ケヴィン・ファイギが初めて関わったMARVEL映画である本作。当時まだ20代だった彼は、アメコミへの造詣の深さで映画制作における重要な役職に就き、結果的に映画は大成功を収めることとなる。そう、MCUという強大なコンテンツを築いた男の伝説は、この映画『X-メン』(DVD化の際に『X-MEN』と改題される)から始まったのだ。日本版DVD特典映像ではまだケヴィン・フィージと訳されるほどの男だった彼なしでは、『X-メン』はもちろん、アメコミ映画がここまで普及することもなかっただろう。メイキング等を観ると、キャスト陣のほとんどが原作を読んでいなかったと証言している。名前は知っていた、アニメは観たことがある、作り手ですらその程度の認識なのだ。そして何より、監督のブライアン・シンガーでさえも、映画のオファーがかかるまで原作を読んだことがなかった。もちろん作り手側が原作へのリスペクトを欠かしているわけではない。実際、ブライアン・シンガーはマイノリティへの迫害が描かれた原作と、ゲイである(後にバイであることを明かしている)自身の経験を重ね合わせている。マグニートーを演じたイアン・マッケランも同様であった。しかし、どれほど作品に共感しても、原作を読んできた年数をいきなり増やすことはできない。そこで白羽の矢が立ったのが、アメコミオタクのケヴィン・ファイギだったのである。有名な話だが、スタイリストからの反対があったにも関わらず彼によってヒュー・ジャックマンの髪型はどんどん逆立てられ、原作のウルヴァリンに近いビジュアルとなった。そういった細やかな部分にも気を配り、根強い原作ファンのいるX-MENを実写映画へと落とし込むために欠かせない人物となっていたのである。
後に20世紀FOXがディズニーに買収され、X-MENシリーズがMCUの仲間入りを果たすことになるのは周知の事実であろう。しかし、MCUなどなかった2000年、『ブレイド』の成功に後押しされたとはいえ、スーパーヒーロー映画はまだ舐められていた時代である。原作の知名度の高さは諸刃の剣であり、原作ファンと映画の観客、両方を満足させるのはとてもハードルが高いことだったはず。だが、この映画は原作の雰囲気を実写化するだけという視野狭窄に陥らず、かといって原作ファンを蔑ろにするようなものを作るでもなく、原作要素と映画的面白さの両輪を常に意識していた。ビジュアルや設定を原作とまるっきり同じにはしないが、精神性は受け継ぐ。そう、正に漫画実写化の正道を往く志の下に作られていたのである。X-MENのコスチュームは黒一色で統一された地味なものとなり、本来低身長であるはずのウルヴァリンには188cmのヒュー・ジャックマンが起用された。身長に関して言えばジーン役のファムケ・ヤンセンも182cmと非常に高く、178cmあるスコット役のジェームズ・マースデンが他メンバーより低く見えるほどである。だが、映画制作陣はそうした細かな原作再現に拘ることはせず、X-MENの持つマイノリティヒーローという側面を強調した映画作りに腐心した。結果的に映画は世界で2億9000万ドルを超える大ヒットとなり、以降X-MENシリーズに度々続編が作られただけでなく、その他のアメコミヒーローも次々と映画界に現れることとなる。そう、『X-メン』がなければ現代の映画界はなかったかもしれないのだ。
私もこの映画はかなり好きな部類に入る。初めて観たのは日曜洋画劇場だと思うのだが、1回か2回観ただけなのに各シーンが妙に印象に残っている。警官の銃を操るマグニートー、エレベーターから出てくるストーム、ミスティークの変身エフェクト。以降の作品を観ていても思うが、やはりブライアン・シンガーは印象的なカットを作り出す天才なのだろう。冒頭、議会を去るマグニートーをプロフェッサーが追いかけ、2人が廊下で対峙する場面。カメラに顔を向けているはずのマグニートーの顔が影でまったく見えず、プロフェッサーの方を振り向いてようやく彼の顔がはっきりと表れる演出に心底痺れる。特に何かが起きたわけでもなく、能力すらお互いに使っていない。非常に地味なシーンのはずなのだが、演出の力で意味深なシーンに仕上がっているのだ。シンガー監督は常に地味ながら印象的なカットを積み重ねていく。ミュータントにされた議員が鉄格子を抜ける際の薄気味悪いCGも、プロフェッサーがセレブロを使い世界中のミュータントと繋がる演出も、派手さはないがすごく独創的で、鮮烈に記憶に刻まれる。車を浮かせて落とすような真似ができるマグニートーにはもっと派手なことをさせてもよさそうなのに、なぜか少し地味なアクションになっている。だが、それが良い。ローグを追って電車を真っ二つにしていくシーンも、映像の派手さよりも先に「な、なんだこの演出!」という凄味が来る。彼の演出は、アメコミ原作の本作と非常に相性が良かったのかもしれない。過剰な馬鹿馬鹿しさがなく、地に足の着いたSF映画になっているのだ。
ただ一方で、物語はかなり粗が多い。そもそもX-MENという作品自体が多くのミュータントの苦悩を描く作品だが、本作ではウルヴァリンとローグに焦点が当たっているため、群像劇としての面白さや他者との和解、マイノリティであるミュータントの心の交流といった心理描写が控えめになってしまっている。それでいて、ウルヴァリンとサイクロップスがジーンを巡っての恋敵であるという原作要素などはきちんと盛り込まれているのだ。ウルヴァリンがジーンに惚れるようなきっかけがないため、これではただの軟派男に見えてしまう。何より、重要人物であるはずのウルヴァリンとローグでさえ、その関係性が緻密に描かれていたとは言い難い。2人の出会いが彼等の運命を変えることになったのは事実で、実際ウルヴァリンはローグを助けるためにX-MENの一員としてマグニートー率いるブラザーフッドと戦うことになるのだが、圧倒的に2人の描写が足りておらず、あれほどまでに一匹狼を気取っていたウルヴァリンがチームの1人となることへの説得力がほとんどない。VFXに頼り切らないアナログっぽさを感じるアクションは趣もあって素晴らしいのだが、一方で話の作り込みの弱さにどうしても気が散ってしまう。プロフェッサーとマグニートーの関係性も、演者の凄味と演出で意味深に見せることには成功しているものの、やはり物足りなさを感じた。
私は小学生の頃、そこまで映画を観るほうではなかった。映画館になどほとんど行かなかったし、家で映画を観ることもほぼなかった。そんな私がなぜ日曜洋画劇場で放送していた本作にワクワクしたかといえば、やはり超能力者がたくさん出てくるというX-MEN自体の設定なのだろう。当時の私が好んで読んでいた漫画も『ONE PIECE』など多種多様な能力が出てくる作品だった。能力バトルこそが一番面白いと感じていた私にとって、X-MENはドンピシャだったのである。小学校や中学校の授業で『スパイダーマン』を観ることもあったのだが、ひねくれていた私は「いやX-MENのほうがたくさん強いキャラが出るし面白いぜ」と、スパイディに黄色い声援を浴びせている同級生を見下していた。斜に構えていたのもあるが、たくさんのミュータントが入り乱れるX-MENのほうが面白いと本気で思っていたのだ。ドラマなどまったく興味がなく、ただ能力者達の活躍を楽しんでいたのだと思う。そしてこの映画の派手さはないがどこか印象に残る能力者バトルは、しっかりと少年時代の私の心に刻まれた。洋画にこういう表現は合わないかもしれないが、ブライアン・シンガー監督のカットにはわびさびが存在していたのだ。
サイクロップスならもっと的確に能力を使うだろうに、バイザーを奪われて天井を破壊するのが一番の活躍というのが非常に勿体ない。天気を操れるストームも、なぜか地味な突風で頑張る羽目になる。今になって観るとどう考えてもエフェクトがしょぼい。当時の技術でも、もっと工夫できた箇所はあるはずだ。しかし、その地味さにこそ映画の個性が宿っている。実際監督が変わった3作目の『ファイナル・ディシジョン』を初めて観た時にはしっかり違和感を覚えた。どちらが良い悪いかではなく、「何か違うな」程度のものだったのだが、監督の名前を気にしなかった頃の自分でもはっきりと違和感を感じ取ったのである。
映画の出来には課題が残ったと言えるし、おそらく原作ファンの満足度も比較的高かったのだろうが、個人的には好きだからこそ非常に物足りなさも感じてしまった。ミュータントにはわびさびアクションだけでなく大暴れしてほしかったし、物語がどうにも微妙で心情が追い付かない。アニメ『X-メン』を観た今なら分かるが、たった30分でもこの映画より面白いエピソードがいくつもあった。脚本に関しては、明確に「つまらない」と言えるレベルなのである。小さい頃に観たという思い入れがなければ、この映画を酷評することになっていただろう。だが、そうした個人的な感情を抜きにしても、本作がMCUに続く一連のMARVEL映画の契機となったのは揺るぎない事実であり、ここからケヴィン・ファイギの伝説が始まっていく。絶大なインパクトを観客全員に与えることはできなかったかもしれないが、歴史上非常に重要な映画であり、映画史に名を刻むべき映画であると私は思う。
なお、下記UHDを購入すればこれまでの円盤に収録された映像が全て観られる模様。私は廉価版Blu-rayを持っているくせに、Blu-rayに収録されていない特典を観るためだけに、今なら数百円で手に入れられるDVDのアルティメット版を買って3時間を超える映像特典を観たが、この版には隠しコマンドのNG集が収録されていないらしい。撮影中にスタッフのお遊びでスパイダーマンが乱入する映像があるようなので観たいのだが、UHDは金額もそれなりなのでなかなか手が出しづらい…。

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