映画『FPS』ネタバレ感想

FPS

 

『きさらぎ駅』や『リゾートバイト』で一躍有名になったホラー映画監督、永江ニ朗。そんな彼の最新作は実験的アトラクションホラー作品。『きさらぎ駅』の後半と同様、観客は主人公と目線を共有することになる。60分という長さで上映規模もそこまで大きくなかった本作。評価を調べると、なんとどのサイトでも軒並み低い。上映時には観られなかったのでU-NEXTで鑑賞したのだが、この映画、かなり不当な評価を受けているように感じた。私はかなり怖く、とにかく恐ろしく、家で昼間に観たにも関わらず、スマホで調べ物をしながらでないとエンドロールまで辿り着けなかった。なので正直、この映画をきちんと鑑賞したとは言いにくい。しかし、間違いなくこの映画は怖い。それでいて評価が低いのはどうしてなのか。

 

答えは「ジャンプスケア」にある。いきなり大きな音を出して観客を驚かせる手法であり、力業でもあるためにこれを嫌う人は少なくない。実際私もあまり好きではない。なぜなら、必ず驚いてしまうからである。大きな音を出されればそりゃあ怖い。この映画は60分というタイトさにも関わらず、このジャンプスケアのつるべ打ち。というか怖いと思わされるシーンは軒並みジャンプスケアだったのではないだろうか。そのため、「真っ当なホラー映画ではなく、音がデカいだけ」という趣旨の感想が散見される。だがここには作り手と受け手の間で大きな隔たりがある。

 

私がこの映画を擁護もとい評価したい理由は2つある。まずもってして、「ジャンプスケアが卑怯な手段」という考え方には個人差がある。確かに「ほぼ確実にビックリする」という意味で大きい音を出すのは禁じ手のようにも思えるが、別に規制されている表現ではない。それにジャンプスケアの醍醐味は「雰囲気作り」にあるのだ。大きな音を立てるだけでなく、その大きな音を効果的に使うために、そこに至るまでのレールを敷く。「怖いシーンがいつ来るのか分からない」という状況に観客を陥れ、60分常に観客を恐怖のどん底に叩き込む手腕はもっと評価されていいのではないだろうか。実際、私は大きい音が鳴るのだろうと勘付いていても、それ以外のシーンがずっと怖かった。いつどこから何が飛び出すか分からない恐怖がこの映画にはあり、そういう意味で「雰囲気作り」はかなり巧みなように思う。もちろんジャンプスケアの多用が嫌われるのも分かるが、ジャンプスケアに至るまでの雰囲気をしっかりと作れていること、観客をジャンプスケアで怖がらせることに成功している点で、この映画はかなりすごい。「どうせデカい音出すだけだろ」と序盤で学んでも、結局驚いてしまうのだ。

 

次に、この映画がそもそも「POV的な体験型映画」であることを多くの人は忘れているように思う。公式自ら「ホラー映画ではない!ホラーゲームだ!」と宣伝しており、体感型アトラクションホラーと銘打っている。もちろん情報を調べてから鑑賞する人がそこまでいないというのは知っているが、この映画がそもそもお化け屋敷的な作りになっていると分かっていた私には、ジャンプスケア云々はあまり気にならなかった。というか、そういうものを観たい人用に作られた映画なのだと思う。アトラクション的だと事前に言ってあるのに、音がデカいだけで捻りのない映画と不満を述べられると、需要と供給が一致しなかったのだろうなとしか思えない。ラーメン二郎の店に入った人が「こんなに脂の多いものが食えるか!」と怒鳴っているような違和感がある。要は「こういう映画」だと宣伝されているのだし、自身に合う合わないはともかく、そこを批判の的にするのはお門違いな気がするという話である。ジャンプスケアが低俗な表現方法というのも個人の主観でしかないわけで。

 

そういう意味で、少し不当な扱いを受けているなと思った今作。私はこういった没入系のホラーが本当に苦手で、ホラーゲームもヘッドホンをしながらだと叫び続けてしまう人間なので、恐ろしくて堪らなかった。過去イチ怖かったかもしれない。それはジャンプスケアの程度によるものなのだけれど、ジャンプスケアだと分かっているのに恐ろしいという空間を作り出していることが凄い。映画館で観ていたら一体何度声を上げることになったのか。時期が合わず自宅での鑑賞に回して本当によかった。ただ、オチはあまり嬉しくないというか、体験型かつ一人称視点の没入型映画であることを考えると、異世界から戻ってきた主人公が実は別人になっているというあのエンドは、その没入感を一気に引き剥がすことになっちゃわないかなと考えてしまった。もちろん、鏡から彼女がフェードアウトしてうっすらと写った本物の主人公が「出して!」と叫び続ける描写は一人称視点と矛盾しないのだが。それでも、『きさらぎ駅』にも似たこの終わり方は不要だったかもなあと思ってしまう。そもそも60分という映画で異世界から抜け出すルールが明確になってもいなかったために、取ってつけたように見えてしまった。嫌いな終わり方ではないけれど、映画として収まりが悪い感じ。

 

とはいえ、全体的には好きな映画だった。ジャンプスケアと雰囲気作り以外の怖さがなく、永江監督らしい外連味が味わえなかったのは残念だが、60分でここまで恐ろしい映画を撮れるのは見事である。監督の新作にも期待したい。

 

 

 

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  • 道本成美
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