公開初日の朝イチで『仮面ライダーガッチャード ザ・フューチャー・デイブレイク』を観てきた。冬映画を公開2日目に観てしまった私はマジェード登場のネタバレを公式から喰らい大きなショックを受けたため、サプライズが告知されていた今作は何としても公開日に観に行かなければならなかったのだ。そして率直な感想としては、震えあがるほど面白かった。こんなに涙ぐんだライダー夏映画は初めてかもしれない。平成1期の夏映画あるあるだったパラレルワールド設定と、平成2期以降顕著になった集大成イズム、その2つを上手く掛け合わせた上で本編と接続してくる器用さ。サプライズも上手く、何より本編から分岐し仲間がほぼ全滅した世界という絶望感が、テレビシリーズとは違う大人な魅力を醸し出している。そしてそこに現れる本編の一ノ瀬宝太郎。これまでも多くの人を勇気づけてきた彼の明るさが、今度は未来の自分に向けられるのだ。この筋書きだけでもう泣けてしまう。
思えば『仮面ライダーガッチャード』は、平成ライダーで育った湊Pの下、奇をてらわない子供向け番組の王道路線を突き進みながらも、既存ファンへの目配せを忘れない貪欲さで、カオスな平成ライダー・令和ライダーの中でも唯一無二の存在感を見せつけてきた。逆張りがほとんどなく、安心して成長を見守れるキャラクター達が奮い立つ姿を丁寧に描き続けてきた作風が、この夏映画でも爆発した形である。正にガッチャードの真骨頂、集大成映画として申し分ない出来であった。その上でも特徴的なのが、TVシリーズとのリンクだろう。過去のライダー夏映画でも本編とリンクしていることが多かったが、冬映画公開前後に登場したガッチャードデイブレイクの物語がここに来て再び描かれると聞いた時には驚いた記憶がある。しかも最新のインタビューによれば、当時既に未来の宝太郎を夏映画のメインに据えるつもりだったらしく、更に驚く。ここまで入念に準備を進めていたとは…。本当にガッチャードの企画力には舌を巻いてしまう。絶望的な未来を変えるために過去の自分に接触してきた男…という筋書きは本編で語られていたが、その救世主がどのような世界で、どのような気持ちで戦っていたのか。本作はそこにフォーカスした物語が描かれていた。つまりDAIGO演じる未来の一ノ瀬宝太郎はドラゴンボールでいう「未来トランクス」なのである。孤独な戦士が未来を変えるために単身過去へ乗り込む。この筋書きだけで既にニヤニヤが止まらない。
本作では未来からの刺客として自立したドレッド達が現代に送り込まれ、カグヤの説明によって未来のガッチャードが一人で戦っていることを知った宝太郎は、以前助けてもらったお返しをするために、りんねと共に未来に向かう。そこで出会った絶望に沈んだ未来の自分にガッカリするわけでもなく、ただ単純に「どうして」と疑問を抱いている風なのがいかにも彼らしい。彼はDAIGO宝太郎を未来の自分としてではなく、自分を救ってくれたヒーローであり、友人であると捉えていたのではないだろうか。普通なら「これが未来の俺!?」みたいな描写がされるべき場面でも、一切そういう描写はない。自分とは価値観さえ真逆になってしまっているのに、である。これは分岐した未来だからだと割り切っていたのかもしれないが、そんなところが一ノ瀬宝太郎の良さでもあると思う。自分を救ってくれた存在が、戦いに負けて諦めようとしている姿がただ許せない。その真っすぐさは、TVシリーズで何度も見せてくれた彼の素晴らしい長所だからだ。
DAIGOがその真っすぐな過去の自分を見る目線や、過去から来た九堂りんねに向ける寂しげな視線。そういった全てに彼の持つ絶望感が漂っていて、その雰囲気もかなり好きだった。正直、過去の宝太郎とりんねの言葉ですぐに考えを変えるのはあまりに早急すぎる気もするのだが、やさぐれすぎてしまってもガッチャードのテイストと合わないし、あれくらいでよかったのかもしれない。また、どこか逃げ腰のDAIGOは『ウルトラマンサーガ』のタイガ・ノゾムを想起させてくる。2012年、東日本大震災後に望まれた明るくまっすぐなヒーロー像をこれでもかというほどに見せつけてくれたDAIGOが、そこから10年以上の時を経て、再びヒーローを演じるのだ。絶望を背負いながらも最終的には希望へと向かっていく男。そして過去へと戻り、「暁の錬金術師」として伝説に名を刻むヒーロー。一体私たちはDAIGOが演じるヒーローに何度泣かされれば気が済むのだろうか。いや、何度でもいい。何なら本編終了後のVシネで暁の錬金術師の活躍が描かれてもいいくらいである。
立ち並ぶ大量の墓標、右目を失う宝太郎、りんねの死。セリフでは多くは語られないし、痛快さが勝っている演出が目立ったものの、やはり絶望感漂う場面は何度も挿入されていた。恐らくはメインターゲットの子ども達が恐怖を抱きすぎないようなギリギリの塩梅がこれだったのだと思う。印象的かつ未来宝太郎の孤独と失望を端的に表現していて見事だった。こんなに凄い演出ができる田崎監督がどうしてパラリゲでは誇張演出ばかりしていたのだろうか…。そしてガッチャードにおける絶望描写は宝太郎の言葉によって払拭されることが決定されている。今回も彼の前向きさが未来宝太郎を救うことになり、ガッチャードはどこまでも「一ノ瀬宝太郎の物語」であることを実感できた。パラレルワールドや時間移動をやっているのに、こんなに明朗快活な映画も珍しい。今でも大概の映画がパラレルワールドの説明にホワイトボードを持ち出して数分間を費やすというのに…。そういう点もガッチャードの良さだと思う。
そしてこの映画は九堂りんねを如何に美しく撮るかに懸かっている気もしていた。なぜなら彼女の死が宝太郎を変えてしまった分岐点だからである。互いに向けられた矢印が恋心だとは明確にしないものの、2人共が大切な存在だと考えているという関係性。そのむず痒さが未来でも続いていることが嬉しかったし、実際りんね役の松本麗世のカットが宙づりも含めてどれも魅力的だった。今作における九堂りんねは往年の名作のヒロインそのものであり、それでいて主役を支える2号ライダーとしても完璧。途中で敵に向ける怒りも、未来宝太郎に向ける言葉も、現代の宝太郎に向ける信頼も、あまりに理想的すぎるのだ。正直こんな素晴らしい結末を描いてしまったら、本編は一体どうなってしまうのかと心配になる。映画の美しい帰結が、一ヶ月後の最終回の邪魔にならないことを願いたい。
演技面で言えば、ヘルクレイト、アルザード、ラキネイシスの冥黒のデスマスクも良かった。でも冥黒のデスマスクっていう肩書がちょっと面白かったのでよくないかもしれない。スパナの顔をしていながら真逆の性格のヘルクレイトは感情的な怒りの表現が素晴らしかったし、爛れた顔のミナト先生であるアルザードがあの顔でヒャッヒャッヒャと笑うのはだいぶ悍ましかった。この2人はベテランということもあって、演技力の振れ幅がエグい。また、本編のラケシスが完全に味方化した今となっては、ラキネイシスの悪役ムーブも嬉しかった。
ガッチャードの魅力は各キャラクターの「やりたいこと」と「絶対にやってほしくないこと」が明確なので、アトロポスとクロトーが味方側についていたのも凄く納得のいく采配である。グリオンが冥黒の三姉妹を見限ったのはアトロポスにとって相当ショックだっただろうし、ラケシスが殺されたことでクロトーが激昂するのも容易に想像できる。彼女等にとっての地雷を踏んだグリオンは、もはや倒すべき敵でしかないのだ。この辺りの扱い方がガッチャードは本当に上手いし、本編では未だ実現していない共闘シーンの旨味がよく出ている。願わくばテレビ本編では三姉妹には幸せになってほしいのだがどうなるか…。
そして今回最大のサプライズであった門矢士の登場。遂に変身さえしなくなってさすがに笑ってしまったが、それこそが正に通りすがりの仮面ライダーなのである。ガッチャードが自分を救ってくれたデイブレイクを助けに行く物語の合間に、レジェンドがヒーローになる理由となったディケイドが救いに来てくれる場面が挿入されるとは…。あまりに文脈が働きすぎていて眩暈がした。門矢士はとにかく偉そうにしていれば雰囲気を保てるキャラクターなので出てくるだけでも充分なのだが、レジェンドを認めるような発言まで飛び出してワクワクが止まらない。今後レジェンドがどのような活躍をするのかは未知数だが、これからも2代目ディケイドとして後継作に登場するのだろうか。コロナのせいで共闘することが少なかった令和ライダーを結び付ける役割を持つことになるかもしれない。それにしてもこのサプライズ、劇場で楽しめて本当によかった…。
また、事前に登場だけは告知されていた仮面ライダーガヴ。公開当日の午後に主役が知念英和さんだということが明かされたが、なかなか含みを持った登場で面白かった。いきなり現れるのは毎年恒例だが、これまで徹底的にギャグを避けてきたスパナがグミを受け取る辺りでもう笑ってしまう。というか困った人に食べ物をくれるヒーロー、これはアンパンマンでは…?と思っていたらいきなりお腹のジッパーを開いてベルトと腹筋を見せつけてくれたのでさすがに開いた口が塞がらない。インパクトは大きいが大丈夫なのか…。9月から1年間、子どもたちがお腹を出すのが流行ってしまったらどうしよう。何なら大きいお友達がベルトを見せたら特別玩具がもらえるキャンペーンで真ん丸なお腹を店員さんに見せつけたりしたらどうしよう…などと余計な心配を一瞬でしてしまった。しかし、すぐに変身時の苦しむような仕草に目を奪われる。は~またこれですよ、変身に何かしらデメリットが発生しているパターン。お菓子のライダーだとかふんわりしたことを言っておいて…武部Pがまたやってくれた。色使いの奇抜さだけでも充分エグゼイドなのに、変身がちょっと異常な辺りで更にエグゼイド味が増してしまった。まさかまたしても高橋脚本なのだろうか…。未だに本編の脚本家が発表されていないため、きっとインパクトの強い人選になっているのだろうなと思う。バトルシーンはとにかくグミグミグミと言った感じだったが、バトル中の音楽があまりにかっこよすぎてそれどころではなかった。音楽は『ゴースト』や『ゼロワン』も担当していた坂部さんだったが、これが毎週聴けるのであればありがたい。
ただ、いきなりポッと出てきた冥黒王がラスボスになってしまったのはやや唐突すぎた気もする。何ならテレビ本編のラスボスもまだ明確でない中で、こうした「唐突なラスボス戦」をやられてしまうと、本編もそういう終わり方になっているのかなあと邪推してしまうのである。宝太郎と対比されているキャラクターが敵陣営にいないため(味方だとケミーの扱いという意味でスパナと対立しているがラスボスにはならないだろう)、おそらく本編もグリオンがラスボスなのだろうなと予想しているが、自分は主役とラスボスの対比をしっかりやってもらいたい人間なので、この予想が当たると少しがっかりだなという気もする。もちろん、残り5話ほどで何が起こるかは分からないのだけれど。
それと小島よしおが本当にただの賑やかな味方キャラだったことには驚いた。てっきり実はグリオンを裏で操っている系のキャラクターだと予想していたのに、本当に応援係でしかなく、「こんなことに小島よしおを!?」と若干勿体ない気もした。ただ、自分が子どもの頃に一世を風靡した芸人が今でも子どもたちの間で人気を博しているというのは凄く嬉しいし、2世代を繋げるという意味ではある意味素晴らしいキャスティングだったのかもしれない。それにしても…とは思うが。
総じて言うと、根底に漂う絶望感の映画的なスケールが高揚感を生み、そしてそれを覆す希望を見せてくれるであろうという安心感が正にガッチャードで、改めてこのクオリティに泣いてしまうような映画だった。レジェンドの今後の活躍を示唆するような展開も上手いし、新ライダーであるガヴの登場も情報量が多く大満足。ガッチャードの集大成としても完璧で、1本の映画としても満足度が非常に高い。夏映画の金字塔と言えば『パラダイス・ロスト』と『A to Z 運命のガイアメモリ』だが、それに匹敵するほどの傑作だったのではないだろうか。本編ガッチャードも佳境に入り、ますますこの物語がどう幕を閉じるのか楽しみである。