集めてたけど読んでいなかった漫画をどんどん読んでいこうということで、年末年始休暇のスタートに『マッシュル -MASHLE-』を選んだ。これが大正解。ハチャメチャに面白い。クリーピーナッツのアニメ主題歌が大流行したので名前だけは知られていると思うのだが、あんまり読んでいる人を見かけないのはなぜだろう。オープニングだけが独り歩きしているのか。とはいえジャンプで4年近く連載していた作品なので知名度や人気も漫画の中では高い方なのだろうけれども。
私が『マッシュル』を読むのは2度目。ジャンプを定期購読している(主にワンピースのためなのでそれ以外の作品は1年以上溜めてしまっている)ので、一通りは読んだはずなのだが、正直内容が頭に入ってこなかった。いつの間にか終わったなという感想。多分自分の中で優先順位が低い作品になってしまっていて、話を理解しながら読むのが億劫になっていたのだと思う。コンテンツが飽和状態の現代社会なのでこれくらいは許してほしい。それなのにどうして漫画を全巻買い集めていたのかというと、序盤に光るものを感じたからである(なんと全部初版で買っている)。魔法が日常的に使われるファンタジーな世界で、魔法の使えない主人公が筋力だけで戦うという、ジャンプらしからぬストーリーが面白く、序盤に顕著だったハリポタパロディも結構好きだった。そこから1巻、2巻と手を出し、気付けば最終18巻まで。ちなみに今回単行本で読破したところ、7巻以降は全てビニール包装さえ破っていない未開封状態だった。何たる体たらく。
年末の大掃除も兼ねて2周目の読破に挑んだわけだが、前述の通り、これがかなり面白い。ジャンプで流し読みするのも可能なくらいストレートな物語ではあるが、前のめりになって読めば読むほど面白味が増していく。今更だがすごく好きになってしまった。アニメは全然手をつけられていないのだが、YouTubeでPVを観て各キャラが動いていることに感動している。本当に今更。そんなこんなで2025年の暮れにこのスーパー面白漫画『マッシュル』の感想を書いていきたいと思う。インタビュー等には手をつけられておらず、単行本に書かれていること以外のことは知らないため不勉強を晒すことがあるかもしれないし、全巻読んだので当然最終話までのネタバレも込みだが、それらはどうか見逃してほしい。
・シリアスとギャグの緩急
『マッシュル』がなぜこんなにも面白いのか。その最大の理由が「シリアスとギャグの緩急」。当初は魔法は使えない主人公が魔法学校に入学して持ち前の筋力でどうにか頑張って周囲に認められ金の硬貨を手に入れる…という筋でスタートし、露骨なハリー・ポッターパロディが繰り広げられていた。サブタイトルも「マッシュ・バーンデッドと〇〇」などの形で統一されており、ハリポタを意識していることは間違いない。
連載当初はコロナ禍。『呪術廻戦』や『チェンソーマン』がまだ若手ながら人気を獲得していて、アニメ化した『鬼滅の刃』が同期の『約束のネバーランド』を追い越し、どんどん育っていった時期。もちろん『ONE PIECE』や『僕のヒーローアカデミア』『Dr.STONE』など、明るい作風のものもあったものの、今となってはジャンプの主流がダークなトーンへと移行しつつある時期だったと言えるかもしれない。そんな中でギャグ満載のバトル漫画としてスタートしたのが『マッシュル』。正統派魔法バトルだと『ブラッククローバー』と完全にかぶるが、当時はジャンプで魔法ファンタジーといえばブラクロ一強である。実際今でもジャンプの魔法もので人気作と聞くとブラクロが最初に浮かぶ人は多いのではないだろうか。
しかし、『マッシュル』はダーク寄りになっていたジャンプに反抗し、魔法ファンタジーものとして第一線を駆け抜けていたブラクロにも噛みつく勢いで、誌面にカウンターを喰らわせた。魔法が日常で使われている世界観の中心に、レイヤーを違えたようなパワータイプの主人公を配置し、強力な魔法の数々を筋力で攻略していく。敵から放たれた光球は手で払いのけ、箒に乗って空を飛べと言われれば、大きくひざを曲げて大ジャンプし、箒に跨ったまま足をバタつかせて無理矢理浮遊状態を保つ。脱力感のある絵や、マッシュの馬鹿力を目の当たりにした周囲の若干引いているリアクションも絶妙。魔法界あるある(というか主にハリポタが作った印象)をその身一つでぶち破っていく面白さは、魔法が使えない者を見下す輩をグーパンで葬るマッシュの実力と相まって、爽快感に満ちていた。
魔法学校に入学し、金の硬貨を集め、神覚者の仲間入りを果たす。それがこの物語におけるマッシュの目的である。マッシュが魔法を使えないと知った魔法警察のブラッドは、彼を見逃す代わりに神覚者になった後の権利や金銭を要求してくる。マッシュはそれまで育て親のレグロの言いつけでほとんど外に出ていなかったにも関わらず、レグロとの生活のために神覚者になる道を選ぶ。正直第1話からして動機づけがなかなか急で無理があるように思う。実際その後ブラッドはほとんど登場せず、最終回で彼との約束も実質なかったことになってしまった(それはそれとしてマッシュは実力を買われて神覚者にはなったが)。序盤で寮の説明をしていないのにしれっとドゥエロの回で寮の設定が出てきたりと、かなり行き当たりばったり感は否めないスタートだったことは確か。だが、弱者を見下すクズキャラ達と次々とマッシュに感化されて仲間になってくれるキャラ達のおかげで、どうにか王道作品の体裁を保っていた。そしてその王道の後に、マッシュが筋力で全てを片付けてくれるのだ。
作品の理から外れた存在、つまり主人公がとにかく最強という設定は、ライトノベルで言うところの「なろう系」では主流だが、ジャンプにおいてはなかなか見ない設定。主人公は最初は弱くともガッツを持ち続け、修行と努力を重ね、周囲と手を取り合って強敵を倒していく。それこそがジャンプの王道ストーリー。しかしマッシュルはマッシュが実質最強なため、マッシュ自身の挫折や苦悩はほとんど描かれない。代わりにレインやドットなどのサブキャラが悩み葛藤し、新たな力を身に着けて成長していく。そう、この作品はマッシュ以外がとにかく王道をやっているのだ。
アザの数で実力が決まり、強者が弱者を見下すことの多いこの世界。魔法を使えないアザのないマッシュが実力で制し、それ以外のキャラクターも順当に成長していく。「シスコン」や「モテない」などテンプレートなキャラづけを自ら主張していくスタイルはあまり好きではなかったが、それでもこの作品の持つ緩い空気感に絆されて、気付けばどんどんキャラクターを好きになっていた。そして『マッシュル』に何より感じたのは、王道を乗りこなす甲本一先生の実力である。
王道展開をやろうとして失敗している漫画はいくつもある。ここでいう失敗というのは個人的意見だが、王道展開をなぞっているだけで肉付けがされていない漫画というのも人並みに読んできたつもりである。例えば敵だったキャラと主人公の共闘、呉越同舟。バトル漫画にとっては人気も高まる王道展開だが、もちろんただこれをやればいいというものでもない。敵だったキャラがどうして主人公と共闘するのか、そこに至る心理描写や背景を積み重ねていくことでこそ、王道展開は効果を発揮する。しかし素人ながら、読んでいて「王道展開をただなぞってるだけで、全然キャラの良さを積み重ねてないんだよな…」と思うこともしばしばある。そういった作品が世間で「遂にコイツとコイツが共闘、アツい!」と簡単に評価されてしまうという状況を何度も目にしてしまっているがゆえに、王道展開という言葉にも慎重になってしまう。
しかし『マッシュル』は見事に王道を乗りこなしていく。呉越同舟だけでなく、主人公のパワーアップ待ちや合理的を信条とするキャラが情に絆される展開などなど、「こ、こんな王道展開を恥じらいもなく…!」とつっこみたくなるくらいに王道のオンパレード。固有魔法も念能力や術式のような複雑なものはほとんどなく、属性技が多めで技自体も大味。それらは言わば既視感の連続でもあり、1つ間違えればオリジナリティの欠如になりかねないのだが、『マッシュル』には序盤から提示されている最強のオリジナリティがある。それが、「魔法を使えないマッシュがパワーだけでのし上がってきた」ということなのだ。
敵の魔法がどんなに強力で、どれほどの仲間が敗北しようとも、マッシュは筋力1つでその場を収めてしまう力を持っている。そしてそれらはただのグーパンだけでなく、杖を無理矢理変形させてラケットにしたり、触れられない敵に対して建物の柱を足で挟んで攻撃したりと、とにかく多彩。敵は何が起こったか一瞬理解できず、フィンなどのサブキャラが「僕は見たぞ…」と詳細に解説をしてくれる。この流れも作中で何度も反復されているはずなのに、それがとにかく面白い。レインとフィンの兄弟愛、ランスとドットの友情、そこに加わるオーターの師弟としての絆…。そういった既視感ありまくりの王道展開がバトルに繋がり、そしてマッシュの登場を徐々に引き立てていく。この構図が徹底されている点が何より美しかった。
七魔牙(マギア・ルプス)、六罪杖(クリミナル・ケイン)、神覚者などの中二病的言語センスも完璧。やはりジャンプ漫画は敵や味方組織幹部がズラッと並ぶと壮観で、そういった点も決して外さない。惜しむらくは全18冊というタイトさゆえに神覚者達の出番に差が生まれてしまったことだろう。ノレッジケインのソフィナとかめっちゃ強そうなのに、あんまり出番がなく…。もちろん神覚者レベルのキャラがあっさり負けてしまう…というところにも王道の美学があるのだけれど、それはそれとして勿体ない気がしてしまった。そういえばファンタジーな世界なんだから当然いるでしょというテンションで、巨人やオークが終盤突然続々と出てくるのはかなり笑った。この辺りのバトル、いずれアニメなどで補完してくれないだろうか。
画力の緩急の付け方も本当に凄い。ギャグシーンのマッシュなんかは半ページ使った落書きレベルにまで画力を落としているのに、バトルシーンの構図や線はとても綺麗。イノセント・ゼロとウォールバーグのバトルなんて、まるで別の漫画を読んでいるかのようだった。そういった緊迫感の出し方も絶妙。作中最強レベルの味方がラスボス、しかもかつての親友と戦うことになる展開も王道でグッとくる。人を裏切ってばかりで長いものに巻かれろ精神のオチョアが最後に勇気を振り絞るのも良かった。本当にどこを取っても王道が詰まっている作品で、その既視感ゆえに序盤で切ってしまった人もいるかもしれないのだが、可能なら最後まで読んでこの王道に浸ってもらいたい。これほどまでに王道をきちんとやれる作品はなかなか稀だと思うので。
「シュークリーム大好き」「シスコン」「愛が重い」などなど、ワンフレーズで説明できるキャラクターにも愛着が湧きやすい。序盤はあまりのテンプレート感に自分も脱落しそうになったが、光の神杖であるライオが「よそ見するなよ! この俺だけを見ろ」となぜか戦闘中に横ピースするシーンなんかはもう最高で笑ってしまった。そう考えるととにかく『マッシュル』はキャラづけが上手い。能力から連想が簡単な性格をしているのも少年漫画の王道なのだが、ノイズが発生しないレベルのオリジナリティと、「うわっ、めんどくさいやつだ…」という異常者感の出力が神がかっている。正直各登場人物のキャラづけも既視感はあるのだが、それらさえも「王道」の一言で乗りこなしているわけである。そして何度も言うが、それを可能にしているのはマッシュという異物の存在なのだ。
・ノブレスオブリージュ
本作のテーマを一言で表すなら「ノブレスオブリージュ」だろう。作中でも使われた言葉だが、実際にこれほど『マッシュル』という作品を体現している言葉もない。フランス語で「高貴なるものの義務」という意味で、『マッシュル』においては力の使い方という意味でも用いられる。マッシュ達が対峙する敵は自分達以外の人間を軽んじる者が多く、特に魔法使いとしての実力が低いものを見下してくる傾向にある。そんな彼等が成長し実力をつけ、敵を倒していく姿は爽快であり、そしてその成長には「世界や人々を守る」という視点が加わっていくのだ。
弱者を不要とする敵達に対し、その弱者たちが牙を剥く。これらも王道の展開だが、『マッシュル』においては魔法が使えないために誰よりも見下されているマッシュが、最後まで魔法を使わないままその価値観をひっくり返すことに意味がある。彼は自分が見下されていることなど全く気にせず、ただレグロとの生活のために勝利を掴むのだ。そしてそのストイックっぷりが周囲を動かし、読者の感動を生む。彼の揺るがないメンタルや向上心は過去のジャンプ主人公が持ち合わせていたそれであり、悩むことで深みを生むのではなく、ひたすら前に突き進んでいく姿がマッシュらしかった。
『マッシュル』自体がカラッとした作品なので、重いテーマを有しているというよりは、舞台装置として弱者を虐げる世の中が設定されたということだと想像はできる。それでも社会的弱者やマイノリティに対して酷い言葉を平気で浴びせる価値観がまだ息づいている現実社会と照らし合わせることができてしまい、いたたまれない気持ちにもなる。現実には被差別側からマッシュのようなヒーローや実力者が生まれることはなく、誰しもがあの世界で描かれた一般市民でしかないのだろう。だからこそ、娯楽として『マッシュル』のような作品がヒットしたことは救いでもある。実際の世界にマッシュはいないが、漫画のキャラクターには「こうなりたい」という理想像になり得る力が秘められており、将来マッシュのようになりたいと願う子ども達が増えることだってあるかもしれない。マッシュのような強い精神性、そして作品が持つノブレスオブリージュの思想。小さい子達は今はそれを理解できなくとも、ただブリンバンボンに合わせて踊りを披露しているだけだったとしても、大人になった時に『マッシュル』の持つ底力を感じ取ってくれるといいなと思う。「面白い」に徹底した娯楽だからこそ、そこで描かれる世界は人の心を打つと思うので。
と、偉そうに語ってしまったけれども、『マッシュル』は非常に面白いのでもし読んでない方がいたら読んだほうがいいです。読んだ方はどんどん布教していってほしい。少なくとも「マッシュル?あ、ブリンバンボンのやつね」なんて言われて終わるようなポテンシャルの低い漫画ではないので。曲だけは聞いたことある、的な代表作に陥らないことを願う。とりあえずアニメも観ます…。


