スーパーヒーロータイム語り ギーツ第4話・ドンブラ ドン30話

ここに来てドンブラザーズの縦軸が大きく動く動く。ここから最終回までずっとこのペースでいくつもりなのだろうか。逆にギーツは一ヶ月が経過し、手堅く各キャラクターを見せられる段階に突入しているなあという印象。今週もどちらも良かった。

 

 

 

 

仮面ライダーギーツ 第4話『邂逅Ⅲ:勝利条件』

先週に引き続き、祢音ちゃんをメインに据えたナーゴ回。ゾンビに噛まれてしまったナーゴとダパーンを巡る、ゾンビ退治の第3フェーズが開始される。残りが1フェーズになってしまったせいで開始早々変身し、ライダーバトルを勃発しかねなくなっている状況には笑った。景和くんもバッファも、完全に無駄な変身だっただろ…。

ゾンビ化する恐れがあるから拘束しておこうっていう展開と、そのゾンビ化しそうなやつすらも利用する展開は、いかにもゾンビ映画という感じがして好き。ただ、ライダーではなかなか見られない構図なので新鮮だった。

 

今回は主に祢音のゾンビ化による絶望⇒諦めず勝利という点に軸が据えられていたが、「ジャマトを一旦倒せばそこでのペナルティ等は持ち越されない」というルール、もう正直特撮ヒーロー作品慣れしているとお馴染みなので、逆に盲点だった。最近のスーパー戦隊などに、「敵を倒したら喰らった毒とかが治るの意味わからん」といちゃもんをつけてくる人もいるが、それも含めての様式美として認識しているので、今更…という感じがある。今回祢音が噛まれたことに絶望したのは「この先ゾンビ化して終わるのかあ…」という絶望だったようなのだが…。正直ゾンビ化はジャマト倒せば治るなんて大前提だと思っていたので、その辺りで初見時はあまりのれなかった。

 

しかし2回観て祢音の心の動きがはっきりと分かると、キャラクターを立てる序盤の回としてしっかりと機能していることがよく理解できる。母親に束縛され、自由のない暮らしを強制されていた祢音。端から見れば金持ちが道楽で動画配信をしているようにしか思えないかもしれないが、彼女にとって「家出」は自分らしく生きるために必要な道なのだ。「家出」を果たした先で楽しく暮らす、運命の人と幸せになることを夢見ていた少女が、ある日突然生き残りゲームに巻き込まれて死を覚悟するというのは、あまりにむごい展開である。

 

このむごさがニチアサ風味で若干マイルドになってしまっていたのが残念。漫画とかならもっと絶望的な演出や祢音が思いつめるシーンで徹底的に絶望感を演出できたかもしれない。それと気になったのは、運命の出会いを求める少女が戦いに参加させられて死の一歩手前まで行く、というプロットにおいて、どう考えても「お金持ち」設定がノイズにしかなっていないということ。これなら普通にどこにでもいる女子高生とかの方が、より共感できた気もしている。母親から束縛され続け、家出を夢見る少女というのが、ちょっと浮きすぎているようにも思えた。

 

祢音の母親(いるみって言う名前らしい。ゾルディック家かよ)も、祢音が誘拐されたという過去があるからこその過保護(さすがにGPSてんこもりは笑う)なので、その心情を汲み取れていない祢音がちょっと嫌な奴にも見えてしまう。ただ、これは意図的なものなのか、それとも観てるこちらがそう受け止めてしまっただけなのかはまだ分からない。令和ライダーはこういう作り手と視聴者の齟齬が気になる作品が多かったので、ギーツこそは大丈夫だと思いたいところ。

個人的には今後祢音が脱落し、次のデザイアグランプリで母親が参戦して「祢音が居る世界」を望む…とか、無限にキャラクターを参加させることで幅を広げられそうな設定と土壌ができているからこそ、今後の展開には期待したい。景和が脱落して景和の姉が参戦とかもありそう。仮面ライダーとしての敷居が極端に低い作品なので、「誰がライダーになるんだ!?」が全く読めないのが面白いし、誰でもライダーになる可能性がある辺りが凄い。

 

作り手と視聴者の齟齬で言えば、今週は景和くんがやはりちょっと「ダメ人間」として描かれている側面があってよかった。もちろんまだまだ油断はできないのだが。

第2話までで視聴者とリンクする視点を持つも、あまりにスカスカの綺麗事しか言わない虚しい若者で、「願いを叶える」戦いにおいては邪魔者でしかない景和。ライダーバトルの概念がデザイアグランプリにあれば城戸真司なみの活躍も期待できたが、バトル禁止のゲームであるため、本当にスカスカな人間になってしまっている。自暴自棄になった祢音にも「死ぬなんて言葉、簡単に使うなよ。大丈夫。人はそう簡単に死なないから」と、人生経験が乏しいくせに薄っぺらいセリフを吐く浅はかさが本当にきつかった。何ならギンペンのことで「人は簡単に死ぬ」を見てきたんじゃないのか、お前!?とツッコミたいくらい。

 

しかしそこに祢音が「気持ちだけじゃどうすることもできないことだってあるんだよ」と反論する流れが気持ちいい。『セイバー』や『リバイス』はこういう「薄っぺらい綺麗事」を振りかざす主人公達が多く、キャラクターの信念から出てない浅い言葉で悩んでいる面々が説得されていく様がどうにも観ていてきつかった。言っていることは正しいが、私が観たいのは名言botが綺麗事を並べる作品ではなく、キャラクター達の生き様が織りなす物語なのだ。景和くんにはそういう意味で令和ライダーっぽさを感じていたのだが、祢音や英寿がその空虚さに対してビシッと反論できるキャラクターで本当に良かったと思う。今の景和くんは突然オンラインゲーム始めるのに納得いかないプレーを味方にされて怒ってるガキにしか見えないので…。

 

これから景和をどう転がすかが『ギーツ』という作品におけるキモになってきそうな部分もある。他のキャラクター達を見せることで相対的に英寿の株を上げていく構成が続くが、次週のバッファとの戦いはどうなるのだろうか。

英寿が「願いを叶えるのは努力の対価に過ぎない」と言っていたことから、やはり英寿の目的は優勝ではなくデザイアグランプリの謎を解くことや人を護ることにあるのだろうか。英寿の目的が明かされた時こそ物語が一気に進むタイミングだと思うので、年末辺りに怒涛の展開をやってほしい。

 

アクション面でいうと、今週は変身シーンが良かった。ギーツとタイクーンのビルから飛び降りてのダブル変身。ナーゴの高い所から飛んでクルリと回っての華麗な変身。まだ変身ポーズすら定着していない段階なのに、変化球を出してくる面白味が杉原監督らしい。後はブーストバックルが本当に「強い」と演出されてるのも良かった。主人公がアイテムがドロップしないせいで全然基本フォームになれない構図は新鮮。

欲を言えばギーツがブーストバックルを使った時のキツネが大好きなので、ナーゴなら猫を出してほしかったとか…そういう気持ちがある。バイクにはもう乗らないのだろうか…。

後はゲームマスターの仮面がしれっと変わるの、アレはダメです。謎ばかりの作品で混乱させるようなことはダメ。毎回変わったら面白いけど。

 

 

 

 

 

暴太郎戦隊ドンブラザーズ ドン30話『ジュートのかりゅうど』

先週のジェットコースターぶりがすごかったが、今週も話が動く動く。ただのシチュエーションコメディでも充分面白いのに隠し玉を一気に放出してブーストをつけるこの感覚、『仮面ライダー555』を思い出してしまう。気付けばもう30話で、残り20話あるかないかというのがとても寂しい。

 

思えばキジブラザーとイヌブラザーという、等身が通常と異なるCGのヒーローという情報に度肝を抜かれ、イヌが逃亡犯でキジが既婚者という設定に驚かされ、犬塚と雉野の愛する存在が同一人物かもしれないのにずっと核心には触れずやきもきさせられ…。とにかく長い間、私たちはこの2人に翻弄され続けた。そんな2人を繋ぐ存在が、雉野みほor夏美。獣人だと自分から明かし、タロウに接近してきたことにより、ある程度夏美の事情を把握することもできた。おそらくは勝手に作られ勝手に命を奪われることに悩む、哀しき存在こそが獣人。そしてタロウはそんなみほに共感したのか、それともドン家の一員として責任感を覚えたのか、脳人との共同戦線を解消する(というか戦っていないが)。

 

みほが獣人だろうということはこれまでの描写から自明だったが、井上脚本の爆発力は視聴者と各キャラクターの情報量の差。視聴者がある程度の状況を把握したことで「ってことはコイツが真実を知ったらヤバくないか!?」と最悪の想像をさせたところで、そこに更に独自のスパイスを加え、こちらの予想を超越していく。今回はその「最悪の想像」を掻き立てるシーンが非常に多く、情報量もかなりあって、とても見ごたえのある回だったと思う。個人的にははるかのおばさんの「誘拐に松竹梅があるとするなら…これは、松ね!」というセリフが聞けただけで満足だった。身内の誘拐から「はるかのおばさんを救わねば!」と安易に流れるのではなく、とにかく情報量を増やして熱量を上げていくスタイルに感服してしまう。

 

誘拐犯の割に妙に礼儀正しいアノーニに笑ってしまうし、食べ方も粗雑で金すら払わない獣人と妙な対比構造にさせられているのも面白い。というかドンブラザーズ、確かに身内が居ないので驚く。ジロウには故郷に恋人や仲間がいるけど、アノーニも「ジロウじゃだめだな」とか思っていそう。

「獣人は折り紙を折る。猫を折る者は~」という言い回しも、とても詩的で惹かれた。獣人にも階級か派閥があることが明かされ、それぞれが対立することもあるらしい。みほが言っていたペンギンというのは、ネットで考察されている通りマスターのことなのかもしれない。そうなると、はるかの漫画やビーフストロガノフを完コピしていた椎名ナオキも、はるかの獣人という可能性がある。しかし、この『ドンブラザーズ』という作品は常に視聴者の予想を裏切り上回ってきた。予想が当たっても嬉しいが、きっとそれ以上に予測不能なドラマが展開されるだろうし、予想など無意味なほど突飛な新キャラがペンギンの可能性も全然ある。しかしそれら全てに「面白くはなるだろう」と安心して期待できる土壌を築いてきたことが本当にすごい。ドンブラザーズ、もう面白いことが決定している。

 

キャラクターについて。

当初こそ私は、視聴者に近い目線(一般人)の雉野が好きで、気取った犬塚をあまり好きになれなかったが、今では好感度は逆転している。雉野の調子の良さにちょっと嫌気が差していて、何も知らされず孤独に生きながらも、目の前で困っている人を見捨てない犬塚に特に魅力を感じるようになった。美人な嫁に依存しきった雉野は、あまりに一般人すぎてどこか観ていてつらいものがある。逆に愛する人を奪われても、飄々とした風を貫く犬塚に、ヒーローとしての何かを感じてしまうのだ。人間をコピーするという獣人の性質からすると、雉野がみほと幸せに過ごし、犬塚が夏美を取り戻す展開も大いにあり得る。しかし逆に、みほが何らかの形で命を落とし、夏美も死んでしまうという可能性すらある。

 

とにかく設定が一気に開示されたことで、視聴者の想像力をフル活用させにくるとんでもない回だった。しかしヒトツ鬼は「辛いもの食べたい!」だけで怪物になってしまうようなレベル。メインじゃないところはどんどん雑になっていくのが敏樹らしくて逆に良い。

ここに復活したソノイや元老院、ムラサメやタロウの父親、マスターなどはどう絡んでくるのだろうか。来週は遂にイヌブラザーの正体が明かされるという感じの予告だったが、全く知らない金髪の男が出てきてたので、結局イヌブラザーの正体は分からないままになる気がする。でも犬塚が雉野みほのことを知ってしまったのには変わりがないんだよな…。また来週に期待したい。