冬映画がなかったため、スクリーンで仮面ライダー映画を観るのがかなり久々になってしまった。毎年恒例夏の劇場版、『仮面ライダーガヴ お菓子の家の侵略者』。当初の予告ではポップな異世界に迷い込んでしまったショウマばかりにフィーチャーしていたが、最終予告で予想通りハードな展開になっていることが示唆された。TV本編に関しては、自分は当初こそ令和ライダー最高傑作になるのではと大いに期待していたのだが、29話以降の展開に全く面白味を見出せず、既に数ヶ月燻っている状態が続いている。とはいえ本編があまり刺さらなくても夏映画が面白いというパターンは往々にしてあり、今作もそこに一縷の望みをかけて鑑賞しに行った形。結論から言うと、『仮面ライダーガヴ』というTV番組が出せる最高出力だったなあと。物語のバランスや各キャラクターへの寄り添い方、露悪的な要素などなど、非常に「ガヴらしさ」が詰まった、正にお菓子の家な映画であるように感じた。自分が「ガヴのこういうところ好きなんだよな」という部分がかなり丁寧に組み合わさっていて、ここ数ヶ月の本編よりはかなり楽しむことができた。
まずはやはりタオリン。ショウマが辿り着いた異世界で、元の世界のショウマと同様に幸果に助けられてはぴぱれでアルバイトをしている若者。演じるはFANTASTICSの中島颯太。ショウマ役の知念英和と似たゆるふわ系の甘いマスクが特徴で、別世界のショウマというイメージがぴったりだった。彼の腹部にもショウマと同様ガヴがついているが、色が異なっていてレバーもないなど、細かな違いがある。しかしお菓子を食べるとゴチゾウが出てくる仕組みは同じ。ショウマは幸果も含めてタオリンとお菓子の家作りをすることで、仲を深めていく。
この「一緒にお菓子を作る」というシチュエーションがすごくいい。本編でもケーキングフォーム登場エピソードなどで用いられた演出だが、「お菓子はみんなで分け合うもの」「楽しい時に食べるもの」というガヴのモチーフを活かしたテーマがこの「みんなでお菓子作り」に集約されている。そしてその食べたお菓子からゴチゾウが生まれ、ショウマの力の源になる流れも素晴らしい。本編でもかなり好きなシチュエーションだったので、本作でもショウマとタオリンのエピソードとしてしっかり描かれていて嬉しかった。
また、異世界に迷い込んだショウマが、この世界には闇菓子も存在せず、ストマック家を含めたグラニュート達も人間界に自然に溶け込んでいると知り、顔を曇らせるのもとても良かった。闇菓子が存在しない世界、つまり誰も犠牲にならない世界をショウマ自身は誰よりも望んでいたはずなのに、いざその世界に足を踏み入れると、この世界には自分が存在しないのだと気付いてしまう。母親を失い、人の笑顔のため、誰も闇菓子にさせないために戦ってきたショウマの生き様そのものが、実は闇菓子がない世界では存在すらしないという事実。その後すぐタオリンと出会ってショウマは自分の新たな居場所を見つけるわけだが、この一連の流れはシリアスな展開を好むガヴ製作陣らしさが詰まっていて最高だった。本編のショウマはもう既に幸果・絆斗・ラキアのみんなから大切にされていて、後は敵を倒すのみという段階なだけに、余計に彼の顔が曇るのが苦しい。闇菓子社会をぶっ壊すために戦っているのに、その闇菓子が存在しなければ自分は生まれさえしなかった。こんなシリアスな展開を平気でぶち込んでくる辺りは本当にガヴだなあと感じる。
異世界の絆斗達の描写もユニークで面白かった。母親を失っていない絆斗はきっと師匠と出会うこともなく、ただがむしゃらにウーバーイーツに励む若者なんだなあと。同時にコメルを失わなかったラキアはあんな綺麗な服装でシータとジープの召使いをしている。コミカルではあるものの、大切な人を失ったことを3人のライダーの共通点として描いていたガヴにおいて、そのバックボーンがない存在を描いているというのは非常に重要なことで、絆斗もラキアも何も奪われなければ本来は真っ当に生きていけたはずだったのに…と涙ぐんでしまう。絆斗が敵に襲われ気絶してからゼッツ登場の流れも良かった。ゼッツ、腰にベルトを巻く…と見せかけて胸に!はティザー映像でもやっていたので大丈夫だったが、主人公の中二病加減は完全に予想外。ホルスターまでつけちゃって…いい大人が真似したらどうするつもりなのだろうか。去年ショウマ初お披露目の時もお腹を見せつけてくる中年男性の存在を危惧していたのに、今回はまた別の方向で頭が痛くなる。比較的常識人や等身大のキャラクターが多い令和ライダーの中で、あそこまで序盤から貫禄を出しているのは浮世英寿くらいだろう。アクションに関しては、夢ギミックの引き出しが映画の『インセプション』すぎるので、どうにかしてほしいなあと。今のところ『インセプション』のパクリにしか見えていないので、本編でもっと多彩な技を見せてくれると嬉しいところ。
そして今回の敵であるカリエス。人間ともグラニュートとも違う異世界の種族・ミューターのキングであり、これまでにもいくつもの世界を滅ぼしてきたらしい。ガヴとグラニュートとの戦いを偶然目撃したことで興味を持ち、ショウマ達のいる世界に比較的近い別世界で200体の培養体を作る。カリエスの目的は培養体の腹部に生成されるブリードガヴのため、それを奪った後は用済みとして培養体を殺害していた。冒頭にショウマ達が出会った青年もその一人。なんというか、非常にえげつない動機の悪役だなあと。世界を滅ぼすくらいまでは王道だが、そのために人工生命を作って用済みになれば捨てるという狂気が、ガヴの悪役らしい恐ろしさでかなり好き。ショウマ達はどうしてこうも人を人と思わない敵達と戦わなくてはならないのか。強さという面ではそこまで感じなかったのだが、やっていることの恐ろしさで歴代トップレベルの悪役になっている。非常に香村脚本らしいというか…ニチアサにそぐわないレベルの悪役を平気で出してくる辺りがガヴの持ち味を存分に活かしている感じがした。彼を支える科学者のクラープも喋り方からして狂気に満ちていてとても良い。序盤からマッドサイエンティスト多すぎと言われ続けていたガヴが、まだこんな隠しマッドサイエンティストを持っていたなんて…。いやいくらなんでもマッドサイエンティストが多すぎるが。
ストマック家の面々も、異世界メンバーとはいえ大活躍でかなり眼福。5人が並び立つ描写のワクワク感は予告でも凄まじかったが、実際に劇場で観ると声が出そうになった。グロッタが丸太持っているのはあんまり面白く思えなかったけれども…(だって全員が固有武器持ってる流れなんだから普通に鎌を持つべきじゃないですか。こういうところでハズしてどうするんだ)。本編ではこの5人が仲良くしているシーンはもう観られないので、連携プレイで敵を圧倒する姿は本当に気持ちがいい。ジープとシータが高速攻撃で敵を翻弄し、ニエルブが弓で後方支援、残った敵をグロッタが力業でなぎ倒し、最後はランゴがとどめを刺す…!いやあもう完璧、完璧である。これ以上言うことのない5人のアクション。これがもう本編で絶対に拝むことができないというのが残念でならないし、この5人は本編とは違うバックボーンのストマック兄弟なんだよなあというのが惜しい。あと、ショウマを助けに来たというよりは偶然通り掛かったくらいの感じなのも、ちょっともったいなかったかなあと。予告のカットで物語性に期待していただけに、ぬるっと登場するのがちょっと違和感に繋がってしまった。
総じて、登場人物の孤独や人と関わることの喜びなどの心情描写や、お菓子作りやマッドサイエンティスト、その他露悪的な諸々の要素などなど、かなり『仮面ライダーガヴ』の核に寄せた作りになっているなあと感じた。『ガヴ』の物語が一年かけて作り上げてきたものをこの終盤に新たな形でお出しするという意味では満点に近いものが出てきたのではないだろうか。一方で、カリエスC3というサプライズはあったものの、ある意味予想通りの展開でもあって、そこは本編と同様に惜しい部分。『ガヴ』は登場人物達の真面目さもあるが、ダイナミックな展開に乏しいところがあって、どうしてもイマイチ盛り上がりに欠けている印象があるのだが、本作のストーリー展開ももう数段階あると良かったかなあと。
ただ、ガヴのパワーアップが結局ショウマが何を食べたかに依存する展開にはかなり飽き飽きしていたので、ここでショウマと同様にゴチゾウを生み出せるタオリンの形見で変身というのはかなりグッときた。また、諸々のアクションも素晴らしくガヴのメインBGMでもある「EAT ME!」(映画用のアレンジもあったと思うが)が何度も聴けたのは最高。去年ガッチャードの夏映画でこれを聴いた時に、ゴチゾウが合唱しているような音がとにかく癖になっていたので、一年振りにこれを劇場で体感できたのはかなり良かった。近年の処刑用BGMの中でもかなり中毒性が高いので、何回でも聴けてしまう。ヴラムとヴァレンが様々なアイテムや武器を使って戦う展開も、映画らしくてかなり好き。ガヴ特有の狭所バトルはなかったが、むしろ狭所バトルで培ったノウハウをいつものロケーションで展開していて、これはこれでかなり斬新。TV版での工夫や努力が、映画での面白さに繋がるという好例である。
ポップな見た目でハードな展開を繰り広げる『仮面ライダーガヴ』の劇場版の名に恥じぬ良作。欲を言えばもっとこっちの期待を良い方に裏切ってほしかった気持ちもあるが、クオリティはかなり高いし、同時上映の『ゴジュウジャー』がだいぶはっちゃけているので、これくらいしっかりした話運びなのは逆にメリハリがついてよかったのかもしれない。残りあと一ヶ月だが、本編が一体どうなるのか。個人的にはあまり期待できていないのだが、映画で多少はモチベーションも戻ったので、しっかりと見届けたいと思う。
同時上映の『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー 復活のテガソード』の感想はこちら。



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