2005年にTVシリーズの放送が始まった『牙狼』も遂に今年で20周年。私は所謂2期である『牙狼 ~MAKAISENKI~』の直前辺りで初めて牙狼シリーズに触れた人間なのだが、それでももう約15年の付き合いになる。付き合いになるなどと言ってしまったが、実際にはシリーズの全てを追えているわけではない。『絶狼』のTVシリーズも観ていないし、アニメ作品も『炎ノ刻印』くらいしか履修できていない。何が言いたいかというと、要は私はこのシリーズに対してそこまでの熱量を持てていないということである。平成ライダーの歪な味で育った私の心を、「大人向け特撮」と評される牙狼のストレートな作りは掴んではくれなかった。
鋼牙シリーズよりも大河ドラマ的な色の濃い流牙シリーズのほうが好きだったし、当時鋼牙じゃないというだけで『牙狼 闇を照らす者』が批判されていたことには怒りすら覚えた。とはいえその後の流牙シリーズを追えているかというとそうでもなく、『GOLD STORM -翔-』は内容を完全に忘れているし、最新作の『ハガネを継ぐ者』は1話しか観ていない。そんな人間がどうして20周年の新作『牙狼 TAIGA』を公開日に観に行ったかと訊かれれば、単に私が映画館に行くのが趣味だからというだけで、本当に大した理由も思い入れもなく、強く楽しみにしているわけでもなかった。「ああ、牙狼の新作か。そんなに長くないし仕事終わりに観られるな、観るか」くらいの軽くて薄っぺらい鑑賞理由。大人気作とはお世辞にも言えない公開規模、上映回数、客入り。だが、上映が始まった瞬間、私の心は『牙狼』の1期を観ていた頃に引き戻された。おそらく、多くの人がそうだったのではないだろうか。私にとっては2011年。しかし、人によっては本放送当時の2005年。何ならつい最近『牙狼』に触れたという方もいらっしゃるかもしれない。しかし、そんな方でも1期の眩しさ、奇を衒わない作り手の真っ直ぐな思いを感じ取れるはず…この『牙狼 TAIGA』がそう思わせてくれた作品であったことは間違いない。雨宮監督が作っているのだから当然ではあるが、本作は20年を経ての原点回帰であり、少なくとも1期牙狼を知る人にとってはぐっと心を掴まれる作品になっていた。
インタビューによると雨宮監督はタイトルを敢えて「TAIGA」とローマ字表記にしたことで、冴島大河と同一人物なのか、明確な回答を出さない形にしたらしい。私はインタビューについては公開後に読んだため、そんなことは露知らずこの物語が鋼牙の戦いに繋がっていくのだなと思って観ていたし、最後のおしゃれな出会いにも素直に感動してしまった。だが、雨宮監督の狙ったこの「シリーズからの独立性」がいい意味で原点回帰になっている。1期を初めて観た時の、これまでのどの映像作品にもないオリジナリティを再び感じることができ、20年の長寿シリーズでありながら「これだけは抑えておいたほうがいい」というような要求される予習がない。専門用語が飛び交うため多少知識があったほうが話をすっと理解できるのかもしれないが、牙狼1期を初めて観た時、私は世界観の奥深さに翻弄されるのみで、設定面をほとんど理解できなかった頭の悪い人間であるため、序盤で聖獣の設定などを一気に吐き出す独特の作劇もむしろ懐かしく感じてしまった。分かりやすさが何より重視されるこの時代に、ほとんどセリフだけで細やかな設定や舞台を説明する強引さには感服してしまった。そして、序盤でそれらの要素を頭に入れられなくても、その後の話運びで「ああ、そういうことね」とだんだん分かってくるという不思議な作りにも大感動。
全体的に凄く「牙狼1期感」を感じられたのは、時代設定が1期よりも前ということで、現代的な景色があまり映らないからだろうか。道行く人のファッションは少し古めかしく、屋内シーンは美術や衣装で世界観が補強される。製作期間が約4ヶ月と知り雨宮監督はCGよりもアナログ特撮のスタイルでいこうと決めたそうだが、それもまた功を奏していた。エフェクトに頼り切らず照明やカメラワークの工夫で、独特な演出が繰り出されており、聖獣が宿った筆が喋るシーンなんて、ともすれば安っぽく見えてしまいそうなのに、あの世界観に収まると本物のように見えてくるから不思議なものである。雨宮マジックとでも言うような、映像の中に確かに牙狼の世界や社会の息吹が宿っている質感がとにかく素晴らしかった。ど迫力な映像というのには程遠いのだが、それでも大画面で観る価値のある映画だと思う。
『HiGH&LOW THE WORST X』などを手掛けた鈴村正樹監督のアクション演出も見事。最初のホラー・キャンドリアとのコンテナ戦(狭所戦ということもあり、『仮面ライダーガヴ』を思い出す)は非常にスタイリッシュながらインパクト抜群で、そこに雨宮監督のアイデアだという自販機の演出が加わり更に独特な戦いになっていた。続く蛇道戦でも駆ける大河を追う一連のカメラワークに「ハイローだ!ハイローだよこんなの!」と当たり前のつっこみでテンションがぶち上がってしまう。あのシーンは巻き戻して何回でも観たいかもしれない。牙狼剣を奪われているという絶体絶命のシチュエーションではあるのだが、単純なワイヤーアクションに留まらないこのアクションが映画の価値を底上げしている。素面アクションがどれも素晴らしい一方で、ラストの雨宮イラストバトルはちょっとチープに感じてしまった。鋼牙で言う轟天を彷彿とさせる麒麟はもっとじっくり眺めたかったし、白虎達聖獣の姿も、横からでなく正面からもぜひ見せてほしかった。何より牙狼と言えばラストはCGでの大迫力バトルというイメージがあるのでそこを期待してしまっていた…というか、ラストは絶対そうなるのだろうと信じ込んでいた自分がおり、そのせいで若干の肩透かしを喰らってしまった感がある。吹奇のカラフルな衣装も、あんなに一瞬ではまったく堪能できない(パンフレットにスチール写真があったのがせめてもの救いである)。
物語に関してはいつもの牙狼だなあというところだが、それでもエロティックさとグロテスクさを要素として盛り込みつつ、護りし者達の心の強さを描き続けてきた牙狼の真っ直ぐな姿勢に心を打たれた者ならきっと感動できるだろう。勧善懲悪で童話的で、深みがないとも思ってしまうのだが、そんなストレートな物語を描き続け、20年の歳月が経ったというところには素直に心を動かされてしまう。ともすれば古臭くさえある物語なのに、ここまで人々の心を魅了できるというのは素晴らしいことだと改めて実感した。今回初主演の北田祥一郎は牙狼シリーズ初参加と思えないほどに冴島大河が様になっていたし、渡辺裕之の面影さえも感じることができた。瀬戸利樹は『仮面ライダーエグゼイド』の印象が強かったが、今作では衣装や喋り方もあいまって女性らしい妖艶さを漂わせており、個人的には芝居の面でかなり新たな魅力を感じた役柄だった。それで言うと、脇役でありながら完全に善人の波岡一喜というのも珍しかったかもしれない。吹奇役の神嶋里花はフレッシュな印象があったが、1998年生まれらしく、逆に演技力であの幼さと気丈さが出せていたのか…と驚き。変に男勝りということもなく、牙狼の女性キャラではかなり好感を持てたほうかもしれない。大河達の前での妹感と蛇道と対峙した時のギャップが良かった。
牙狼シリーズ20周年記念作品と銘打たれてはいるが、原点回帰でもありながら入門として最適というストレートな1本で、存外に楽しむことができた。牙狼シリーズでは当たり前だが、アクションのレベルが高い上に衣装や美術も凝っていて演出も独特なため、どのシーンもギョッとするような発見がある。牙狼シリーズを応援してきた方々にはもちろん、牙狼を知らない人にもぜひ観ていただきたい1作であった。というか、この座組で大河のTVシリーズはやってもらえますよね??
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