映画『ワイルド・チェイス』評価・ネタバレ感想 シリアスとコメディが同居する良作

ワイルド・チェイス(字幕版)

 

『マイケル』公開が迫っていることもあり、アントワーン・フークア監督の過去作をざっと観ていこうと思う。1作目の『リプレイスメント・キラー』はデビュー作にしてなかなかの怪作で、切れ味のあるアクションがふんだんに盛り込まれた意欲作になっていた。フークアはアクションやカメラワーク、画作りが魅力的だなということを再認識した上で2作目の『ワイルド・チェイス』も鑑賞。日本では公開されずビデオスルーとなってしまったようなのだが、これがなかなかに面白い。Filmarksで3.1だったことが信じられないくらいに楽しむことができた。

 

冒頭、金塊泥棒の1人が縛られた警備員を銃殺し、それを見た相棒が金塊を奪って車で逃走する。裏切られた泥棒は必死に車に向かって銃を撃ち続け、タンクローリーを巻き込んだ大事故へと発展しそうになる。人殺しから逃げる男の焦り、タンクローリーが後ろから近づいているにも関わらずまるで微動だにしない男、緊迫感抜群の描写が並びながらも、ジェイミー・フォックス演じる主人公のクルマエビ泥棒=アルビン・サンダースがドーベルマンに追いかけられるコミカルなシーンが並行して描かれていることで、よりメリハリの効いたオープニングに。シリアスとコメディが同居しながら縺れ合っていく作品の構造自体をうまく表した素晴らしい導入である。

 

ジェイミー・フォックスの馬鹿さは比較的落ち着いた人物の多いこの映画の中では浮いているが、エビを盗んでしまう以外はほぼ善人の彼の存在は救いでもある。核ミサイルのセキュリティすら突破できてしまう上に人を殺すことに躊躇いがない犯人、その犯人を逮捕するためなら手段は選ばない刑事。これらの執念だらけのキャラ達に囲まれると、罪人であるはずのアルビンがすごくまともに見えてくるのも面白い。そんな彼は刑事によって知らない間に顎に盗聴器を埋め込まれ、おとり捜査に利用されてしまう。全ては彼が留置所で金塊泥棒の1人と同じ房に入れられたことが原因だった。

 

逮捕から18ヶ月後、おとり捜査のために釈放されたアルビンが恋人を訪ねると、なんと刑務所にいる間に自分の息子が生まれていた。恋人と息子を守るために彼は悪事から足を洗うことを決意するものの、警察は盗聴器によって彼のプライベートを監視し、真犯人を誘き寄せようと画策していた。映画が比較的リアル寄りのルックだった分、人権を完全に無視した荒唐無稽な設定に驚く。しかしオープニングでもレントゲン写真が意味深に映されていたりと、確かに変な映画の片鱗はあった。真犯人の冷酷さと刑事の容赦ないやり方についついシリアスめいた空気感を感じ取ってしまうが、実際はかなり馬鹿げた話なのである。

 

自分に仕掛けられた盗聴器の存在に気付く辺りから、アルビンもシリアスな空気に呑まれていく。ただ、発覚した契機が車のラジオの周波数と重なり、スピーカーから自分の声が聞こえてくる、しかも顔を殴られた拍子に盗聴器が故障して警察が情報を得られなくなる、というのはなかなかテキトーな仕組みに思う。その後犯人に恋人と息子を人質に取られ、知りもしない金塊の隠し場所へと案内させられるアルビン。適当に競馬場を選ぶも、車に爆弾を仕掛けられ家族が大ピンチ…!からの馬に乗って逃走し競走馬に対して逆走、家族を助け出し競馬場で大爆発…!というスぺクタルはかなり素晴らしく、変な映画なりの面白さが際立っていた。金塊を盗んだ男が留置所で言っていた動物園は実は野球場のことだったと判明し、金塊はホームベースの下に埋められていたというオチなのだが、男があんな短時間で球場に忍び込み埋められるのか…とは思ってしまった。重機を扱えるみたいな話はあったが、それにしたってなかなかな締め方である。

 

話は荒唐無稽ながら、演出は圧巻の出来で、この時点で既にフークア監督の凄味が表出している。アクションとコメディのバランスが良く、緊迫感のある演出も絶妙。犯人の、冷酷だが相棒やアルビンに出し抜かれる愛くるしさなども素晴らしかった。不満がないわけではないが、これから偉大な監督となる彼の初期作としては申し分ない。原題は『BAIT』、つまり「餌」という意味で、知らないうちにおとり捜査に巻き込まれた主人公の境遇を端的に表しているのだが、邦題は『ワイルド・チェイス』と、無味乾燥なタイトルになってしまっているのが惜しい。これではワイルド・スピードシリーズのスピンオフかと勘違いされてしまう。実際ワイルドでもないし、チェイスという感じもそこまでしないのだが…。

 

 

ワイルド・チェイス(字幕版)

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