映画『クボ 二本の弦の秘密』評価・ネタバレ感想 ストップモーションで語られる物語の意義

KUBO/クボ 二本の弦の秘密(吹替版)

 

海外のストップモーション映画としてこんなにも日本への愛に満ちた作品が作られていることに公開当時かなり驚いたが、やはり何度観てもとてつもない傑作だと思う。ストップモーションか否かというより、これを超えるアニメ映画もなかなかないのではないだろうかと胸を張って言えるほどの出来栄え。ストーリーも面白いし、ストップモーションの出来に常に感心してしまうし、外国人の監督がここまで日本の死生観を理解できていることにも驚くし、キャラクターも立っているし、と、どこから光を当てても輝いているプリズムのような作品になっている。監督のトラヴィス・ナイトには幼少期に来日した過去があるそうだが、自身の生まれ育った土地ではない舞台と時代を題材にしてここまでの作品を作れるのは本当に凄いことである。

 

母と2人で暮らすクボ。いつも街で人々に聞かせているハンゾウの物語は、夜に外に出てはならないという母との約束を守り、結末を待たずして終わらせてしまう。ある日灯籠を川に流して死者と対話する盆の行事に参加していたクボが死んだ父と話そうとするも父は現れず、そのまま夜を迎えてしまう。残った右目を狙う謎の能面の女に襲われ、駆けつけた母はクボを庇って命を落とす。母から託された置物が変化した、人の言葉を話す本物の猿と共に旅に出ることになるクボ。道中で記憶を失ったクワガタムシのような侍と出会い、折り紙のハンゾウの指し示す方角へと3人は旅を続けていく。

 

物語自体は非常に明確と言えるかもしれない。不老不死に対して、命を繋いでいくことの重要性を対比させて説く在り方は漫画『鬼滅の刃』でも示されており、漫画やアニメの王道でもある。しかしこの『クボ』はタイトルにもある「二本の弦」を巧みに使うなど、視覚的にテーマを語っている点が素晴らしい。猿が母親、クワガタムシが父親だと知ったクボは、祖父との最終決戦で2人が遺した糸を切れてしまった三味線の弦として使い、戦いに勝利するのである。失った両親の肩身がクボを支え、消えた命を物語として紡いでいくというテーマに展開が包括されていく。こんなに気の利いた締め方はなかなかない。冒頭で物語の結末を語れずにいるクボが、不老不死の月の帝に対して「死=結末」を突きつけることに否応なしに感動してしまう。確かに両親の死はとても悲しいことだが、この映画は主人公を喪失と向き合わせた上で、命を物語ることの重要性を訴え続けるのである。何と鮮やかな作品だろうか。普遍的な人間賛歌として素晴らしい。

 

ただ、主人公のクボという名前と彼の顔つきが日本人からするとかなり違和感があってそこは少々残念。特に顔はアジア人らしくはあるが決して日本人顔とは言えず、街の人々が日本人でも通用する顔をしていることを鑑みると余計にモヤモヤしてしまう。ここまで日本の死生観を軸に据えた物語で、舞台もどう見ても日本であるのに、主役の顔の造形を敢えてアジア人風にする意味がよくわからない。何かしら制作上の圧力があったのではないかと邪推してしまった。

 

ストップモーションも圧巻で、特に三味線の音に合わせて動く折り紙には何度も感心させられる。物語の強度も十分に高いのに、ふとした瞬間で「こんなんストップモーションで撮ってるの凄すぎない!?」が襲ってくるのだ。1週間の撮影でたったの3.3秒分しか撮影できないという気が狂うような試練を乗り越えて生み出されたこの映画、私は未見なのだがBlu-ray等の特典では人間業とは思えないストップモーションの撮影メイキングが収録されているらしく非常に唆られる。エンドロールで巨大骸骨のメイキング映像に切り替わった時にもテンションが上がってしまった。何であんな大きなものを細かく動かしてコマ撮りできるのか。気が遠のくような地道な作業が彩る映像は、「物語ること」をテーマとするこの映画にまた違った熱を加えているようにも思う。

 

自分は過去3回この映画を観ていて、3回とも吹替での鑑賞なのだが、観終わる度に毎度新鮮に「川栄李奈、上手すぎる…」と驚いてしまう。彼女は悪名高い実写映画『DEATH NOTE Light up the NEW world』などでも元アイドルという世間のイメージを上塗りしていくように演技派女優としての力を印象付けていたのだが、この映画を何も知らず観た人は闇の姉妹を彼女が演じているとは絶対に気付けないのではないだろうか。何なら自分は毎回キャスティングを忘れて新鮮に驚いている。思い返しても全然川栄李奈の声には思えないので本当に凄い。

 

考察が捗るというようなタイプではないが、心を打つドラマと作りに驚嘆すること間違いなしなストップモーションアニメとしてこれからも語り継いでいきたい1作。様々な角度から楽しむことができるし、子どもも安心して観られる作りになっている。むしろ自分が幼稚園児の時にこの作品を観ることができたらかなりハマっていたのではないだろうか。それくらいのポテンシャルを持つ素晴らしい作品である。

 

 

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