3作目の感想を書いてから2年近くが経過してしまったのだが、「映画ドラえもん展」なるものが始まると聞いて急いで映画ドラえもんマラソンを決行することにした。一応1~3作目にも再度目を通したものの、もし通しでこのブログの感想を読んでくださる人がいたら、ちょっと時間の断絶もあって感想のテイストが変わってしまっているかもしれないことをお詫びしたい。
前置きはここまでにして、『のび太の海底鬼岩城』、とにかく面白かった。3作目の感想でもちらっと触れたのだが、自分にとって映画ドラえもんの印象ってかなり邦画的というか、観客のエモーショナルを高めて感動させるような展開が多いという先入観があったので、この作品のリアリティは意外性もあって堪らなかった。白亜紀、宇宙、魔境と来て今度は海底となると、ちょっとグレードダウンした感もあるのだけれど、逆に海底を舞台にした薄暗さが自分のツボにハマったというか。もう冒頭の隊員達の描写からしてかなりSFチックでワクワクしてしまった。
ただ調べるとそのリアリティや薄暗さがむしろ枷になってもいるようで、歴代興行収入は最低だとか。そのせいで、わさびドラでのリメイクすらされていない不遇な作品。海を舞台にしたものはあるようだけれど、ポスターを見るにかなり明るい作風な気もしている。『海底鬼岩城』は監督が芝山努になって初の作品ということだが、この不振を受けて1作で降板する可能性もあったとは驚きだった。いやこんなに面白いのに…。
トーンはかなりダークで、根底には米ソの冷戦を背景にした物語が描かれており、確かに小さい子ども達の心には刺さらないかもしれない。自分もまさかドラえもんが核兵器を食い止めるなんて話を展開するとは思わず(正確には核兵器ではないが、放射能を持つ兵器なので実質核兵器である)、そこに一番驚かされた。子ども向けの映画が社会的なテーマを内包しているパターンがかなり好きな自分としてはすごく傑作なのだけれど…確かにこれに加えてトーンが明るかったらもっと楽しめていたかもしれないなとは思う。
また、90分近くの映画なのに前半は丸々海底探検にはしゃぐのび太達を描写しているのもかなり挑戦的。もちろんムー大陸側の描写も要所要所でされるのだけれど、それでも主要ゲストのエル達は出てこないまま、のび太達の海底探検が続いていく。口の悪いコンピュータのバギーが、しずかちゃんの言うことだけは素直に受け入れるという変なギャグが何度かあり、それがラスト、しずかちゃんを守るために自爆してポセイドン(アトランティスを守護するコンピュータ)を破壊するという流れに繋がっていく。アトランティスが自滅したことを知らず、ムーへの復讐を企てる自動報復プログラムが組み込まれたポセイドン。聞く耳持たずというか、人間の制御が効かなくなった負の遺産として描かれているのだが、それに対して人を守ろうとする機械のバギーが命を賭すという終わり方がすごく印象的である。しずかちゃんが「機械の良し悪しは使う人による」的なことを映画の中で言っていたのだけれど、これはAIの活用法が問題になっている現代にも通ずるテーマだなと思った。
アトランティス側の兵士ロボット、鉄騎隊もかなりホラー味があって最高。半魚人のような見た目だけれど、ロボットだから寡黙でドラえもん達をじりじりと追い詰めていく無機質さが良い。この映画のトラウマ度を上げてる要因でもあるのだろうけれど、自分はやっぱりホラー的な描写にグッときてしまう人間なので、ナチュラルに恐怖をお出ししてくれる映画はかなり好き。ただその部分が世間的には「失敗」の要因になっているようなので、次作からはまた変わってしまうのかなと思うと残念でもある。どうなるのだろう。映画ドラえもんをほとんど知らないおかげで純粋に変遷を楽しめている。
ただこの映画、別に感動するとかはなく(バギーの自爆がショックだったという意見も目にしたのだけれど、自分は驚いただけであの口の悪いキャラクターをそこまで好きにはなれていなかった)、ドラマという意味では3作目のジャイアンの決意とかのほうが全然好き。なのでこの暗めのトーンで人間ドラマがはっきりとしたものが出てきたらもう虜になってしまうかもしれない。今回は止まらず最後まで映画ドラえもんを観ていけるよう頑張る。