『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』がまさかの韓国リメイク。原作は2010年の映画なので、実に15年ぶりというわけだが、あの映画はもう15年も前の作品なのかという時の流れにも驚かされる。原作は、田舎でマイホームを手に入れた2人の男が、人相の悪さから殺人鬼と間違われ、居合わせたティーンエイジャーの集団が不思議なことに次々と死んでしまう…というおバカコメディ。『悪魔のいけにえ』等、スラッシャーホラーあるあるを散りばめながら、善人の2人の周りで笑っちゃうほど人が死んでいく不謹慎さが加速度的に面白くなっていく物語である。しかしおバカなだけでなく、デイルとアリソンが恋仲になる過程がきちんと描かれていたり、リーダー格のチャドの出自が実は…という種明かしもあったりと、なかなか見応えがある。1人で観ても大勢で観ても面白いホラーラブコメディという出来で、とにかく人気が高い作品。
それほどに優れた作品なので、確かに15年も経てばリメイクされてもおかしくはない。しかしまさかの韓国、そしてタイトルも『ハンサム・ガイズ』。これにはちょっと驚きである。主人公の2人、ジェビルとサングがとにかく不細工という話が序盤からずっとされているのだが、映画を観ている我々としてはそこまで不細工には見えない。というか、韓国映画にあまり詳しくないのだが、そもそもこの2人はかなり有名な俳優のよう。サング役のイ・ヒジュンをネットで調べたら全然別人だった。むしろ貴公子系の清潔感漂うイケメンであり、これは少女漫画の実写化で橋本環奈レベルの役者が、クラスの地味な女の子主人公を演じる…的な物語と似ている。メタ的に言えばどこが不細工だよとなってしまうのだが、人気俳優が敢えて不細工を演じるというところに良さがあるのだろう。韓国でも大ヒットという話を聞いたが、この2人を含めたキャスティングの影響も大きいのだなと感じた。
では肝心の映画はどうだったかというと、正直言って私の好みではなかった。『タッカーとデイル』の要素は残しつつ、大胆にアレンジを加えてくれたことは素晴らしいと思う。私は原作が映画だろうが小説だろうが漫画だろうが、同じ物語を何度も楽しむことが苦手なので、原作通りというパターンが最もつまらないと感じてしまうのだが、『ハンサム・ガイズ』は全然別物と言っていいくらいに話が違うので、間違い探しの意味ではかなり楽しむことができた。特に、ティーンエイジャー達(リメイク版ではゴルフ選手とその仲間達という位置づけ)が次々と死んでいくことに、「悪魔」(バフォメット)という理由を付けたのはすごく面白い。「なんでだよ!」「アホかよ!」と人が死んでいくことにツッコミを入れながら観られた原作とは異なり、ここに理屈を付与することでスラッシャーホラーの知見がない観客にも分かりやすくなっているし、人が死ぬ度に数字の書かれた魔法陣に動きがあるため、最後に悪魔が目覚めて主人公2人が戦うことになるのだなという期待も生まれる。話のスケールも大きくなっていて、こういった大胆なリメイクには賛成したいところ。
ただ、演出が全く肌に合わなかったのが難点。「ほら、ここが笑いどころですよ!」とこちらの感情を丁寧に誘導してくれるBGMの使い方に辟易してしまったし、顔芸やマイム(動き)で笑いを取ろうとしてくる感じが全然好きになれなかった。分かりやすい笑いではあるし、一般層向けのチューニングとしての方向性として間違っていないのは理解するのだけれど、ちょっとやり過ぎじゃないですかね…と首を傾げてしまう場面も少なくない。特に警察官がゾンビになって復活した時の腰を振るようなバカみたいな動きは本当に酷く、自分は完全に白けてしまった。序盤でも、回想シーンで悪魔に憑りつかれた女性のシーンのわざとらしさがキツかった記憶がある。
また、『タッカーとデイル』は今観ると互いのコミュニケーション不足が深刻で、芸能人までもが陰謀論や外国人排斥論に染まっていく昨今の情勢を踏まえると、先入観が強すぎるあまりブラックユーモアで笑えないという感もあるのだが、リメイク版ではその点が脱臭されて互いが完全に馬鹿になってしまっていたのも微妙な点。あれほど楽しそうに皿を洗うサングとミナを見て、ストックホルム症候群だと思うのはさすがに意味不明というか、もう少し会話をしたほうがいい。物語というよりはコントに見えてしまったし、そう思うとギャグのほとんどがドリフ的な笑いだった気もしてくる。
また、原作では最終的にデイルはヒロインのアリソンに気持ちを伝えており、不器用でモテない太っちょと美少女との恋模様、つまりは美女と野獣的なエッセンスがキモになっていたのだが、本作ではサングがミナに告白する様子が描かれずに終わってしまったのも惜しい。一応エンディングで3人が仲良く暮らしている様子は描写されるのだが、自信を持てなかった主人公が出会いと戦いを経て彼女に告白する(何なら告白を言い終わらないうちにアリソンからキスされ、「私も同じ気持ちよ」と言われる)という成長と、そのいびつなボーイ・ミーツ・ガール要素までがセットだったはずなのに、そこは粉々に解体されてしまった感があり、非常に惜しい。そもそも劇中では不細工不細工言われるが、サングはガタイも愛想も良く、決してモテない風貌には見えないため、その辺りもかなりミスマッチだった。
それでも、神父があの年齢になっても全然英語を分かっておらず役に立たなかったというギャグは良かったし、何より悪魔に憑りつかれた若者達のメイクや演技は結構ホラー感があって面白かった。犬も可愛いしナイスアシストをしてくれる。銀の銃弾が必要なのに銃が壊れてしまったどうしよう…という緊迫感の中でネイルガンを出し、そのコードが外れやすいという伏線もしっかり効いているのが上手い。作劇の丁寧さや理屈の付け方はかなり良いなあと。だからこそ、演出が自分好みでなかったのが非常に辛いのだが。
大笑いするようなことはなく、原作との違いを一つ一つ確認するような作業的な鑑賞になってしまったのは残念だが、アレンジの強さと出来に関しては決して悪くなかったと思う。自分好みではなかったので点数を付けるとしたら低くはなってしまうが、俳優さんのファンや原作を知らない人にはウケそうな映画だなあと感じた。
こちらの監督と主演2人のインタビューでも、韓国の客層に向けてグロテスクさを調節したと書かれているので、かなり一般層向けのチューニングがされていたのだなあと。そう思うと、ゴア描写が控えめとはいえ串刺しや粉砕機突入をちゃんとやり遂げた点はかなり偉いのかもしれない。

