あまりに理想的な続編で、かなり感心してしまった。3年前に観た『ブラック・フォン』がホラーとしてもジュブナイルとしても非常に面白く、シチュエーションホラーとしての完成度に慄いたことが強く思い出される。『ドクター・ストレンジ』を監督したスコット・デリクソンなのだし、イーサン・ホークが一風変わった殺人鬼を演じるということで多少の期待はしていたのだけれど、それを優に超える極上の作品。街に潜む仮面を被った殺人鬼と相対するのは、電話を通して死者と繋がることができる13歳の少年フィニー。グラバーに誘拐されてしまった彼は、監禁された地下室にあった鳴らないはずの電話を通して、これまでの被害者達から助言を受け、グラバーを殺害し、無事に保護される。幽霊との戦いではなく、幽霊からアシストされつつ殺人鬼を倒すという設定の面白さもさることながら、被害者達の生々しい傷跡や多くを語らないグラバーのキャラクターなどなど、とにかく見どころがたっぷりで、心臓をバクバクさせずにはいられない作品だった。13歳の少年が突然放り込まれた地獄から抜け出そうともがき、勇気を振り絞って殺人鬼に立ち向かう姿に、否が応でも胸が打たれたのである。
そんな1作目から3年の時を経て公開された『ブラックフォン2』(欲を言えば1作目にはブラックとフォンの間に中点が入っていたので統一してほしかった)、グラバーを葬った後の物語としてこの上ない作品なのではないだろうか。前作から4年後、電話越しに死者の声を聞く兄のフィニーと、夢で死者と繋がる妹のグウェンを死んだはずのグラバーが再び襲う。そう、彼は地獄に堕ちてなお、自分を殺したフィニーに復習するために霊となって兄妹を狙うのである。生きていた時点で既にとんでもない恐怖を与えてきたグラバーが、そう簡単には倒せない死者として、それも味方の少ない雪山で彼等に襲い掛かる。事件でトラウマを抱えたフィニーは再び殺人鬼と向き合うことを余儀なくされるが、今作の真の主人公は、前回兄を心配する健気で勝気な妹であったグウェンなのである。母の死の真相を知り、死者と家族を助けようとする彼女の心がフィニーを変えていく。1作目ではまだ子役だった兄妹も立派なティーンへと成長し、そしてその成長は映画にも良い影響を与えてくれている。私は2作目を観る直前に、予習として1作目をサブスクで鑑賞したのだが、本当にあの物語と地続きの作品として楽しむことができた。続編でキャスト交代等もそう珍しくない世の中で、あの兄妹が成長した姿で出てきたというだけでもう感動させられてしまったのである。
そして、物語もどこまでも真摯的。世間は大量殺人鬼から唯一逃げ延びたどころか彼を殺害したフィニーを英雄扱いしているが、実際のフィニーは事件がトラウマとなり、英雄視されることすらも疎んでいる。自分を馬鹿にするやつは所構わず殴りつけ、どこかで電話が鳴っても「自分には助けられない」と死者からの言葉を拒絶する。あんな事件があったのに、いや、あんな事件があったからこそ、フィニーは臆病者になってしまったのだ。対照的に妹のグウェンは男勝りな性格に更に磨きがかかり、言葉遣いも悪くなった上に積極的に死者と関わろうとするようになる。そんな彼女がある日夢の中で母と対話したことで物語は動き出す。死者となった3人の少年の過去を探るために訪れたウィンターキャンプの地で、兄妹はグラバーと自分達との恐ろしい真実を知ることになるのだった。
フィニーはほとんど腑抜けになってしまっているのだが、グウェンはそんな兄とは正反対にどんどん死者に介入していく。しかし、事件の裏にいたのはフィニーを恨み、彼から大切な家族を奪おうとする死者となったグラバー。彼はグウェンの夢に現れ、夢の中で彼女を痛めつけることで現実世界の彼女を殺害しようとする。そんな彼を止めたいが、恐怖で足が竦んでしまうフィニーの繊細さがきちんと描かれているのも特徴的。そしてグウェンを愛し支えようとする、ロビンの弟の存在も良かった。ウィンターキャンプの経営者・マンドのキャラクターも素晴らしい。過去に救えなかった少年達の遺体を探し続ける心優しき男。そんな彼等に突き付けられたのは、フィニー達の街でグラバーとなったWBHが、このスノーキャンプの地で最初に殺人事件を犯していたという事実。グウェンが夢で見た3人、そしてマンドが探し続けていた3人はここで結びつく。更に自殺と思われていたフィニー達の母親は、真相を知ったグラバーによって殺されていたことが明らかに。グラバーがフィニーの人生を変えてしまった殺人鬼というだけでなく、母の仇でもあると知ったフィニーとグウェン、そして合流した父は、氷の下に捨てられた3人の少年の遺体を回収し、グラバーの霊的な能力を奪う作戦を決行する。しかし、グラバーがそんなことを許すはずがない。眠って夢を見ているグウェンにしか見えないにも関わらず、現実で人を痛めつけることのできるグラバー。前回に増して最強となった殺人鬼との戦いは、前作以上に手に汗握るバトルとなっていた。
1作目から更に因縁を拡大させ、兄妹の戦う理由をより強固にした上で、グラバーに立ち向かうグウェンと、トラウマから立ち直ろうとするフィニーの心の動きがしっかりと描かれていた点が非常に好印象。話のスケールが縮こまらない上に、倒したはずのグラバーの格も下げることなく、1作目の物語の延長戦、つまり第2作目として非常に真摯な作品だなあと思った。『エスター』や『ミーガン』のように、1作目で観客の脳内に強烈な印象を残した敵キャラが2作目でその立場を異にし暴れ回る作品も嫌いではないが、そういった方向に舵を切らず、1作目から地続きで、地に足の着いた物語として展開していき、1作目に見劣りしないどころかそれ以上の出来になっているのはさすがだなあと。これはそもそも、前作が死者の力を借りて殺人鬼を倒すというトリッキーな作品だったがゆえの、上手い翻案なのかもしれない。倒したはずの殺人鬼が死者になって襲い掛かるという筋書きは非常に恐ろしく、躊躇のない男に霊的な能力までもが加わって、彼の狂気が更に強調されていた。まだ映画の中盤なのに平気で夢の中のグウェンを焼こうとまでするのだ。
ラストバトルは人間VSグラバーの氷上戦になるのだが、スケート靴で斧を片手にこちらへ向かってくるグラバーという半ば滑稽な映像が、きちんと恐怖を醸し出す演出として機能しているところにデリクソン監督の力量を感じた。ここだけ切り取れば面白映像かもしれないが、映画として積み上げてきたものがあのシーンで笑うことを許さない。元々変な仮面を被って意味もないのに黒風船なんかを用意するヘンテコ殺人鬼というのもあるし、霊がきちんとスケート靴を履いているのってなんなんだろうとつっこむこともできるのだが、それらを野暮に感じてしまうくらい、見えざるグラバーが霧の中から近づいてくるという事実がとにかく恐ろしい。だからこそ、彼の力が弱まり、グウェンが霊的な力を解放した上で倒れた彼の後頭部を掴み、何度も氷に打ち付けるフィニーの怒りが強調される。氷の上という緊迫感あるシチュエーションで展開されるラストバトルは本当に見事だった。
ただ、ウィンターキャンプの面々がマンド以外あまり活躍できなかったのが残念。マスタングはすぐにフィニー達に味方してくれる頼もしいキャラクターだったが、グラバーとのバトルでは見せ場なし。グウェンに噛みついていたキリスト教徒の夫婦も、ババアとバーバラなどの掛け合いは楽しかったものの、仲間入りを果たしてからは活躍せず。旦那さんがグラバーに氷上で引きずり回されたくらいだろうか。せっかく最悪のキャラとしてのスタートから心変わりを果たしたのだから、もう少し見せ場があっても良かったと思う。マンドもフィニーを諭したりするシーンはかっこよかったし、少年を探し続ける優しさも好きなところなのだが、これもバトルでは意味なし。何なら途中参戦したフィニー達の父親もあんまり活躍できてなくて残念。妻を殺した犯人と対峙するのだからもっと怒ってよかったのではないだろうか。ただ、1作目で最低のクズ親父だった男がここまで上り詰めるのか…という感動はあった。あそこから巻き返せる家族関係があるとは。
とまあ、ちょっと惜しいところはあるのだけれど、1作目を上回るスケール感と破綻のない因縁づけに見事に感心してしまったのである。スノーキャンプの協会でWBHの謎が解かれていくところなんかは、ベタではあるものの素直にワクワクしてしまった。3はさすがにないだろうが、またこういったシチュエーションホラーの極みみたいなものを観てみたいところ。スコット・デリクソン監督、よろしくお願いします。
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