映画『ロマンティック・キラー』評価・ネタバレ感想 大量イケメンラブコメパロディ映画

「邦画は面白くない」派の人からは予告だけでアレルギーを発症されてしまいそうなほど昨今のティーン向け邦画らしさが詰まった映画、『ロマンティック・キラー』。これがかなり面白かった。観ないのは損、というのとは少し違うのだけれど、日本の邦画って今これくらいの熱量でふざけ倒してるんですぜ、くらいの代表作にはなれると思う。魔法界の事情で誰かと恋をすることを強制させられた主人公の女子高生・星野杏子。数年前に多く見られた引きこもりや喪女ではなく、恋愛キャンセル界隈とキャッチ―な肩書きが付けられている彼女が、次々と襲い来るイケメン達とのロマンティックなドラマをぶっ飛ばしていく痛快コメディである。原作は未読だが、恋愛観が多様になっている現代だからこその内容であり、何より豊富なパロディ描写がどれもスベっていない。どころかパロディの物量でゴリ押ししてくる作風なので、スベる暇がない。既視感のある設定を持つイケメン達が次から次へと押し寄せる異常映像が非常に楽しかった。

 

監督は英勉。漫画原作の実写映画を多く手掛けている。『ぐらんぶる』、『賭ケグルイ』、『東京リベンジャーズ』辺りが代表作だが、私は今年1月に公開された『遺書、公開。』を推したい。自殺したある女子高生が自分のクラス全員に向けた遺書を1つずつ公開していく…という内容で、遺書を公開する度に生徒それぞれの裏の顔が姿を現す物語。英勉監督はジャンル問わずこういった青春実写映画を多く手掛けているため、大量のキャストがひしめく空間を見事に演出していく。おそらく映画好きには嫌われそうな、「キャストの見せ場を作るために、登場人物一人一人が少しずつセリフを発していく」手法でさえ、英勉監督の手にかかればテンポのいい作劇へと変わっていくのだ。だからこそ、『ロマンティック・キラー』の監督は適任だったと言える。大量のイケメンが登場する中で一人も埋もれず、それぞれがビジュアルできちんとインパクトを与えてくれる。間延びもせず、飽きないうちに次々と男達が立ち上って来る映像は、まさにTikTokYouTubeのショート動画全盛期時代を代表するものだった。ショート動画は映画好きと相性が悪いかもしれないが、それでも意図してショート動画のような構成でこちらを楽しませてくれる映画を作るのは技術や苦労や経験が必要なはず。個人的には、ラブコメでよく見られる変顔やネットミームに頼った演出がまったくなかったのも非常によかった。真摯な映画パロディとイケメンの物量、テイストは間違いなくあまり良くない邦画のものなのに、それがきちんと面白いのだから凄い。

 

箒の柄を使ってバッサバッサとイケメン達を薙ぎ払う上白石萌歌はキレッキレで素晴らしかったし、一方でイケメン達も壁ドンをアクションに取り入れて襲い掛かってくるなど、殺陣にもクスッとくるような工夫がされていて絶妙な塩梅。そして敵だった大量のイケメン達が最後には大量の自分と戦う際に味方となってくれるアツい展開まで。映像のあっちこっちに上白石萌歌がいるスクリーンには思わず笑ってしまった。世界線パラレルワールドマルチバースの話はオタクっぽくなってしまいがちだが、そういった部分もない。すごくサラッと誰かを選んだ杏子が大量に登場してくれることにも好感が持てた。魔法使いのリリを演じた髙橋ひかるも変わった髪型にピンクのポロシャツという派手さに負けることなく、強烈なキャラクターを演じ切っている。イケメン達も含めて、こんなにキャストがたくさんいるのに演技力の差を感じない辺りも素晴らしい。これは配役がいいのだろう。

 

大量のイケメン達が出てくるとはいえ、結果的には香月司(高橋恭平)、速水純太(木村柾哉)、小金井聖(中島颯太)の3人がメインキャラクター。それぞれ孤独な転校生、元幼馴染の野球部エース、御曹司という主人公との相性抜群の属性を持っているわけだが、最終的に杏子は全員に等しく愛を向ける、つまりアガペーの境地へと達して特定の誰かとロマンティックな関係を築くことはしない。ラブじゃなくてアガペーだ!、なんて終わり方はさすがに漫画すぎるが、元々が漫画原作なのでまったく気にならない。誰かと結ばれることはなかったため全員の記憶は消えてしまうが、4人は再び空港で再会するというラスト。パロディで散々遊んだ後はきっちりドラマで締めてくれる、メリハリのはっきりした映画だった。

 

愛の不時着、竜とそばかすの姫、名探偵コナン、君の膵臓を食べたい、刀剣乱舞などなど。観ていない作品でもセリフの妙技で「ああ、あれのパロディか!」となるのは非常に助かった。個人的には「膵臓でも食べてろ!」が好き。SATが出てくるバスジャックのシーンで映像の色調をシリアスめに変えたりとか、分かりやすい工夫もしてあって、とても面白かった。パロディばかりの映画は元ネタを知らない人を置いていきがちだが、邦画が蓄積してきた「何となく見たことある」という既視感が、日本で育った人ならうまく働くはず。上白石萌歌の演技もさすがで、あんなに誇張したヒロインをやっているのにまったくわざとらしくない。英勉監督は個人的にティーン向け邦画や漫画の実写化邦画を更に先へと進めてくれる人だと信じているので、次回作にも期待したい。

 

 

 

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