『デジモンアドベンチャーtri.第2章』感想

デジモンアドベンチャー tri. 第2章「決意」

 

第2章「決意」は、ミミと丈を主軸に据えた物語。ここから2人ずつ究極進化する流れが始まっており、どこに着地するのか分からなかった第1章よりも安定していると言える。言えるが、それでも全く面白くない。無印の時、きっと誰もが夢想したアグモンとガブモン以外の究極体。そこに公式がアンサーを出してくれるのは嬉しいし、本来なら本懐を遂げたような思いであるはずなのに、どうしてここまで神経を逆撫でできるのか。それはやはり、ドラマ部分の稚拙さのせいなのだろう。私はリアルタイム当時、この第2章で劇場に足を運ぶのをやめてしまった。知っている作品の続編ものはなるべく観ておきたいタイプなのだが、この作品に自分がお金を払うということに嫌気が差したのである。再び鑑賞すると、あの時の気持ちを鮮明に思い出し、余計に腹が立ってきた。

 

まず冒頭の温泉シーン。ここが明らかにいらない。狙いとしてはミミの印象を強くするためなのだろうが、面白くもない上に、女子が男湯に突入するという性が絡んだ内容なのが余計に不快感を増幅させる。ドタバタ劇としてのクオリティも低く、これが公式から出されるものなのかと驚きを隠せない。デジモン達の正体が周りにバレないようにぬいぐるみのフリをする展開は原作でもお馴染みだったが、あの時のドキドキワクワク感はどこへ行ってしまったのだろう。デジモンを自分の体で隠し、先生に適当な嘘をつく。そういう細かい描写の秘密基地感に憧れていたはずなのに、こんなに俗っぽい演出をされてしまうなんて…。その前後、芽心の出身が鳥取だと明かされる車中の会話でも、「島根にパソコンはない」ネタがセリフとして出てきていて最悪だった。こういうのは公式が言うものじゃないんだよ。ファンが喜びそうな言葉やネタをチョイスして盛り込んでくる気概はいいのだけれど、それが自分には全く合わなかった。

 

そして、今回はミミと丈にスポットが当てられる。前回、帰国したために他のメンバーと立ち位置が少し違っていたミミ。受験のために集まれずにいた丈。ミミに関しては芽心との交流も描かれているが、これがかなり酷い。文化祭のウェイトレス衣装に関して、無難なものではなくアメリカで流行っているというチアガール風衣装にしたいといきなり提言。クラスメイトの反感を買い取り止めにするものの、その熱意に心打たれた芽心が勝手に衣装を作り、2人だけ当日チアガールで接客をする…。そもそもミミのワガママキャラというのは、度を越しているから良かったのではないだろうか。自分がトノサマゲコモンを起こす歌声を持つために、家臣から持て囃されると気づきワガママ女王に君臨するなど、明らかにリアルを超えたワガママっぷりが彼女の魅力だった。そこにアメリカ育ちの突破なアイデアも加わり、ミミは唯一無二の存在となっていたのだ。その魅力が今作では単純なスカッとJAPANのために利用される。私にはこれを許すことはできなかった。

 

ついウジウジしてしまう芽心に対して、自分の意見を言わないことはカッコ悪いとハッキリ言えてしまう態度も、見ていて辛いものがある。ミミはきっぱりものを言うだけでなく、独自の世界観で周りを呆れさせるようなキャラクターなのだ。それなのに、彼女の潔さに芽心が感化される展開…。何より、高校の文化祭で誰の許可を取るわけでもなく、自分がやりたいからと露出の多い衣装を皆に着せようとするのは非常識である。「言いたいやつには言わせとけ」ではなく、もう少し周りの気持ちを汲み取れる人間であってほしかった。あと、自分から着たいと言った芽心が、どうして実際に接客すると頬を赤らめて恥ずかしそうにしているのか。気持ちは分からなくもないが、ああいうのってそもそも「やらされてる感」があってこそじゃないのだろうか。自分で立候補しておいて、あの恥じらい方は違和感があった。

 

続いて丈。彼が一向に姿を現さないことにヤマト達は怒りを募らせるが、そもそも丈が必要な場面かどうかが怪しく、状況設定に綻びが生じている。8人揃わないと勝てない相手がいるとか、ゴマモンの力がどうしても必要になったとか、そういう状況ならば丈を求めるのも分かるが、今回は別にそうではない。パートナーのゴマモン自身も強くは言わない上に、そもそも丈が出てきたら問題が片付くという段階にないのだ。それなのに集まりが悪いからとボロクソに叩かれる丈が不憫でならない。もちろん丈自身が、学業を優先してしまう自分に負い目を感じること自体は悪くないが、彼を追い詰める状況が作れていないため、どうにも疎かに見えてしまうのだ。挙げ句の果てには、デジモンカイザー率いるインペリアルドラモンとの戦いにパルモンとゴマモンが巻き込まれるという、明らかに作為的な状況が生み出される。いや、そもそもここまでピンチなら丈も最初から駆けつけただろうに…。でもイッカクモンの進化バンク終わりのポーズは可愛くて良かった。

 

そんないい加減な物語が展開されるせいで、見せ場の究極進化にも全く感情が乗らない。ミミと丈が自分勝手だったと反省することで手に入れた力のようなのだが…そもそも究極進化の説明も一切なく、そこに至るトリガーが明確なわけでもなく、とにかく唐突なのだ。そもそもデジモンにおいて新しい進化とは最大の見せ場であり、心の成長によって進化した成熟期、紋章を輝かせて進化した完全体、タケルとヒカリの思いが結実した究極体など、進化へのトリガーが明確になっていた。対して今作はあまりに唐突で、進化に至るカタルシスも弱い。自分達が自己中だと認めただけでの究極進化、ドラマの弱さはキャラクターの魅力の乏しさにも直結してしまい、せっかくの究極体なのにまるで感動しない。正直、異常事態だと思う。

 

せめて事前に光子郎が「新たな進化が必要かもしれません」と示唆するとか、レオモンが「進化の兆候がある」と仄めかすとか、そういう描写があれば別なのだが、本当に唐突で、プロが作った物語とは思えない。温泉や文化祭の話をするくらいなら、こっちのエピソードを優先させたほうがいいと思うのだが…。せっかく登場したレオモンとオーガモンの扱いも弱く、レオモンに至ってはこれまた唐突に感染したメイクーモンに倒されてしまう。こちらは唐突と言っても、次作へのクリフハンガーになっているのでそこまで悪いとは思わないが。デジモンカイザーやインペリアルドラモンが出てくるというのも、ファンサービス以上の意味を持っていないように見えてしまうし、何より8人のデジモンだけが人間世界に来るというのも不自然なのだから、早く大輔達に連絡をとってほしい。物語の稚拙さもだが、そういう細かい見落としが多すぎて、没入感が削がれていってしまう。

 

前回のメインテーマだった太一の揺らぎもほとんど語られることはなく終わってしまった。あの揺らぎが太一を惑わせ、何か行動を起こすきっかけになるというわけではなさそう。結局、ウジウジしているところを誰かに諭されて解決するのだろうか。それでいいのか…。第3章以降の展開はあまり覚えていないので、ここからは純粋に楽しんでいきたいと思う。