映画ドラえもん全作感想 第7作『映画ドラえもん のび太と鉄人兵団』

 

映画ドラえもん のび太と鉄人兵団

 

第7作目『のび太と鉄人兵団』、正直これまでで一番好きかもしれない。メカトピアのロボット達の強敵具合と思想、リルルの葛藤。かなり重厚なテーマが物語の核にあり、荒唐無稽ながら現実と地続きとも言える世界観に感服してしまった。テーマに対して映画が提示するゴール自体には、ちょっと誤魔化している感も否めないのだが、それでも社会問題を背景に超絶スペクタクルで人間と鉄人兵団が戦う様には、かなり胸が熱くなった。映画ドラえもんシリーズを観始めて既に7作目なわけだが、『海底鬼岩城』など、根底に敷かれた社会問題への目線が子供向け番組とは思えないくらいに鋭いものが時折あって、シリーズが持つその気概に既に惚れ込んでしまっている。ドラえもんって社会派だったんだ…という驚き。

 

まず楽しいのは、ロボットのザンダクロス(ジュド)がパーツごとにちょっとずつのび太の庭に転送されるディアゴスティーニ方式。巨大ロボットが少しずつ家の前に現れるなんて、ディアゴスティーニの存在していない時代に思いつくのはさすがだと思う。スネ夫に言い負かされたのび太は、その巨大ロボットを完成させていつも通りスネ夫ジャイアンをあっと言わせてやろうと息巻くものの、あまりのスケールにドラえもんは怯え、ひみつ道具で鏡面世界への入り口を作り、生き物のいない鏡面世界でロボットを完成させることにした。ロボットだけでなく鏡の中のもう1つの世界というワクワク設定まで盛り込んできている辺りが、かなり洗練されてきているなあと感じる。しかもその鏡面世界はこの映画の肝になっていて、後半でも大活躍。半ば行き当たりばったり感の強い作品もあったが、やはり構成がどんどん上手くなっているのを実感する。

 

同時に、巨大ロボットを探すリルルという少女も出現。一方ののび太はしずかちゃんをザンダクロスに乗せるも、ザンダクロスがレーザーでビルを破壊してしまい、このロボットは危険だということに気付く。スネ夫達に自慢できないことを悔しがる彼だったが、ロボットを探すリルルには鏡面世界のことを教えてしまった。そして明かされるリルルの目的。彼女はロボトピアという、ロボットの世界の住人で人間を捕獲して奴隷にするためにこの世界にやって来ていたのだ。語られるロボトピアの歴史、貴族ロボと奴隷ロボの身分格差があったものの、その時代を乗り越えロボトピアは1つになった。しかし、奴隷の解放により足りなくなった労働力は補わなくてはならない。そこで選ばれたのが地球人。ビームなども出せる鉄人兵団に攻め込まれれば、地球人など成す術はない。ドラえもん達は鉄人兵団を食い止めるため、彼等を鏡面世界に誘き寄せて叩く作戦に出る。

 

階級による差別を無くす運動は、人類の歴史でも何度も繰り返されてきており、今もまだ続いている。現代日本では公的にこそ奴隷はいないものの、外国人や女性の蔑視は未だ根強い。メカトピアはその段階を乗り越え一致団結したにも関わらず、他の生物である人間を奴隷化しようと企んでいた。しかしこれもまた人類が何度も犯してきた過ちであり、敵味方が和解すれば、新たな敵が必要になるのである。人種差別とそこから起きる戦争にまで手を広げる映画ドラえもんのテーマの扱い方には本当に頭が下がる。鉄人兵団が恐ろしく脅威であることには違いないが、ドラえもん側も本来メカトピア側であたはずのザンダクロスを改造し、実質洗脳することに成功している。人間と機械という種族の違いが、主人公サイドである彼等にまで尊厳破壊をさせてしまうことが本当に怖い。地球を守るための戦いではあるものの、実質的には「戦争」であり、のび太達は戦いの中にありながらそれに気づけていないという恐ろしい構図なのだ。

 

一方でリルルはメカトピアから送られたスパイでありながら、のび太やしずかに段々と絆されていき、メカトピアが正しいのかどうか分からなくなっていく。鉄人兵団とドラえもん達が戦争にしか気がいかない中で、彼女の葛藤は映画の中の唯一の救いとなっていた。しかしラストは彼女としずかちゃんの別れが映画の核になってしまっており、その点はかなり肩透かし。しずかちゃんとタイムマシンに乗って、メカトピアの始祖である科学者の人間を説得し、アムとイム(最初のロボットのつがい)に思いやりの心を植え付けようとするのだが、結果的にはリルルの犠牲で全てが成り立つという、社会派なテーマからはかけ離れた一方的な感動エピソードがメインになってしまっていた。身分制度や戦争といった重厚なテーマを据えながら、ラストは儚い美少女が消えてしまって悲しいね…というオチに着地してしまう点が非常に惜しいというか…。子ども向け映画のため重苦しくなりすぎてもよくないのだろうし、確かにリルルの死もそれはそれでショックなのだが、もっと物語自体に真摯でいてほしかったなという気持ちが強い。

 

あと自分がビックリしたのは、鉄人兵団というロボット軍団との戦いでありながら、ドラえもんがそもそもロボットであるという点に一切触れられないところ。ただ、この映画のロボットの重要な点は「人に作られた」ことではなくて「人と別の種族である」というところで、その意識こそが戦争を生んでしまっているという話なので、考えてみれば確かにドラえもんのロボット性とは少し食い違う気もする。とはいえ、さすがにドラえもんがそもそもロボットであることに全く触れないのはどうかと思うが…。

 

映画ドラえもんシリーズ、現在7作目の時点で、題材やテーマにこそ惹かれるものの、なかなかその着地がキマっていないように思えてしまっている。とはいえロボットが少しずつ送られてくる、誰もいない鏡面世界のスーパーで伸び伸びと過ごすのび太達、などの印象深い描写はこの映画にもあって、そういう子どもがワクワクするような場面が随所に配置されているのは巧みだなあと。それでいて扱うテーマが重厚という見事さに今はかなりやられているので、後は物語のゴールやテーマの落とし込みが自分の好みと合ってくれればなあというところ。とはいえまだ30作以上あるので1作くらいはそういうのがあるのではないかなと予想している。ひとまず、現時点でトップでした、『のび太と鉄人兵団』。