凄く楽しみにしていた新作だったのに、びっくりするほど自分に合わなくて結構落ち込んでしまっている。そう、日本公開は2作目以来7年ぶり、『パディントン 消えた黄金郷の秘密』の話である。
自分は『パディントン』1作目が大好きで、2作目は「そういえば観てなかったな…」とつい数日前にサブスクで鑑賞したのだけれど、観なかったことを後悔するくらい素晴らしい出来だった。1作目と地続きのテイストで、紳士すぎる熊、パディントンの素敵な物語が紡がれていた。ブラウン家に迷惑が掛かっていると感じて「僕がいなくなって幸せになりますように」みたいな書置きを残して家を去るパディントン、ブラウン家が面会に来れなかったことで捨てられたのではと不安になり、独房で寂しさを募らせるパディントン。自分はパディントンの素直さが好きで、その素直さに起因した暗い感情に囚われる瞬間も好きだった。3作目の本作も、パディントンの本質は変わっていない。キャラクター達もそこまで大きくブレたなんてことはない。強いて言えばブラウン夫人役の役者さんが交代しているが、それも事前に知っていて割り切っていたので問題ない。
では何が問題なのか。簡単に言うなら「物足りなさ」である。2作分で上げ切ったハードルを余裕で潜り抜けてきた感覚。ギャグが全然ハマらないし、ゲスト敵キャラも前2作に比べてパンチが弱い。最後のパディントンのブラウン家への申し出は、すごくいいと思う。けれど、映画全体がその言葉に向かっていたようには感じられず、初めてパディントンの言葉が空虚に感じられてしまった。前2作とは異なりペルーが舞台になったことで一抹の不安はあったわけだが、私が感じたのはむしろ舞台設定よりも演出やテンポ、シナリオの諸々である。
まず単純にギャグが弱い。これは好みなのでもう仕方がないと割り切ってはいるのだけれど、自分は1作目の『パディントン』がコメディ映画として本当に大好きで、もう子どもとは言えない年齢だったにも関わらず劇場で笑い声を押し殺して鑑賞するほどに楽しかったので、3作目には心底ガッカリしてしまった。1作目公開から時を経てこっちの笑いの感性が変わったのではないかとも疑ったが、ついこの前1作目を観た時も「あ~ここ面白いんだよなあ」と同じ場面でニコニコしていたので多分そういうことではないだろう。単純に3作目のコメディがハマらなかったのだ。
冒頭、パディントンが証明写真を撮るところなんかはすごく好きで「あ~これこれ!これこそパディントンだよ!」とかなり期待できるオープニングだった。だが、やはり辛かったのはゲストのカボット親子と老グマホーム院長が全然魅力的に描かれなかったことである。まして2作目のフェニックス・ブキャナンを知ってしまった後では、あの3人にブキャナン以上の思い入れを持つことは難しい。5人の先祖の幻影を見るハンターのキャラクターは悪くなかったが、セリフがことごとくスベっていたように感じられた。娘のジーナはハンターの娘、ハンターにとっての大切な人としてしか機能しておらず、彼女自身が物語を動かしていくわけではない。とりあえず配置されたような雑さ。院長は『サウンド・オブ・ミュージック』風の登場にワクワクさせられたが、怪しいシスターが最終局面で敵としての正体を現すというギミックに終始してしまい、キャラクターの奥深さはあまり描かれなかったように思う。
総じて言うと、ゲストにほとんど魅力を感じられなかったのだ。だからこそ、最後の最後にブキャナンが登場した時の嬉しさは半端ではなかった。斎藤工の落ち着いたトーンで未だにピンクの囚人服を着た彼がスクリーンに現れた時、「やっぱりパディントンにはこういう強い悪役が必要だよなあ」と、この映画の欠けた部分に気付かされてしまったわけである。数日前に観たはずなのに早くも『パディントン2』が恋しくなっている。
また、何故か今回はブラウン家とパディントンの関わりも、前2作に比べると薄い。確かに毎度毎度パディントンとブラウン一家の話をされても飽きてしまうのだが、ジュディとジョナサンは今回ほぼ空気だったのではないだろうか。何ならブラウンさんも飛行機の車輪を出すくらいのことしかしていない。マニュアルを投げ飛ばして「マニュアルはやっぱり役に立つな」とこぼすシーンは好きだったけれども。
パディントンと言えばやはりルーシーおばさんへの手紙でブラウン一家の近況が取り上げられ、それが映画の後半に重要なファクターとして現れる、「秀逸な伏線回収」が醍醐味。そのためジュディがレコーダーに音声を吹き込んでいるのとか、ジョナサンが部屋から出なくてもいいように発明をしているとか、そういうのが物語にどう活きていくのか期待していたのだが、結果的にそれらを発揮するシーンはなく、パディントンが最後におばさんに向けた手紙で顛末が語られるのみ。オタクになったジョナサンが列車を運転できるとか、『2』みたいな「おおっ!」と驚くシーンは一切なし。つまりは冒頭の手紙のシーンは「家族がバラバラになっている」ということの説明でしかない。その上ペルーに行った後でブラウン一家の考えがまとまらない…というようなこともないので、最終的にパディントンがブラウン家に留まることを選び家族が一つになることさえ、ご都合主義に思えてしまう。これが普通のファミリー向けコメディ映画なら「まあ悪くない結末だな」と全然見過ごすのだけれど、過去2作で期待値が跳ね上がっていたことが災いし、自分はこの3作目のお粗末さを見過ごすことができないでいる。
後は過去2作で続けてきた天丼的ギャグがなかったのもすごく残念。女装ネタとか本当に好きだったのに、どうして…。あと過去のブラウン夫妻、ブラウンさんのハイテンションっぷりと、その過去が活かされる流れ(『2』でボールをブキャナンに命中させたのも大好きだった)。舞台をペルーに変えたのだから、あの頃のワイルドなブラウンさんの面白さを発揮することはできただろうに、どうして今作はなかったのだろう。その辺りがオミットされた結果、自分の中では「爆発のないコナン映画」みたいな感覚に陥ってしまった。期待したこっちが悪いのだけれど、恒例だと思っていたものが観られなかった不完全燃焼感がやはり尾を引いている。
繰り返しになるが、別にパディントンのキャラクターに強烈な違和感を覚えるということはなく、単に自分がパディントンシリーズに求めているものが結構ごっそりオミットされていたというだけ、だけなのだが…。その原因はやはり監督の交代にあるのではないかと勘繰ってしまった。前2作で監督を務めたポール・キングは今回は製作総指揮と原案でのクレジットのみ。脚本に関わっていると思っていたのだけれど、パンフレットを読む限り原案に留まっているようなので、大体の肉付けは本作の監督であるドゥーガル・ウィルソン等が行ったのではないかと考えている。そしてその肉付けが、自分が『パディントン 黄金郷の秘密』を受け入れられなかった理由に繋がっているのかなあとも。
別にテイストが大きく変わったわけではないし、悪くないコミカルなシーンもあるのだけれど(船を操縦しようとするパディントンもかなり良かった)、前2作で脚本の上手さに感心させられた身としては、何か違うなと違和感を覚えてしまった。ポール・キングよ、もう一度監督として戻ってきてはくれないだろうか…。