映画『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー 復活のテガソード』評価・ネタバレ感想 極上のスーパー戦隊版『Over Quartzer』

 

率直に、めちゃくちゃ面白かった…! 『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』というTV番組自体の虜になっていることを加味しても、劇場版としてこんなに凄いものが観られて嬉しい。同時上映の『ガヴ』が良くも悪くもお利口さんな作りなので、スーパー戦隊はこれくらいはっちゃけてくれたほうがやはりメリハリがあっていいと思う。ライダーより戦隊が楽しみな劇場版は自分の中ではあんまり経験がないのだが、個人的に今年はかなり『ゴジュウジャー』側に肩入れしてしまう映画だった。

 

『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』を担当している松浦Pは、平成ライダーを支えてきた白倉Pフォロワーとして知られ、実際今番組自体が3年前の『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』のアップデート版のような空気感がある。東映ヒーロー特撮特有のライブ感に理屈をつけていくことで、より物語は強固になっていく。オタクへの目配せも忘れないが、新規層を確実に取りに行く貪欲な姿勢。ユニバース戦士として過去ヒーローを登場させながら、その素顔は既存作とは似ても似つかないという豪快さ。使えるものは何でも使うが、回顧のような真似はせず一心不乱に前へ突き進むというはっきりとした意志が物語の推進力となっており、とにかく毎週楽しい番組作りというのを狙っているのだなあというのがよく分かる構成。松浦Pの考え方には共感できない部分も多いが、メインライターの井上亜樹子さんによってオリジナリティ溢れる肉付けがされた『ゴジュウジャー』は、私にとってかつてない視聴体験になっている。

 

そんなこんなで楽しみだった劇場版。3年前の『ドンブラザーズ』は劇場版と言いながら「映画の話をする」というよく分からない方向へ舵を取っていたが、正統フォロワーの『ゴジュウジャー』は劇場版というスケールをうまく利用していた。内輪のキャスティングやヒーロー大集合という東映特撮の醍醐味だけでなく、広く顔の知られているゲストを番組色に染め上げてきちんと見せ場を用意する日本のTV番組としての雑味まで混ぜ合わさっており、なんというか自分が一番好きなタイプの映画だったかもしれない。完成度よりもとにかくエンタメ。ウケるためなら芸人でもYouTuberでも何でも使うし、変身までさせる。何なら人間を全員レッドにして地球を真っ赤にする。これはやはり平成ライダーを通らなければできない発想だろう。そして平成ライダーに育てられた私は結局こういう春映画っぽさに弱い。

 

だが、春映画と一線を画すのはやはり物語に芯があるということ。豪華ゲストを雑に消化してオリジナルキャラの少年との物語を勝手に繰り広げ崖の上で全員を集合させる春映画には、エンタメ性こそあれど物語性は低かった。しかしこの『復活のテガソード』は、「願い」をテーマに『ゴジュウジャー』の劇場版に相応しい、いやむしろ最終回で扱ってもいいような重厚な物語が展開される。復活したペスティスに敗北するテガソード。ゴジュウジャーの5人はテガソードを救うためにテガソードの体内に入って戦闘員達と様々な戦いを繰り広げるが、最終的にペスティスに捕まってしまう。そんな中でペスティスは、人々の願いがただの欲望に成り下がっていることを指摘する。だからテガソードは弱くなったのだと。しかし吠はそれを真正面から否定する。そう、元々願いのなかった彼にとっては、願いを持つこと自体が崇高であり、そこに差はないのだ。芸人やYouTuberの素朴な願い、一見すると欲望にしか思えないものですら、テガソードは聞き届ける。その上で「私がしっかりせねばならんのだ!」という人間愛に満ちたセリフ。この変化球っぷりがもう『ゴジュウジャー』にしか出せない味で最高だった。

 

そして現代人の素朴な願いを否定するペスティスが過去作品の戦闘員を従えて「歯車であれ!」と叱りつける対比も見事。速水奨ボイスで人間の愚かさを嘆かれるとどうしても『仮面ライダーゼロワン』を想起してしまうが、実際アークと見紛わぬ悪役っぷりで、『ゴジュウジャー』という作品においてここまで悪を貫けるキャラクターも珍しいなあと。ファイヤキャンドルさえもつい最近までなんか憎めないライバルを演じていたので…。ファイヤキャンドルで言うと、敵戦闘員が地球を襲っている時に「ゴジュウウルフは何してるんだ!」みたいな感じで地球を守っていたのも良かった。全然悪役ができてなくて本当に最高。

 

そして極めつけの全員レッド変身。自分はゴー☆ジャスが大好きなのでゲストで出演すると知り大興奮していた。これでゴーカイレッドのユニバース戦士だったらさすがにウケるな…と思っていたらまさかの変身だったのでもう大歓喜。ユニバース戦士とは少し異なるものの、ゴー☆ジャスが遂に変身、しかもゴーカイレッドだなんてめちゃくちゃ面白くてズルい。東映自体が『ゼンカイジャー』のツーカイザーで「レボリューション」をイジっていたのに、それが遂に逆輸入される形に。地球儀を持ったゴーカイレッドが怪人を爆散させるなんていうシーンがまさか東映さんから出るとは思わなかった。いや東映以外がこんなことするわけないのだけれども。熱海常夏の登場はOPのクレジットで知って驚いていたのだけれど、サンシャイン池崎まで一緒にドンモモタロウに変身させて勝手に番組が築き上げたサンシャイン繋がりで叫び合ってるのはさすがに面白すぎる。『仮面ライダーガッチャード』主演の本島純政まで呼んで(宝太郎の時とはかなりギャップのある役なのも面白かった)、カード繋がりでゴセイレッドに変身させたりとか。いやあもう東映の味って感じで本当に素晴らしかった。戦隊版『Over Quartzer』である。ディケイド後、『海賊戦隊ゴーカイジャー』という過去シリーズ真っ当リスペクト作品でライダーとは違う道を辿ったはずだったのに、近年どんどん戦隊がライダーに合流していっている気がする。でもこれはこれで面白いので全然いい。

 

未来戦隊タイムレンジャー』主演の永井大の奥さんである中越典子をタイムレッドにするのも最高。でも84歳、86歳、米寿の忍者ババア3人組がマジで分からなかった。真ん中にいた米寿の人は『ドンブラザーズ』で何度も怪人になっていた忍者おじさんのお母さん役の人だからか…?と思ったが勝手に東映が作った文化で忍者ヒーローに仕立て上げるのはだいぶおかしい。他の2人にも何か忍者繋がりがあるのだろうか。でもハリケン世代の自分は超忍法・影の舞が出たらもう何でも許せてしまうので、全然あり。というか80代のおばあさん3人組に影の舞をやらせる意味が全然分からなくて好きすぎる。東海オンエアのてつやと中川翔子に関してはパーソナルな部分をあまり知らないので割愛。ピンクもありだったらしょこたんはきっとタイムピンクだったんだろうなあ。

 

その他諸々、まあ面白かった。正直最初のビーチバレーなんかはあんまりボルテージが上がり切っていないように感じられて、「映画はガヴ目当ての人も多いし堅実にいくのかな…?」とも思ってしまったのだけれど、テガソードが復活して無限ハグみたいなポーズを取り始めてからどんどん様子がおかしくなっていった。この狂いっぷりこそが『ゴジュウジャー』だと思っているので、正に観たいものが観られた感覚。むしろこんな奴と同時上映にさせられたガヴが不憫でならない。真面目であることを強いられているのではないかとまで深読みしてしまう。とまあ雑味の話ばかりをしてしまうのだが、願いの肯定やテガソードを救い出すというスペクタクルも含めて、かなり『劇場版ゴジュウジャー』らしい面白さになっていたと思う。キャッチコピーの「全人類よ、戦隊になれ」ってそういうことだったのか…。もう折り返し地点くらいまで番組が進んでしまっているのが辛くて堪らない。一生観ていたいぜ、ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー…。

 

TV本編第1クールの感想はこちら。

 

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同時上映の『仮面ライダーガヴ お菓子の家の侵略者』の感想はこちら。

 

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