から生まれる恐怖を描いていたが、本作は黒魔術を媒介に人を思いのままに動かすというオカルトチックな「支配」が描かれる。人の意思を奪って自分の都合のいいように支配することの恐ろしさもさることながら、その「支配」がこれまでの支配者に対して牙を剥いた時に何が起こるのかをラストで滑稽に描いている辺りも非常に良かった。もちろんエンタメ精度がかなり高いので普通に面白いホラー映画としても観られるのだが、ザック・クレッガーが友人を失ってこの映画の脚本を書きあげたことや、『バーバリアン』から続く「支配」の物語であることを加味すると、彼の持つ考え方や思想にもどんどん興味が湧いていく。
地下室や特徴的なババアは『バーバリアン』でも印象的な要素だったため、自分のような『バーバリアン』大好きな人間にはかなり嬉しかったのではないだろうか。実際自分は「監督、またやってるよ!」みたいな気持ちでこの『WEAPONS/ウェポンズ』を観ていた。アリ・アスターが『ヘレディタリー/継承』に続いて『ボーはおそれている』でも屋根裏部屋を印象的に登場させた時にも笑ってしまったのだが、そういった監督の個性が映像に広がり過去作とリンクしていく瞬間はとても楽しい。屋根裏のアリ・アスターと地下室のザック・クレッガー。何度もアリ・アスターや過去作の名前を出して申し訳ないが、自分の中では海外ホラー2代巨頭になっているのだ。
あと鑑賞中に思ったのは『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部とのリンクである。監督は特に触れていなかったので意識したものかどうかは分からないが、町に潜む凶悪犯を倒す物語であり、そしてその凶悪犯が静かな暮らしを望む存在であり、何よりその犯人と同じ家に暮らす少年が勇気を振り絞って敵に立ち向かう姿は正に4部の川尻隼人。多くの人に「ウェポンズってかなりジョジョ4部なんですよ!ぜひ観て!」と言いたいのだけれど、それを言うとかなりネタバレになってしまうので非常に言いづらくて胸の内に留めている。多分ここまで読んでくれている人はもう映画鑑賞済みだと思うので、ここで供養しておく。途中笑っちゃうような馬鹿馬鹿しい出来事を映画の中では大真面目にやっている辺りもジョジョっぽくてとても好きだった。逆にこの映画を楽しめてジョジョを知らない人は4部だけでも読んでみてほしい。
それにしてもラストの怒涛のギャグっぷりは本当に面白かった。操られたジェームズが何度倒れても「うあああああっ!!!」とアーチャーに襲ってくる時点で結構ダメだったのだが、アレックスが黒魔術で子ども達にグラディスを襲わせてからはあまりに最高。グラディスの情けなく逃げる至って普通のババアっぷりと、叫びながら決して止まらず走り続ける17人の子ども達が窓ガラスをバンバン割っていくシークエンス、劇場じゃなかったら声出して笑っていたと思う。というか映画館でも笑いを堪えるのに必死だった。昭和のテレビアニメなんかでよく見る、逃げながら他人の家に入っちゃう的なやつを田舎とはいえ現代のアメリカでやられたらこんなに面白いんだ、という。それまでのグラディス無双っぷりから翻った面白さがあるし、何より私は度が過ぎた暴力による笑いにかなり弱いので本当に最高だった。
一方でちゃんと怖いシーンは怖い。保護者達から詰められて帰宅したジャスティンの家のチャイムを何者かが鳴らすシーンも不気味だったし、同じロケ地なのか分からないがここが『バーバリアン』で出てきた家と近い間取りに見えてそこもテンションが上がるポイントだった。続いてアーチャーが見る夢もなかなか雰囲気があり、家の上空にあった217と書かれた自動小銃はよく分からなかったけれど、息子だと思って必死に話しかけた相手が急にババアになるのはさすがに心臓に悪い。でもあそこのシーン、ジャスティンに対して一方的に感情をぶつけるクソ親父でしかなかったアーチャーの印象が息子への謝罪でちゃんと感情移入できる男になる瞬間がたまらなく好き。『バーバリアン』の経験からコイツもクズに戻っちゃうんじゃないのか…と思ってしまったが、最後まで良き父親になろうと努めていて本当に良かった。
『WEAPONS/ウェポンズ』、ワーナー配給による最後の作品ということで入場特典でワーナーロゴのステッカーがもらえたのだけれど、そういう作品外の奇縁に恵まれたことも含めてとても特殊な映画だなと思う。エンタメ性はもちろん担保されているから普段映画を観ない人にも気軽にオススメできるし(グロシーンがあるのでそこだけは難しいが…)、ホラー描写だけでなく人間ドラマも見事なので、物語を楽しみたい人にもきっと満足してもらえると思う。設定だけが派手で中身は肩透かし、みたいなホラー映画もたくさんある中で、こんなに訴求力と宣伝要素と中身が全部噛み合って面白い映画に出会えることが稀なので、大大大ヒットしてもらいたい。ザック・クレッガーの名前を日本国民が覚えるくらいには。


