実写映画『SAKAMOTO DAYS』評価・ネタバレ感想 原作の良さが暗殺されている

映画ノベライズ SAKAMOTO DAYS (集英社オレンジ文庫)

 

 

特別『SAKAMOTO DAYS』の原作に思い入れがあるわけではなく、何ならそこまで面白いとも思っていない人間だったのだが、実写映画前に序盤を読み返していたら「あれ?この漫画もしかして結構面白くないか?」と気付いてしまった。台詞回しやギャグや展開は好みじゃないが、とにかくアクションで毎週読者の度肝を抜いてやろうという気概が強く感じられ、実際アクションが凄く個性的で面白い。頭を空っぽにしていてもアクションの凄味でスラスラとページを捲ってしまう。正に原作で鹿島が言っていたように、「身の回りにある物 状況を巧みに利用し戦う」が徹底されており、商店や遊園地や電車など、私達にとっても馴染み深い風景の中で、何を使ってどう戦うかのギミックが洗練されている。私は『ONE PIECE』のためにジャンプを定期購読しているため、『SAKAMOTO DAYS』に関しては1年前に連載されていたくらいのところまでしか読めていないのだが、それでもこの徹底ぶりは続いている。だからこそ、鈴木先生のアクションの引き出しの多彩さがこの作品の根幹だと感じていた。

 

とはいえ、映画は福田雄一監督。『勇者ヨシヒコ』シリーズや実写版『銀魂』などを手掛けた、コメディ描写に定評のある方である。ムロツヨシや佐藤二朗をはじめとした福田組も含めてファンから愛されている一方で、つまらない顔芸や間延びしたアドリブ会話劇によって映画ファンからは嫌煙されている人物。私も福田監督作品を素直に面白いと思えたことがないどころか、『シャザム!』の吹替版監修など、洋画の世界にまで食い込んでくるために憤りすら感じている。もちろん福田監督が全て悪いというわけではないし、彼が観客を呼べる人物だからこそこういうことが起きるのだろう。だが、やはり印象は良くない。『SAKAMOTO DAYS』の実写化についても、福田監督であることが一番のネックだった。普通は各キャラクターを誰が演じるのかで盛り上がるはずなのに、私の周囲では「福田監督かよ…」という諦観の声が多かった。それもそのはずで『SAKAMOTO DAYS』はバリバリのアクション漫画なため、実写化にも日本の最先端アクション技術を詰め込んでほしいという気持ちが強かったのだ。漫画の実写化はアクション映画の育成の観点で非常に重要な意味を持つ。それなのに、コメディ作品に仕立て上げられてしまうのがキツい。何より、日本を代表するアクション映画の監督として阪元裕吾監督や坂本浩一監督というWサカモトがいるのに、それを差し置いて福田監督とはどういうことなのだろうか。阪元監督の代表作『ベイビーわるきゅーれ』でも主演の1人を務めた伊澤彩織さんが以前18巻発売記念のスペシャルムービーに出演していたという実績もあるのに…どうして…。

 

だが、決まってしまったことをくよくよと嘆いていても仕方がない。作り手がそう決めた以上、観客である私達は受け入れるしかないのだから。だが、実際に映画を鑑賞しても「酷い出来だな…」と。私の隣に座った、朝からマックを劇場に持ち込んでいたカップルはツッコミを入れながら爆笑していたが、私はまったく笑えなかった。構成がキツイ。アクションがキツイ。何より、『SAKAMOTO DAYS』のトロの部分である「身の回りの物を活かした戦い」がほとんどない。殴る、蹴る、撃つ、爆発する…。こんな平凡なアクション映画で本当に良かったのか。福田監督作品のオマケでアクションが付いてきたくらいのものになってしまっていた。アクション監督の田渕景也さんは『銀魂2』や『アンダーニンジャ』など、福田監督組とも言える人物で、『シン・ウルトラマン』や『シン・仮面ライダー』などの特撮映画も手掛けている。いるのだが、庵野監督によるシンシリーズはちょっとアクションに難アリな部分もあるので純粋な評価は難しい。ただ、私は『銀魂2』を観てその拙いアクションに吐き気を催したレベルなので、本作も大したことはないのだろうとある程度覚悟をしていたのだが、それでも舐められたものだった。ここまでの規模のアクション映画でどうしてこのレベルなのか。本当に辛い。ミニシアターでも邦画のアクション映画は貴重で、中堅レベルだとまったくヒットしないのが常。なのに最先端にいる人物がスローモーションの多用やキャストの力に頼ったような殺陣ばかりで、そもそも原作の良さを殺してしまっている。この点には素直に怒りを覚えた。

 

例えば原作の第1話では、シンと坂本の戦いで、坂本が投げたシュークリームがシンの顔にかかるシーンがある。映画では飴で銃弾を弾くシーンこそあるが、そこはカットされてしまっていた。原作のバスジャック回では坂本が標識をポールごと折り、それを使ってバスを止める。私が欲しかったのはやはりこういうアクションなのである。身の回りの物を巧みに操る、シチュエーションバトル。次々と襲い来る特殊な武器や能力を持つ相手に対して、坂本達が思いがけないアイデアで戦いを繰り広げる面白さこそが『SAKAMOTO DAYS』の良さなのだ。映画『ジョン・ウィック』シリーズでも身近にあるものをとにかく何でも武器にしてしまうアクションが面白いのだが、そこまでとはいかずともせめて原作の良さは活かしてほしいと、そう願っていた。だが、実写映画にはそのようなシーンはほとんどない。むしろ漫画よりも実写のほうがこういったことは巧みにやれそうだし、遊園地や博物館などのロケ地にあった物を応用してオリジナルの殺陣を作ることだってできたはず。恐竜の骨のCGなんていらなかった。それよりももっとアクションに幅を持たせてほしかった。かろうじて坂本が鹿島との戦いで電車の吊り革のポールで戦うシーンは残っているが、本当にそれくらいである。「何を使うって戦うか」も充分笑いのネタにはなるわけで、そこに福田監督の作家性を見たかったのだが…。残念ながらCGで補正されたアクションばかりで、素直に楽しむことは難しかった。

 

そして、脚本も酷い。私は漫画を実写映画にする際、原作に忠実であることよりも1本の映画として完成されていてほしいという気持ちが強いので、本作は非常に見苦しかった。そもそも原作は、どこに向かっていく話なのかを開示するまでに数話を要している。シンが坂本商店に現れ、ルーが仲間になり、その後ようやく南雲が登場することで「坂本に懸けられた懸賞金を外してもらおう」という目的が生まれる。だが、映画化にあたってはやはり2時間で一体感のある作品にしてほしかった。研究所で映画が終わるのはキャラクター的にも尺的にも妥当だと思うが、それならば冒頭にシンのエスパーとしての葛藤をもっと入れたり、逆にそんなシンを暖かく包み込む坂本家の優しさを強調したり、やれることはもっとあったはずだ。ただ原作をなぞるばかりで、2時間の映画なのにどこに向かうかが分かるまでに時間がかかるのは勿体ない。そもそもルーが最初から働いている設定なら、坂本に懸賞金が懸けられたのも前提としてあってよかったのではないか。シンが商店に乗り込む、ランドセル争奪戦、遊園地バトル、スラーの組織との戦いと、多少のマイナーチェンジはあれど原作をただなぞるだけの数珠繋ぎ展開に辟易してしまった。原作をなぞっただけのくせに、原作通りというわけでもないのが更に怒りを掻き立てる。

 

展開は原作を端折っているような流れなのだが、それでいて原作の台詞をそのまま流用していたりもする。例えば妻子にバレないように坂本が遊園地で殺し屋達と戦う場面。お化け屋敷に入る前に原作通り「暗殺に適してる…!」と言う台詞が出るのだが、原作ではきちんと前フリがある。遊園地に既に殺し屋が入り込んできているが、幸いどこも明るくて開けているし、暗殺に適した場所じゃないから大丈夫だと、坂本・ルー・シンの3人が安心しきった上で、葵達がお化け屋敷に行きたいと言ってからの「暗殺に適してる…!」なのだ。だが、映画ではただ「暗殺に適してる…!」だけが使われていた。もちろん実際お化け屋敷が外よりも暗くて暗殺に適しているというのは初見でも分かるし意味も通るのだが、原作読者はこの台詞の100%の価値を知っている状態。それなのに前フリなしで威力を半減させた上で台詞をそのまんま流用するというのが信じられなかった。同じ理由で「恐竜と戦うのは初めてだな…」もキツイ。漫画の台詞はきちんと導線が引かれた結果なのに、その上澄みだけを掬い取って脚本に起こしている辺りは、さすがの福田監督だなと。『銀魂』が実写化の成功作と言われているが、それはたまたまギャグの方向性が原作に近かっただけであると私は思っている。福田監督はリスペクトよりも自分の面白さを優先する人間なのだが、彼の面白さに私はまったく共感できない。『SAKAMOTO DAYS』でも原作を誇張した変顔が多く、目黒蓮だけなら彼目当てにキャストファンもたくさん来るだろうしまあ仕方ないかと受け入れていたのだが、なぜか途中まで冷静だった桜井日奈子にまで急にスローモーションで変顔をさせるので本当にキツかった。というかルーと帯黒のシーンは全体的に苦しかった。人がたくさんいる劇場で観るものではない。恥ずかしすぎてこっちの顔まで赤くなってしまった。そもそも語尾にアルをつける中華娘のキャラが実写になった時点でだいぶキツいというのはあるが…。

 

平助も仲間入りエピソードがカットされ、なぜか一人で遊園地を楽しむシーンなどコミカルなシーンがたくさん挿入されていたのだが、ラストのシンVSセバに合流してキーキャラとなるには圧倒的に前フリが足りていない。彼の強さと馬鹿ながら射撃の腕は超一流というギャップを全然活かしきれないままバトルに突入し、突然現れてシンの危機を救う。だが映画ではシンと平助は初対面。映画での関係性がまるで構築出来ていないのに、どうしてシンVSセバは素直に漫画と同じ構図を使ってしまうのか。これはさっきの「暗殺に適してる…!」と同じで、原作が綺麗に整えた物語の上澄みだけを使っているのである。戸塚純貴の平助が結構似合っていたからこそ余計に残念。いっそのことボイル戦に参加するオリジナル展開にしたほうがよかった。というか仲間入りエピソードをカットするならそれくらいきちんと平助の良さを説明しないといけない気がする。

 

大佛と神々廻はビジュアルの原作再現度こそ凄かったが、彼等がキャラ的に大きなボケを入れられないせいで、この2人が出てくるシーンだけ完全に映画のトーンが死んでいた。それまで間延びしたアドリブギャグとかを散々やったのに、どうしてこの2人だけはクールなまま演出したのだろう。この2人と鹿島のシーン、突っ立ったままセリフを言うだけだしアクションも見応えがないし展開が進むわけでもないしで完全に手詰まりの印象があった。観客にとっての休憩シーンみたいな。あとめるるは普段のタレントの印象が強すぎて、大佛の不思議ちゃんキャラがだいぶ苦しかった気もする。演技は比較的上手いのだが、わざとらしさがどうしても見えてしまうのである。

 

とはいえ、他の方の感想を見ると「福田監督の悪ノリは控えめ」と書かれているので、もしかすると見やすいのかもしれない。私は脚本の粗雑さと変顔が気になってしまってずっと脳内で文句を垂れていたが…。というか悪ノリが控えめなレベルに落ち着いているのなら、そもそも福田監督以外でやってほしかった気持ちがある。せめてアクションだけでもどうにかならなかったのだろうか。あと、スラーのキャストを明かさないまま公開したのに、監視カメラにうっすらと映るだけみたいなのもやめてほしかったところ。志尊淳であることは分かるし、実際「なるほど~」と思ったりもしたのだが、もっとガッツリ見せてほしかったし喋ってほしかった。続編ありきということなのだろうか。実際ヒットはしているようなので少なくとももう1作くらいはやりそう。

 

総じて言うと、大筋は原作の展開をなぞっているのに原作の良さを暗殺してしまっている奇妙な映画だった。正直ORDERのメンバーは思い切ってカットしてもっとドラマ性を重視してほしかったが、日本の漫画実写化映画は有名キャストの物量を武器だと思っているし、実際それが興行収入に繋がってしまうので難しいのだろう。そもそも福田監督はドラマの人ではないので期待していなかったものの、私的にはなかなかに酷くダメージを受けた。寝不足だったのでつまらなかったら寝てしまうぞと思っていたのだが、逆につまらなくて寝ることはなかった。むしろつまらなさの言語化に脳をフル回転させられていた。ボイドとの戦いもなあ…観覧車で座り合うシーンも実写で観ると滅茶苦茶滑稽になってしまっていて残念。漫画はコマの大きさを自由に変えられるために迫力を演出できるのだが、映画だと2人が映り切るギリギリの距離からのショットでもかなり近くなってしまうため、どうしても滑稽に見えてしまう。原作通りよりも映像化に際しての翻案こそが監督含め作り手の腕の見せ所だと思うのだが、実際原作から変更すると原作ファンに怒られることも多いのでそれは仕方ないのだろうか。いやこれを観て原作ファンが怒らないと思っているなら逆に凄いが。

 

原作と違うことは私は別にどうでもいいのだが、むしろ中途半端に原作を使ってその良さをうまく御し切れていない点がどうしても気になってしまった。せめて次回作ではもっと身の回りの物を使ったアクションをお願いしたい。