映画『トンソン荘事件の記録』評価・ネタバレ感想 没入感低めの凡作ホラー

トンソン荘事件の記録

 

フェイクドキュメンタリーの韓国産ホラー映画『トンソン荘事件の記録』を観た。タイトルに偽りなく、トンソン荘という旅館でアルバイトが恋人を連れ込みそのまま殺害した事件に端を発した奇妙な出来事の記録。日本でも近年主流になっているフェイクドキュメンタリーは、韓国ほかアジア圏でも2010年代後半以降かなりの盛り上がりを見せており、ふと観たアジアホラーがフェイクドキュメンタリーだった…なんてこともそう珍しくはない。韓国でもヒットを飛ばしたというこの映画、『コワすぎ!』フリークでフェイクドキュメンタリーに目がない私はまあまあ期待していたのだが、結果はかなり残念。日本のフェイクドキュメンタリーとは全然違うな…と肩を落とし、自分の趣味嗜好の輪郭をよりはっきりとなぞっていくような鑑賞体験になった。

 

映画の内容は非常にシンプル。韓国検察庁の地下室に保管されていたトンソン荘事件のビデオが遂に解禁…というフェイクドキュメンタリータッチな触れ込みで始まり、事件を調べ始めた記者達が真相を追う中で恐ろしい悲劇に見舞われるというもの。90分にも満たない短い尺(ホラー映画はやっぱりこれくらいの尺が丁度いい)だが、その前半はトンソン荘事件の映像に映った、そこに存在するはずのない青年の謎の解明に割かれる。幽霊と思しきその人物を調べるうち、トンソン荘のオーナーが過去に陰惨な事件に巻き込まれていたことが判明。そのオーナーの甥っ子こそがビデオに映った青年なのではないか、ではビデオから微かに聞こえる「父さん」という言葉の真意とは…と、次々と降って湧く謎に記者達が迫っていくことで物語が進む。

 

この前半がかなり酷い。本当に観ていられなかった。明かされる事実自体はなかなか面白いのだが、テンポが早すぎて理解が追い付かない。こちらが各事実の衝撃を喰らう前にどんどん新たな事実が開示されていく。箇条書きのようなスピード感で進むせいでまったく驚くことができず、「えーっと、今どうなってるんだっけ」と事実を整理するだけで頭がいっぱいいっぱいに。ちょっとでも物思いに耽るとまた新たな事実を記者達が解き明かしてしまうので、ついていくのに必死になることに。暗記をさせられている気分というか、歴史の教科書を読んでいるような感覚に陥ってしまった。ドキュメンタリータッチの映像で、記者達が興奮するような描写もほとんどないため、感情をくっつけるのがどうしても難しい。パズル的な面白さはあるものの、日本人の私には韓国の名前や地名は憶えづらく、物語への没入感はほとんど味わうことができなかった。

 

後半、記者の1人である女性が幽霊に憑りつかれてから物語のトーンが一変する。上半身裸で土を掘ったり、飼い猫を殺したりと、奇妙な言動を繰り返していく彼女こそがこの映画のホラーアイコンと言ってもいいだろう。前半のスピード感と事務処理感とは相反する、丁寧な除霊シーン。フェイクドキュメンタリーには付き物の霊能力者もちゃんと登場しているのに、パーソナルな部分が全く語られないのがもったいない。とはいえ、儀式めいた除霊シーンはなかなか悪くなかったと思う。ただ、前半との緩急の差が強すぎて興は削がれてしまった。

 

そこからは女性記者の奇行のオンパレードといった形で、最終的に彼女は同僚2名を殺害。逮捕され、殺害の映像も残っているものの、彼女にその記憶はなく、番組の監督は失踪という悲劇的な顛末を迎えることに。終盤に明かされたトンソン荘のオーナーで幽霊の青年の叔父と思われていた男が、実は双子の兄が成り代わった人物だったというオチは衝撃的だった。彼は以前にも事件を起こしており施設に入所していたものの、閉鎖に伴って行方不明に。そして自身の元妻や息子、弟が住む家に戻って、翌日に一家を殺害したのだった。女性記者に憑りついた青年の目的は、一人ぼっちにされたことも含めての父親への哀しい復讐だったのである。断片的に明かされるとはいえ事件の真相はそう複雑なものではないため、答えが出てしまうと面白味は半減。双子オチなのも個人的にはガッカリで、淡々と話が進むせいもあって衝撃度はかなり低かった。女性記者の奇行も猟奇的ではあるが、ガツンとくる目新しさはない。地に足のついたと言えば聞こえはいいが、どちらかというと「地味」という印象を持ってしまった。

 

映像の質感も日本のフェイクドキュメンタリーとは異なり、かなり鮮明。もっと端的に言うと、画質が良い。これはお国柄なのか予算規模の違いなのか分からないが、自分には合わなかった。トンソン荘事件のビデオのざらついた質感は悪くなかったものの、事件を映した衝撃的な映像という触れ込みながら、結局カットをかなり割ってダイジェスト的に流されるため、没入感は低い。書いてて思ったが、やはりフェイクドキュメンタリーなのにカット割りやペースで没入感を削いでくるのが一番良くなかったように思う。面白いと思える余韻が弱すぎた。

 

実話ベースっぽい雰囲気もあるが、どうやら完全なるフィクションで、元ネタもないらしい。エロティックなシーンはないので気まずくなることはない。だが同時に、恐怖するほど怖いシーンもなく、ホラーという意味で肩透かしな感もある。明かされる真相も衝撃的と言えるほどではなく、ミステリーとしても平々凡々な印象を受けてしまった。評価が低いのも頷けるというか…。