映画『アンティル・ドーン』評価・ネタバレ感想 無意味に繰り返されるタイムループ

 

正直まったくノーマークだったのだが、敬愛するデヴィッド・F・サンドバーグ監督の新作と聞いたら観に行かないわけにはいかなかった。原作のゲームは名前くらいしか知らないものの、その新鮮さが逆に良い効果を生んでくれるだろうと。何よりサンドバーグ監督なら確実に抑えなくてはならない。私の大好きな『アナベル 死霊人形の誕生』の監督なのだから。

 

映画を観る前に『アナベル 死霊人形の誕生』を再度観て、やはり傑作だという気持ちが強くなった。死霊館シリーズの4作目で、2作目『アナベル 死霊館の人形』の前日譚。そもそも2作目が1作目の前日譚かつスピンオフなのに、更にその前日譚をやってしまおうという心意気が面白く、何よりシリーズで絶大なインパクトを誇ったアナベル人形の誕生譚というのに心惹かれる。そして実際鑑賞してみると、とにかく怖い。個人的には洋画のホラーで最上級に怖いのではないかと思っている。その怖さの秘訣というのが、とにかく対象(この映画でいうと悪魔)を明確に映さない演出である。足跡や影、ちらりと見える手や暗闇の中で光る瞳などなど、私たちの気持ちを焦らすために終盤まで悪魔の全貌が明らかにならない。もちろん、姿が分かったところでそれは単に衝撃を与える意味しかなく、物語において悪魔の容姿が重要なファクターになっているわけではないのだが、それでもこの「焦らし」はかなり効果的。不気味な演出も満載で、鑑賞後も居心地の悪さがずっと続いていくようなねっとりとした作品である。

 

その後、『アナベル』の功績もあってか、彼はDCEUの話題作『シャザム!』の監督を務める。日本の吹替版の演出をなぜか福田雄一が手掛けることになったアレである。その際は非難轟々だったように記憶しているが、ヒーロー映画の中でかなり明るい『シャザム!』でも、すりガラス越しに重役達が次々と殺されるというインパクト絶大のホラーシーンを撮っており、やはりこの監督は生粋のホラー気質なのだなと確信。そんなサンドバーグ監督が再びホラーに戻ってきたのだから、鑑賞しないわけにはいかない。と、すごく期待した上での鑑賞だったのだが、結果は惨敗。正直、まったく面白いと思えなかった。どこを面白いと思えばよかったのだろうか。期待値が高かった分、ホラー映画を観てこんなに残念な気持ちになったのは久々である。

 

失踪した主人公の姉を救うため、友人5人である山荘に赴く…という設定は良く、ウォーターフォールなる、断絶された豪雨も面白かった。彼等は突如現れた殺人鬼に山荘の中で皆殺しにされるが、なぜか蘇る。どうやら死をトリガーにタイムループしていると気付いた彼等はどうにか死なずに朝を迎え、山荘を脱出する方法を模索するが、怪物や殺人鬼、そして謎の男がそれを阻もうとする。

 

死によってタイムループが繰り返されるという設定は面白いものの、正直目新しさはない。しかもゲームのあらすじを読んだところ、ゲームではこのループ設定は存在しないようで、余計にビックリ。ゲームにあるあるな残機制度を映画に持ち込んだということだろうか。それにしても大胆な改変である。ゲームはどうやら仲間の誰が死んだかによってエンディングが変わるらしく、その分岐ストーリーを楽しむマルチエンディング方式らしい。総エンディング数はなんと256。これほどのネームバリューを持つ作品であるわけだし、そのうちのどれかを映画にするのではいけなかったのか…とも思ってしまう。

 

もちろん原作と変えたから悪いというわけではない。この映画が良くないのは、肝心のループ設定を全然活かせてないためである。そもそもループ設定が面白いのは、死ぬ度に新たな攻略法を見出し、ああでもないこうでもないと、正にゲームのように登場人物が試行錯誤できるからこそ。Aルートを選ぶとすぐに殺人鬼と出会ってしまうが、Bだと少し余裕がある。しかしもたもたしていると別の怪物が襲ってきてしまう…などなど、決まりきったルーティンを解読していく面白さがループものの醍醐味のはず。それなのに、この映画の物語には脈絡と再現性がない。どこへ行こうが何を選ぼうが、大体怪物が現われて襲われる。怪物の挙動を前ループでしっかりと把握して、次のループでその記憶を活かして局面を突破する…なんてこともなく、毎回毎回ループの度に別の事態に襲われるため、正直「繰り返される死」がそれ以上の意味を持っていない。入る度にマップが変わるタイプのゲームもあるにはあるが、この映画はそういう次元ではなく、ループを活かせていないのだ。

 

もう一つループもののお決まりとして、ループした人々の人間関係がこじれていくというのがある。例えば「どうせ生き返るから」と別の人を犠牲にした人物が非難され、立場を失ったり。逆に恐ろしい状況の中でちょっとした楽しみを見つけて絆を深めたり。無駄に死んでしまうみたいなコメディループ回が入っていると尚良い。それなのに、この映画はそういったことがほとんどない。カップルの男(正直全然キャラの名前を憶えられなかった…)が女にキレられ、口論の末に殺される…という展開はあったが、結果的に次のループ以降は何故か仲直りしており、無意味な喧嘩ループが存在しただけという結末に。5人の関係が徐々にこじれていく…ということもないため、それを示唆する会話劇に使う時間が完全に無駄。喧嘩が及ぼす物語への影響力が限りなくゼロに近かった。また、5人はそもそも知り合い同士のために絆が深まるということもない。主人公ともう一人の男性が元カップルという設定もあるが、2人の関係性を掘り下げるわけでもない。この元カップル設定は2回目ループで男性が主人公を助けに行く動機付けのためだけにあるようなもの。しかもカップルっぽい会話が全然ないのもキツい。その設定必要だったか…?と問いたくなるものが、そこかしこに充満している。

 

しかも3か4回目のループの後、なぜか目覚めた4人の記憶はないままに13回目のループへ飛び、「これが最後だ」と勝手に決めつけられる。ループが無限ではなく、繰り返す毎に怪物へと近づいていくという、唯一生きていた設定でさえも、根拠の不明なラストループ発言によって無理矢理収束されていく。いや5人共まだそんなに怪物っぽくはないんだが…。一応12回(だったっけ?)が最大…みたいな話が、彼等が探し当てたビデオテープで出たとは思うのだけれど、とはいえそこには個人差があるので絶対的に最終ループとは言い切れない。こんなガバガバ強引設定がずっと続いていて、本当に見ていられなかった。元カップル男が「命は一回きりだから尊い」みたいなことを言うタイミングも意味不明。いやそりゃ当たり前なんだけど、そんな脈絡ないところで言う必要はないだろうと。

 

更に、殺人鬼や怪物がひしめいている映画なのに、黒幕のドクター・ヒルとの戦いが「コーヒーカップをバレないようにちょっとズラす」だけなのがかなり酷い。水を飲むと体が爆発する世界であることは劇中で語られていて(正直これもギャグすぎるが)、ダメ押しのように、水道水以外でも爆発は起こるということも描写されているのだが、それでも天井から垂れてきた水滴をヒルの持ってきたコーヒーカップに入れようと健気に頑張る主人公を全然応援できなかった。スクリーンでこんなにみみっちいバトルを見せられる側の身にもなってほしい。当然それはヒルにバレて何かここから逆転劇が始まるのだろうと思ったら、ヒルが素直に水入りコーヒーを飲んで爆発してしまう。後は怪物から逃げれば終わりという消化試合。思わぬラストに言葉が出なかった。

 

サンドバーグ監督の過去作らしい描写が観られたのはよかったが、どれも過去作には及ばない完成度。倒れている人物が不思議な力で後ろに引き摺られていく描写(なぜか2回もある)は『アナベル』でも印象的だったし、何も乗っていないのに揺れるゆりかごも『アナベル』にあった。終盤の、照明が点く度に近づいている怪物という描写は、正に『ライト/オフ』と同じ。それなのに、そのどれもがチープ。これは撮影が良くなかったのだろうか。ゆりかごなんかは特に、人物とゆりかごを交互に移してちょっと引いて…というまったく怖くない撮り方になっていて残念。『アナベル』の時はもっとねっとり怖かったはずなのに、この映画はとにかくジャンプスケアが多くてそこもげんなりである。

 

いい所としては、主人公クローバー役のエラ・ルービンが目鼻立ちのくっきりとした女性でかなり綺麗だったところ。あの目力だけで風格があったし、何としても姉を救うという覚悟が表現されていた。それだけに、怪物になった姉とのバトルがあっさり終わってしまったのも残念。あと、今回の怪物であるウェンディゴは海外ドラマ『スーパーナチュラル』のシーズン1・第2話にも登場していた、というかそこでしか名前を聞かない怪物だったのでちょっと嬉しかったり。何ならウェンディゴに憑りつかれるという恐怖に支配されるウェンディゴ症候群のほうが有名なのかもしれない。更に、ドクター・ヒル役は『プリズン・ブレイク』のアブルッチ役、ピーター・ストーメア売店のシーンで気付いたのだが、かなり重要な役を演じていてこちらも嬉しい。調べたところ、原作のゲームでもドクター・ヒルはストーメアが演じていたとのこと。大きな役どころではあまり彼を見かけることがないので新鮮な気持ちになった。何ならゲーム版の主人公は『HEROES』のヘイデン・パネッティーアが演じていたらしく、もう2000年代の海外ドラマにどっぷりだった自分としてはかなり心惹かれている。映画は散々だったが、結果的にゲームにかなり興味を持てたので悪くなかったかもしれない。

 

でもこの映画にちょっと違和感を持った人はぜひ『アナベル 死霊人形の誕生』を観て恐怖に震え上がってほしい。

 

 

アナベル 死霊人形の誕生(吹替版)

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