映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』ネタバレ感想 「硬直」の凄まじさに驚愕

 

自分が観る前から絶賛されている映画を鑑賞するのは、すごく気が重い。なぜならその映画が自分に合わなかった時、必死に言い訳を探す羽目になるからである。しかも絶賛されていればいるほど、期待値は無駄に高められてしまう。あぁ、公開日に観ておけばなあと苦い思いをした経験が何度もあるため、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』に対してもかなり身構え…正に"硬直"してしまっていたのである。

 

とはいえ、アクション映画を配信スルーにして自宅の32インチTVで観るのは違うと思い、意を決して池袋の九龍城砦へ飛び込んだ。初めてのシネマ・ロサ。座席に着くと、かなり後ろの席を選んだせいか、前の人の頭がスクリーンに重なる。段差のない映画館。一応前後の列と半席分ずれて配置されているのだが、それでも前に座高の高い観客が来たら詰み。しかも後ろの席を選んでしまったせいで、スクリーンもやたら小さく見える。没入感が乏しい。そんなことを考えているうちに前に男性が座ってきてしまい、彼の頭部とほわほわした髪の毛数本がスクリーンに重なることが確定。しかも男性が何度も姿勢を変えるタイプだったおかげで、こちらも彼をどうにかスクリーンに入れまいと体を動かすことになり、とにかく鑑賞の妨げになっていた。作品とは一切関係ないし、変な席を選んだ自分の落ち度なのだけれども。

 

事前の情報はあまり入れていなかったが、とにかく絶賛されていること、香港映画であること、美味しそうな叉焼丼が出てくること、小説が原作であること、ラストバトルが4対1になること、「硬直」なる言葉が流行っていることはXのタイムラインによって把握していた(結構知ってるな…)。まあアクションが楽しければいいかあと、高いハードルを必死に低く改造していたのだが、鑑賞して「硬直」の凄さに驚愕。何あれ。言いたくなるどころの騒ぎではない。「硬直」の正体を確かめる程度の気持ちで観に行ったはずが、その正体にあっさりと取り込まれてしまった。「硬直」、とても気持ちの良い言葉だと思う。

 

正直鑑賞中、前半はそこまでかなあと思ってしまった。カンフーアクションは実写るろ剣でお馴染みの谷垣健治さんがアクション監督を務めたこともあり圧巻だし、九龍城のセットの作り込みも途轍もない出来栄え。実際の九龍城をどれくらい再現しているかは私には分からないのだが、狭い通路と張り巡らされた電線が醸し出す混沌の街を、目まぐるしく駆けながら戦う男達はとにかくカッコよかった。カンフー映画をほとんど知らない自分にとって、一挙手一投足の素早さがとにかくツボだったわけである。とはいえ、話の筋は事前に情報が入っていたこともあり、大体読めてしまった。九龍城砦のリーダーであり、伝説の男、龍捲風(ロン・ギュンフォン)は途中で死ぬんじゃないかなあとか、4対1のラストバトルの4人は彼等のことなんだろうなあ、とか。知っている情報とスクリーンの状況で答え合わせをする感覚になってしまっていたのだ。これは公開日に観に行かなかった自分が悪いのだけれど、正直、アクション待ちのような感覚に陥っていた。

 

しかし、中盤の「硬直」で世界が変わる。序盤からバス追い掛けっこと長髪ビジュアルで強烈な存在感を発揮していた王九(ウォンガウ)が、「硬直」と声に出して刃物を跳ね返すシーンに「何これ!?」と目を見開くことになった。「これが噂に聞く硬直かあ」ではなく「何これ!?」と思ったのを明確に覚えている。超絶アクション待機をしていたのに、急にチート。刃物が効かないなんてことがあるのか。しかも味方側のキャラクターですら「気功か!?」程度の驚きっぷり。「刃物が効かないだと!?」ではなく、「気功」の2文字で全てを片付ける。どうしてそんなにあっさりと状況を飲み込めるのか。この映画での気功の万能さに思わず笑ってしまった。しかもそこから硬直の嵐。そんなに使われたら一気に面白くなってしまう。

 

結局王九によって龍捲風は殺され、主人公の陳洛軍も意識不明の重体。三か月後、回復した洛軍は仲間達と再会し、九龍城砦を取り戻すため、そして龍捲風の仇討ちのため、王九を倒すことを決意する。大ボスの名の通りでっぷりと肥えたサモ・ハン・キンポー、彼を裏切り新たな九龍城砦の支配者となった王九。あのコーディネートと長髪、そして普段のクネクネした動き、もう何もかもが「嫌な奴」の権化で本当に素晴らしかった。見ているだけでイライラするくらいである。しかも強い上に硬直する。面白いのは、洛軍達が硬直への対策を特にしていなかったことである。九龍城砦にそれぞれ乗り込む4人のシーンは鳥肌が立つほどかっこよく、正に「ヒーロー登場」の風格。子供を余興として傷つけようとする王九の最悪っぷりも素晴らしいのだが、それより何より硬直して炭みたいなのをバリボリ食べているのが最高だった。硬直にはそういう使い方もあるのかあと。

 

ラストバトルはもう硬直の嵐。ただ体が硬いというくらいだけでも面白いのに、いちいち「硬直」と言葉にするのがすごく良かった。言いたくなるし。序盤にあった「紙切れ」がここで出てくるかあと興奮しながらも、4対1でさえ倒せない王九の強さがとにかく際立っていき、洛軍達の戦いの行方を何とか目に焼き付けようとこちらも必死になる。こんなに強い相手を一体どうやって倒すのか、私を含め観客の気持ちはその一点に向かうと思うのだが、これがまさかの「体内からの攻撃」だった。王九は刃物を食べさせられ、体の内側から攻撃されるのである。確かに硬い相手には内側からの攻撃が有効というのは王道なのだが、それはあくまで人外に対しての話。まさか『ゴジラ -1.0』と同じ方法だとは。人間相手にこのパターンの解決法を取るのは初めて見た気がする。王九がただの人間かと訊かれたらちょっと答えに困るのだけれど。そんなこんなで「硬直」が登場してからはかなり楽しめた。最初のバス戦でも王九がバスのシートを素手で突き破るシーンがあるが、この時は確か硬直とは言ってなかったはず。「あ、そういうことができる強さの人達の話なのね」と思っていたら、王九がただ硬いだけだった。

 

物語は非常に少年漫画的で、人々が熱狂するのもよく分かる作りになっていた。応援上映が苦手な私ですら、洛軍を応援したり、皆で一緒に「硬直!」と声に出すのは楽しいだろうなあと思わされる出来。ツッコミどころも交えながら、押すべきツボを全部きちんと押していく丁寧さが物語の中にある。それでいてカンフーアクションは圧倒的であり、10億円を掛けたという九龍城砦のセットも素晴らしい。こんな作品がヒットしないわけはないなあと、改めて思った。硬直に留まらず、フルタのチョコ、叉焼飯、変なお面、モニカ、ダンシングヒーローと、とにかく話題に事欠かない。登場人物の感情も、仲間を得た喜びから恩人を失った悲しみまで、たくさんのものが詰まっていた。最後に一つ言うのだが、信一がイケメンすぎる(名前がカタカナにすると「ソンヤッ」なのも面白かった)。カンフー映画には全然詳しくないが、ジャンルの裾野を押し広げるレベルの作品だと感じた。