『デジモンアドベンチャーtri.第4章』感想

第4章はこれまでの3章に比べると、割と話がスッと入ってきた印象がある。デジタルワールドに再び足を踏み入れた太一達がパートナーデジモンと再会し、記憶を失った彼等と共にイグドラシルの刺客と戦うことになる。これまで謎に包まれていた感染や黒ゲンナイ、姫川の正体が一気に明かされることで、着地も分からないままに社交辞令のような会話を見せられることはなくなった。そして設定だけならかなり面白そうなのも高得点。突然ややこしい厨二設定が開示され、ザ・セカイ系な雰囲気で物語の粗をカモフラージュする…という展開が続いたため、倒すべき敵が明確になったことで霧が晴れたようにワクワクさせてくれる。思えば第3章は結局感染した仲間達を止める内輪揉めに終始してしまっていた。第1章のクワガーモンも感染しているため戦うべきか迷い、アルファモンに関しては完全な未知。第2章でも突然デジモンカイザーが登場してインペリアルドラモンと戦う羽目になるが、これも状況が曖昧で、しかも突然究極進化が果たされるせいで感情がついていかなかった。それらと比較すると、イグドラシル側と戦っていくという構図が見えた分、素直な面白さを取り戻したように思う。つまり、ようやく物語が動き出したのだ。

 

とはいえ、手放しで褒めることは難しい。3章までのフラストレーションを一掃するほどの気持ち良さはないし、謎が明かされた分、展開の強引さが目立ってしまってもいる。今作の問題点は具体的に2つ。1つ目は記憶を失くしたパートナーデジモンである。

 

コロモン達はリブートによって太一達のことを覚えていない…というのは3章で示された通り。そのため、再会した子ども達が「○○を忘れちゃったのかよ!」的なお約束の思い出説明パートがあるのだが、それがなせがtri.以降の話だったりあまりピンと来ないエピソードばかり。いや、どう考えても小学生の時のあの冒険のことを話すべきだろう…。子ども達にとってあの冒険が軽く見えてしまっているという風にも捉えられて辛いし、何よりtri.を観ている観客にとってもコロモンがハンバーグや焼肉が好きという話より冒険当時のエピソードのほうが印象深いはず。それなのにどうして変な部分を切り取ってくるのか…。ここで各々がパートナーとの印象的な戦いを彼等に聞かせたりしてくれれば結構感動できたと思うので残念。4章に限らないが、tri.はなぜか無印時代に頼らない作風を意識しているように見える。それはファンの多い名作の上に胡座をかかないという意味では正解なのかもしれないが、続編を作るという意味では悪手でしかない。そのくせ「島根にパソコンがない」とか、ファンがイジって楽しむような側面は積極的に取り入れる。これで当時を思い出し喜ぶ人もいるのかもしれないが、自分は公式に降りてきてほしくない人間なので、tri.のスタンスにあまり好感が待てないでいる。

 

そして、パートナーデジモンに対してかなり強引に自分達の正当性を訴える子ども達の図々しさもキツい。記憶を失っているのだから彼等は実質初対面。それなのに「俺達はパートナーなんだぜぇ〜」とヤンキーのノリで平気でハグをしてくる。デジモン達が怯えているにも関わらずこのノリ、自分は見ていて相当キツかった。それは、あの頃の太一達が同じような状況に陥ったらきっと手を震わせて泣き出すだろうと感じたためである。もちろんそんな描写が公式からされない以上は妄想でしかない。しかし太一達8人は人の心の機微を理解する繊細さを持ち合わせていると思っているため、この図々しい太一達が公式から出てきたことに悍ましささえ感じてしまう。いわゆる、解釈違いというやつ。

 

7組が早く打ち解けていく中で、空とピヨモンだけがうまく会話できない…という状況。順当に行けば今回がピヨモンの究極進化回なので、彼女達がクローズアップされるのは理屈では分かる。だが、ピヨモンだけがあまりに辛辣で、かなり違和感を覚えてしまった。リブートで記憶を失っていることを踏まえると、このつっけんどんな態度はピヨモン自身の性格ということになってしまう。確かにピヨモンは警戒心が強いキャラクターではあるが、だとしてもどうして8匹のうちピヨモンだけがこんなに…と首を傾げるほどに空が罪悪感を掻き立てられ続ける。その後、ピヨモンのピンチを空が身を挺して救うことでパートナーの絆が再び紡がれるわけだが、7組がぬるっと打ち解ける中でピヨモンと空にだけ試練が与えられる点に、製作側の都合が透けて見えてしまって惜しい。このエピソード自体は無印の1話でもありそうだなあというくらいの出来であったが故に余計に。

 

そして、2つ目の問題点はやはり究極進化である。正直、tri.シリーズは上層部から「絶対に6匹を究極進化させろ」と完成間近に言われたのではないかと疑ってしまうくらい、究極進化に至る流れが雑なのだが、この4章もかなり酷い。究極進化に至るプロセスが明かされず、なんかいい雰囲気を出せば進化できる…というのは3章の感想でも指摘した通り。だが、今回は「いい雰囲気」すら出さない。ピヨモンと空に再び絆が生まれてホウオウモンに進化するのはまだ分かる。こちらもまあ「ホウオウモンになるからピヨモンにこんなに時間かけてるんだろうな…」と勘付いているわけで。しかし、それを見たパタモンが「僕も戦う!」の流れで突然セラフィモンにまで進化してしまうのだ。驚き…というよりも呆れたというほうが正しい。お前はほぼ空気だっただろ!!!!

 

確かに感染したパタモンと離れたくないがためにタケルが彼を連れ出してしまうという話はあったが、それは第3章の話。しかもその後にリブートが起きているため、パタモンの記憶の中にはその物語は存在しないのだ。何なら、出会いたてですらある。ピヨモンと空の関係が再構築されただけで究極進化というのも唐突なのに、続いてセラフィモンはさすがに厳しい。何ならそのままヘラクルカブテリモンまで進化するのだから恐ろしい。tri.は究極進化がノルマになってしまっているのか。しかもワープ進化ではなく成長期からちゃんと段階を経て新しい進化バンクで進化していくため、呆れるための時間がしっかり設けられている。こんな突貫工事みたいな作りで、製作陣は本当に納得しているのだろうか…。何か内側でゴタゴタがあったのではないかと邪推してしまう。3章までは各章毎にとりあえずまとまってはいたので、4章のセラフィモン究極進化のスピード感はちょっと異常に見えた。

 

問題点というほどではないが、余計だなと思ってしまったのは西島と姫川のエピソード。2人が過去の選ばれし子ども達であり、ダークマスターズとの戦いによって姫川のパートナーデジモンのバクモンが倒され、彼を復活させるためにリブートを仕組んだという筋書きはなかなか良かった。しかし、成長してもバクモンを忘れられない彼女を西島が後ろから抱きしめ、「新しいパートナー、俺じゃダメかな?」はさすがにやりすぎである。見ていて恥ずかしい。気持ち悪すぎる。何よりあの場面はパートナーデジモン固執する姫川の異様性を描きたかったはず。しかし観客の多くはパートナーデジモンの大切さをよく理解しているため、パートナーの喪失を利用して好きな人に告白する西島の気持ち悪さのほうが先に来てしまうだろう。少なくとももう自分は西島先生をまともな人間として見ることができない。そしてバクモンと再会した姫川の「私を忘れたの!!」という怒りも、リブートの性質をよく知ってれば当たり前のはず。所詮パートナーに寄り添えず、自分の心の隙間を埋めるためにリブートを利用した歪んだキャラクターであるという演出の意図は分かるが、それでもさすがに「いや記憶失うの知ってただろ…」とつっこんでしまう。さすがに心が狭すぎる。

 

というわけで、いろいろ混乱してしまう勢いの良さだったわけだが、バトルも多く敵味方の構図がハッキリとしたことで、3章までとは違う確かな手応えもあった。そう考えると、何と戦うべきかもよく分からず文化祭などの日常パートを着実にこなし実質内輪揉めの状況にもっていったこれまでが凄すぎた気もする。デジモン達の記憶がリセットされたのは残念なものの、倒すべき敵が明確になったことで更に勢いづいて終わってくれればいいなという印象。わずかながら期待値も上がってきた。

 

 

 

 

 

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