映画『事故物件ゾク 恐い間取り』評価・ネタバレ感想 中田秀夫の時代がまた来るかもしれない

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5年前の衝撃は今でも忘れられない。亀梨和也主演の『事故物件 恐い間取り』が公開され、そのあまりの酷さに目も当てられなかった。『リング』の中田秀夫監督の作品がずっと何だかパッとしないというのは多くのホラーファンが感じていることだろうが、やはり『リング』の名前は強く、今でも彼の監督するホラー映画やサスペンス映画が毎年のように公開されている。観に行く度に肩を落とすのが私にとっては定番だったのだが、『事故物件 恐い間取り』は肩を落とすなんて言葉では言い表せない虚無感が漂っており、このような映画が全国規模で公開され、しかも大ヒットを飛ばしたことが全く理解できなかった。観客を怖がらせる気も、楽しませる気もないように思えたし、片手間に作ったやる気のない1作にしか見えなかったのである。

 

おそらく『事故物件 恐い間取り』を既に観ている多くの人は、2作目が公開されると聞いて不安になったのではないだろうか。私も、ホラー映画は物好きなティーン層やカップルなどの団体客を簡単に呼び込むことができてヒットを飛ばすことができると頭では分かっていても、この続編を同じ中田監督が撮ると知って正気じゃないと思ってしまった。2022年の『”それ”がいる森』もかなり酷かった(とはいえ”それ”の正体と馬鹿馬鹿しさに関しては結構好き)ので、もう本当に中田監督に期待することは金輪際ない。ないはずだった。だが、『事故物件ゾク 恐い間取り』はそんなに悪くはなかった。別に良くもないが、中田監督の全盛期のホラー描写が随所に差し込まれ、きちんと怖がれる描写も増えて、前作より格段に良くなっている。いや前作がマイナスすぎて小さな加点が過大評価に繋がっている側面も否めないが、それでも悪くなかったと思う。6月から続いている怒涛のJホラー公開ラッシュの中では見劣りするものの、そんなに憎めないくらいのクオリティにはなっていた。別に面白いかと言われたらそうでもないのだが。

 

今回の主演はSnow Man渡辺翔太。バラエティを全然観ない人間なので未だにSnow ManSixTonesのメンバーも把握できていないのだが、ドラマや映画に出演してくれているおかげで私も少しずつ詳しくなっている。渡辺翔太は細身で高身長なイメージだったのに、映画を観ると周りに比べてやや身長が低いくらいだったので素直に驚く。滝藤賢一よりも低いだと…?と違和感を持った。めちゃくちゃ身長高い感じの顔してるのに…。でもそれも含めて彼の醸し出すオーラなのだろうなあと。ヒロインの畑芽育が152cmなので身長差もかなり良かった。前作は亀梨君と奈緒のドラマがほとんど無意味だったので、そういう意味で本作は比較的ドラマがあったなあと。

 

そう、何よりドラマなのである。前作と同様に、人気を獲得するために主人公が複数の事故物件で生活を送るわけだが、今作は人間ドラマがより強化されていた。というか、前作があまりに薄すぎるだけなのだが。この事故物件を複数渡り歩くというシステムは、心霊現象こそ起こるものの結局誰かが死んだり憑りつかれたりというようなことがほとんどないため、ある意味画期的ではあった。普通のホラー映画なら1本の映画に1つの怪奇が発生し、それと主人公達が対峙する物語になるのだが、事故物件シリーズはあくまで事故物件を描いていくため、複数の事故物件及び霊が登場する。そのためオムニバス的面白さもありつつ、1物件30分くらいの軽やかさで、ショート動画世代にも比較的優しい作り。

 

そんな中で前作は亀梨君と奈緒のヘンテコなドラマをやっているようでやっておらず、最終的に何にも結実しなかったわけだが、本作は一応渡辺翔太と畑芽育の恋愛ドラマがしっかりと軸として構成されている。2人が出会い、距離を縮め、一緒に住むようになり、そして不思議な行動を取る彼女の秘密に迫る…と、1本の映画として筋が通った形。そんなドラマを計4件の事故物件霊描写が支えているため、前作よりは格段に構成力が上がっている。というか前作は、『”それ”がいる森』もなのだが、脚本のブラジリィー・アン・山田が酷すぎる。中田監督の演出も大概だが、ちょっといつかちゃんと怒りたい。1作目、冷蔵庫や押し入れから出てきた霊に四方を取り囲まれた挙句、ラストに顔が銀粉まみれのフード男が登場してそれを突然部屋に入ってきた瀬戸康史(実家に帰ったんじゃなかったのかよ!)が除霊する…できない!なの本当に意味が分からない。もう思い出すだけで腹が立つ。脈絡もないし怖くもないし面白くもない。

 

話を戻して、今作のドラマ面。正直出会いと馴れ初めに関してはかなり弱いというか、ヤヒロ(渡辺翔太)側は「上京して初めての仕事でこんなかわいい子と手を繋げてラッキー!」みたいな安直さで許せるのだけれど、花鈴(畑芽育)側も勝手に距離を縮めてくれるのはかなり都合が良かったなあと。せっかくヤヒロに「皆が行く方に行くな」という重要なバックボーンとなるセリフがあるのだから、そこを上手く絡めてほしかったところ。例えば、周りと明らかに違う決断をヤヒロがして、そこに花鈴がときめく…みたいな。出会って即ヤヒロの家に行くような関係になるのはちょっと勿体なかったと思う(霊の電話を聞いて彼女と勘違いし帰る辺りから、多分花鈴側も一目惚れっぽいが…)。

 

その後の位置情報アプリとかは、ちょっと自分の世代にはあまりに恐怖すぎてカップルのノリでしれっと共有するのは結構驚いたのだけれど、ティーン層向けの映画だしまあこれくらいは普通かなあと。で、問題はラスト、事故物件4軒目。住む場所を失ったヤヒロは花鈴の家で共同生活を営むことになるわけだが、それが決まった途端に「4軒目」とテロップが出て、この家も事故物件であることが示唆されるのは結構良かった。結果的には事故物件というよりも花鈴の父親が霊としてヤヒロに接触していた…というオチなので厳密には違和感があったが。

 

この4軒目で花鈴の過去が明かされると同時に、ヤヒロが所属していた事務所の社長・藤吉が実は花鈴の父親で、既に亡くなっていたことが判明する。ヤヒロの優しさに何かを感じた藤吉がおそらく霊的な力を発揮させて自分のところに彼を誘導し、娘と結びつけた…というオチ。霊を扱いつつハートフルに締める映画は割とあるのでこの点は気にならなかった。一応伏線もあったため、多分気付いていた人も多かったと思う(自分は事務所での2人の会話でさすがに気付いた)。ただ、オチとしては正直かなり弱かったなあと。なぜならヤヒロの優しさを感じられる描写がほとんどなく(ほとんど事故物件住んでるだけだし)、藤吉がどうして彼を選んだのかということに説得力がない。名刺をもらった時点で名前が変わっていたということは、工場時代から目をつけられていたのだろうに、工場の描写でそんなシーンはほとんどなかった。タレントになりたいという野心のほうがむしろ印象的で、寂しかった子ども時代に偶然出会った勝俣の声が励みになったというバックボーンも素敵だったのに、肝心の彼自身のパーソナルな部分があまり見えてこず残念。

 

それゆえに、最後も全然感動できず。きっとこの藤吉の正体が一番の目玉のはずなのに、ただ「なるほどね」くらいにしか思えなかった。何より、この「実は霊でしたオチ」、6月公開の某ホラー映画がかなり鮮やかな手腕で既にやっていたので、まさかのネタ被りなのである。ネタバレになるためにタイトルは言えないが、2025年6月公開のホラー映画で検索してもらえれば数作しか出ないのですぐに分かるはず。もちろん『シックス・センス』をはじめとして古くからある手法なのだけれども、一ヶ月と少し前に素晴らしいトリックを見せつけられた身としては、この雑さはどうしても気になってしまった。今年はJホラーが公開ラッシュで喜んでいたのに、まさかのネタ被りとは…。

 

しかも実家に帰るはずだったヤヒロが母親に言われて帰省を取り止めるというのもあんまり意味が分からず。そんなにあっさりセリフで流すなら母親が倒れる件は要らなかった。前作でも瀬戸康史の実家が火事になっていたし、何でこの映画はやたら実家に帰りたがるんだ。そしてどうして結局帰らないんだ。何でそんな変な部分を前作から引き継いでいるのか謎。

 

とまあ文句を連ねてしまったが、各事故物件の心霊描写は結構本格的。普通に怖いシーンがいくつもあった。1軒目のインターホン越しに霊が近づいてくるシーンや、2軒目の旅館の館長の不気味な笑い声、2軒目は小走りの少女の後ろ姿もかなり怖く、全体的に『女優霊』などであった「長髪白服の女性が画面に映り込む」という王道の怖さを中田監督自らが提供してくれてここは素直に嬉しい。今やジャパニーズホラーのスタンダードになってしまい、数々の新進気鋭達がそのイメージを払拭しようと奮闘する中で、中田監督が原点を使って現代Jホラーに新たな刺激を与えてくれたように思う。手垢のついたやり方ながら、やはり普通に怖い。前作の銀粉黒フード男が嘘のようだった。3軒目、屋上で後ろから飛び掛かって来るババアも凄く良い。いやでも旅館、旅館ですね。2軒目の旅館はあれだけで1本映画作れるくらい恐ろしかった。あと映画を通じて登場した霊能力者のおばさんも最高。トートバッグに日本人形挟み込んでるのがかなり好き。Jホラーの霊能力者大喜利、無限にやってほしい気持ちがある。何より、もう中田監督のホラー映画を楽しめることはないと思っていたので、この収穫は本当に嬉しい。

 

正直、ドラマのクオリティが結構お粗末なのでそこまで評価はできないのだが、中田秀夫監督ってまだこんなにホラーやれるんだということが分かっただけで充分元は取れた。今作もヒットすればまた続編ができると思うので、次は更に恐怖度が増していくといいなあと。今年のJホラー、8月8日公開の『近畿地方のある場所について』が自分の大本命なのでそれまではまだ気が抜けない。