憧れの映画『アナコンダ』のリメイクを作るため、ジャック・ブラック演じるダグとポール・ラッド演じるグリフがアマゾンで映画撮影に挑む…という座組と設定だけで笑わせにきてくれるような陽気な映画、『俺たちのアナコンダ』。現代は『Anaconda』なのだが、邦題の「俺たちの」が凄く良い味を出している。「俺たちの」が付いただけでコメディ感が3割くらい上乗せされているのではないだろうか。知っている人には今更だろうが、1997年の『アナコンダ』はラジー賞にもノミネートするほど低評価を受けている。それでいてどんどん人が死ぬパニックアクションとしてボンクラっぷりに魅力があるため、一部にはマニアックなファンもおり、続編や派生作品も制作されている。要は批評家ウケはしないがポップコーンムービーとしては結構楽しめるというタイプの映画なのだ。
惜しむらくはこの『アナコンダ』、なかなか有力サブスクで配信されず、セル版も高騰してしまっている。実店舗や宅配でのレンタルは可能だが、サブスクが圧倒的な現代ではわざわざDVDをレンタルするという方も少ないかもしれない。ちなみに私は未見だったのだが、偶然にも今月加入していたWOWOWオンデマンドで配信されていたので、家ですぐに観ることができた。リメイク版の感想を読むと「原作もサブスクで配信してくれー」という声がいくつか上がっていたのだが、WOWOWに加入すれば観られるのでここで教えておきたい。WOWOWはサブスクとは違うと言われればそうなのだが、それはそれとして観たい映画があるなら自分の入っているサブスクに来るのを待つだけでなく、積極的に他のコンテンツにお金を払っていくべきなのである。何より、この『俺たちのアナコンダ』は主人公2人が原点の映画に魅了されまくっている人物で、原作を意識した展開も用意されているので、ぜひ未見の方は抑えておいてもらいたい。この『俺たちのアナコンダ』の旨味をより引き出すことができる。
監督はトム・ゴーミカン。ニコラス・ケイジが本人役で主演した『マッシブ・タレント』の監督でもある。要はこの監督の名前と設定を把握しておくだけで、「ああ、あのノリね!」と何となく想像がつくタイプの映画。そしてその期待を裏切らず、メタ的なネタを抑えながらダグとグリフの愛嬌がぐんぐん物語を牽引していく、実力派コメディパニック映画なのである。今やパニックアクションもので怪物が1体だけというのは味気なくも感じられるが、撮影クルーがアマゾンでデカい蛇に襲われるだけの映画でここまで面白いのはシンプルに凄い。アナコンダと人間に別に因縁があるわけでもなく、アナコンダとじっくり対峙するシーンもほとんどないのに、パニックアクションとして成立している。その理由はやはり、この映画に沁みついている負け犬根性だろう。
『アナコンダ』自体が「ボンクラ映画」のレッテルを貼られているのと同様、この物語の主人公2人も冴えない中年男性として設定されている。映画監督を目指していたダグは結婚式のプロモーションビデオを制作する会社に勤めており、グリフはずっと俳優業を続けているものの、知名度はイマイチで、有名ドラマに出演したことをいつまでも話し続けるようなタイプ。脚光を浴びたいと願いながら、夢を叶えられなかった仲良し中年男性。そんな彼等に大好きな映画のリメイク権という千載一遇のチャンスが舞い込み、トラブルに見舞われながらも脚本を作り、計画を練ってアマゾンへと出航する。しかし実は権利を手に入れたというのはグリフの嘘であることが発覚。それは前向きな嘘だったかもしれないが、撮影クルーにとっては衝撃的で、グリフは孤立してしまう。しかしそこからアナコンダの脅威に晒され、自分達を襲う謎の一団などとの戦いに巻き込まれ、彼等は生きて帰るために再びチームとなる。結局、馬鹿なおじさん達が夢のために直向きに頑張る姿は、いつだって胸を打つのだ。実力はないが前向きな中年男性は、いつだって物語のスターになれるのである。
撮影クルーは中年なのに、平気で小便ギャグを長々とやってしまうくだらなさも最高で、いや正直自分的にはさすがにここはスベってる気がしたのだが、でもこういう幼稚な笑いをすかさず取りに行くこの映画の姿勢自体に凄く好感が持てた。一番面白かったのはアナが泥棒だと判明し、彼女を追ってきた警察のおかげで何とか丸く収まりそうだったところに勘違いしたグリフがやって来て警官を攻撃してしまうシーン。結末は分かり切っていたのに見事にそれをやってくれて最高だった。正直アナの話が彼女が退場してからは関係なくなる辺りに、中年だけだとさすがに厳しいから若い女性キャストをどうにかねじ込んだのかな…と邪推もしてしまうのだが、そういう細かな粗を指摘したくなるほどキッチリした作りの映画でもないので別に構わない。
唯一残念だったのは、アナコンダ成分が非常に少ないところ。素早くて大きい蛇ということは分かるし、一瞬で人を丸呑む脅威は確かに恐ろしいのだけれど、素早く移動するためにじっくりアナコンダを拝めるシーンがほとんどない。特殊能力があるわけでもないので攻撃や行動は単調だし、最後の作戦も爆発で吹き飛ばそうという、別にアナコンダじゃなくてもいいような解決法になってしまっている。原作の映画は人間が高い所に登る、それを追いアナコンダが人間に巻き付いて息の根を止める、高所から落下する…みたいなシークエンスが何度かあって、要は「巻き付く」や「尻尾で攻撃」というアナコンダっぷりをきちんと表現しようという意気込みが感じられたのだが、本作ではモンスター要素は薄まっており、逆にコメディ成分がふんだんに盛り込まれていた形。誰かが原作映画と同じようにアナコンダに捕食されてダグ達が不謹慎にも大喜びするとか、そういうシーンが観たかったなあという気持ちも。不謹慎ギャグを許容できる器の大きいギャグ映画であると感じただけに、余計に残念。
アイス・キューブ登場は直前に原作映画を観ていただけにガッツポーズ。登場シーンに使われていたAC/DCの『Back in Black』も最高。『アイアンマン』で死ぬほど聴いた曲なので耳に馴染んでいて余計にテンションが上がってしまった。別に蛇の専門家でも何でもなくただの役者なので救世主感の演出はハッキリ言って無駄なのだが、それでも笑ってしまうし勇気をもらえる名シーンだった。ただ、あっさり出番が終わってしまったのでもっと活躍してほしかったのも事実。最後ジェニファー・ロペスが出てくるのは良かったし、それでダグの夢が叶うのもちょっと感動的だったけれども。総合的に、パニックアクションコメディとしてかなり良い出来で、新年度幕開けに相応しいポップコーンムービーと言えるのではないだろうか。



