『デジモンアドベンチャーtri.第1章』感想

デジモンアドベンチャーtri. 第1章「再会」

 

2015年11月21日に公開された本作は、デジモン無印の新作という心躍るフレーズから得られる期待値を遥かに下回ってきた。世間でも黒歴史扱いされているが、きっと中には好きな人もいると思う。だが私はいまだに許せていない。無印と02にどっぷりハマった世代ど真ん中の私は、この作品に衝撃を受け、確かこの年のワースト映画に位置付けていたと記憶している。今年の夏からデジモンのアニメシリーズを一気に観ている中で、いよいよこの『tri.』にぶち当たり、分かってはいたもののかなり気が重くなってしまっている。90分前後の全6回。3章からは劇場に行かなくなり、CATVかレンタルかで後々一気に完走した覚えがある。内容もうろ覚えなのだが、未だ鮮明なのは「この作品を認められない」という強い意思である。デジモンアドベンチャーや02の続編として出すべき作品ではなかったと思っているし、オリジナルを超える独自の魅力も特段存在していない。かつてデジモンと共に戦った子どもたちが中学生になって新たな戦いに巻き込まれる…という筋書きを理解はできるし、その試み自体は悪いことではないだろう。だが、原作の良さはこのリアリティとジュブナイルではないのだ。戦いで滅茶苦茶になった羽田空港を見て絶句する太一も、太一とヤマトの間で悩む空も、その恋愛模様を楽しむミミも、あの物語の延長としては存在するかもしれない。だが無印は「家に帰りたい」という普遍的な思いが子どもたちを突き動かし成長させる物語だった。孤独を感じ、衝突を繰り返し、仲間と対話することで、選ばれし子ども達は迷子から世界を救う英雄へと変わっていったのである。しかし『tri.』は、そんな彼等を等身大の少年少女に引き戻してしまった。私が胸躍らせた彼等の冒険は過去のものと成り果て、色褪せている。こういった作品があることを否定はしないが、デジモン無印と地続きの物語としての完成度はかなり低いし、ネーミングバリューに乗っかっただけの作品だなあという評価は今でも変わらない。

 

と、長く語ってしまったが今回はまず第1章について書いていきたい。

『Butter-Fly』の新録は悪くないのだけれど、そこは普通に既存のバージョンでも良かったなというスタート。でもあそこまでの熱量を持つオリジナルはこの作品には合わないのかもしれない。ただ、それなら新曲でも良かったのではないだろうか。

主題歌が流れながら太一が登校し、合間に02組4人がアルファモンによって倒されるカットが挿入される。tri.では既に無印8人のビジュアルこそ出ていたものの、02組にはノータッチだったため、劇中で触れてくれたことは嬉しい。しかし、冒頭でセリフすらなく4人が散っているという恐ろしい描写を入れておきながら、呑気に8人が学生生活をエンジョイしているというのは、気配りが至らないような気もする。「大輔達と連絡が取れないんだ」くらいの不穏さは抱えていてもいいのではないだろうか。

 

不穏さでいうと、本作はシリアスとコメディのバランスがちぐはぐであり、かなりとっ散らかっているような印象を受けてしまう。まず太一達の学生生活が描写され、クワガーモンが人間世界に侵攻し、それを再会したパートナーデジモン達と防ぐという流れ。続いて、再び日常描写。デジタルゲートを管理する組織の存在が語られる。その後、新キャラの芽心を交えてのほのぼのパートが繰り広げられ、メイクーモンを追って登場したアルファモンを食い止めるため、再び子ども達が戦うことになる。日常、戦闘、日常、戦闘という2巡は一見するとセオリー通りでもあるようだが、間に挟まれた日常描写があまりにほのぼのとしすぎていて、それまで戦闘があったとは思えないほどのギャップが生じてしまっている。あの時の太一達ならば、状況を聞いたら居ても立っても居られないというくらいに、解決に前のめりになっていたはず。それなのに、淡々と普段通りの生活に戻ろうとするのだ。その時点で、「あぁ、これはもう自分の知っている太一達の物語ではないんだろうな…」という、悲しい手応えを感じてしまった。

 

また、デジモン達との再会に関しても、観客と太一達の間にギャップが生じている。02の放映終了からは14年が経過しているため、実際私達がアグモン達に会うのは14年ぶりということになるのだが、高2の太一達にとっては02のラストバトルさえ数年前の出来事なのだ。そしてデジタルゲートが閉じられていたということもないため、「久しぶり〜」程度の再会に留まってしまう。デジモンとの再会は確かに私達も待ち望んでいたはずだが、その感動は太一達の持つ思いとは一致しない。それを無理に同一線上に配置しようとした結果、私達は感動するが描写としてはかなりあっさりという、アンバランスな映像が出来上がってしまっている。アグモンの登場こそカッコよく描かれていたが、その他のメンバーの登場には唖然としてしまった。グレイモンのピンチなら、「フォックスファイヤー!」とガルルモンが駆けつけるのがデジモンではないだろうか。なぜかだだっ広い滑走路に子どもたちとデジモン達が棒立ちという状況。あまりに不自然で、リスペクト云々以前に「やる気がないのか!?」と驚いてしまった。そんなわけないのに、製作陣はデジモンを観たことがないのかもしれない…なんて思いさえ過ってしまう。そしてそのまま、グレイモンはクワガーモンに敗北する。南無…。

 

なんとかクワガーモンを撃退するものの、戦場と化した街の惨状を見て、太一は戦うことに悩み始めてしまう。い、今更!? 無印の時代にも都会で散々デジモンバトルをやっていたはずだが…。ここでいきなり『ガメラ3』構文を出してくるあざとさが鼻についてしまう。なぜならデジモンの特徴の1つが「アニメで怪獣バトルをやる」だったからだ。テレビ放送前のエピソード0的劇場版『デジモンアドベンチャー』を観てくれれば分かるが、デジモンは大いに怪獣映画の流れを汲んでいる作品である。それが、市街地の破壊云々などと手垢のついた問題に今更着手するのか…と半ば絶望的な気持ちにもなり、もっと言うと本当にただ街が壊れただけで、犠牲者が出たとか、太一達が直接責められたとか、そういうことさえないのだ。確かにマスコミはデジモンバトルについて好き勝手報道し、間に受けた同級生達はデジモン達を迷惑だと非難する。だがそれは単なる誹謗中傷の範囲なのである。ウィザーモンが死んだ時やスカルグレイモンに進化してしまった時のほうがよっぽど絶望度が高い。こんな小手先のやり方で、デジモンファンに暗い展開を押し付けようなんて、あまりに浅はかではないだろうか。何より、太一だけが抱えた悩みのため、反発するヤマト以外には全く意義のない展開になってしまっており、そのせいで女子メンバーが恋バナをし始めるなんていう変な流れまで生まれてしまっている。ただ、この時点では第1章のため、これが後々活きてくる可能性を私は信じていた。信じていたのだ…。

 

要するにこの映画、はっきりと「ここが凄い!」と言える箇所がないのだ。私が待ち望んでいたデジモン無印の陽性の部分はほとんど消えてしまっており、それをカバーできるほどのジュブナイルストーリーの上手さも見て取れない。そもそも、小学生の頃から知っているあのメンバーが高校生になってメンバー内で色恋に目覚めている…なんて描写はかなりキツい。太一達にもあの頃のノリはなく、みんな冷めた等身大の学生になってしまっている。確かにリアリティは増していると思う。地に足のついたキャラクターになっているのは分かる。それでも、私が見たかったのは皿を割り続ける丈や相撲の行司を務めるタケルなのである。そして、セリフのやり取りも絶望的なまでにセンスがない。就活のグループディスカッションのような虚しい会話が繰り広げられるのだ。知っているはずのキャラクターが、微塵も笑えないつまらない会話で学生生活を謳歌していることに、頭が痛くなる。アニメーションとしての面白さも乏しく、作画も安定していない。本当に、褒めるべき点が見つからないのだ。

 

新しい進化バンクは『ぼくらのウォーゲーム』を意識しているのだろうが、このスタイリッシュさは私の望んでいたものではなかった。綺麗になるのはいいことだけども。そして何より、進化バンクに力を入れるというのなら、終盤のアルファモン戦での進化バンクカットはあり得ない。成熟期へはともかく、メタルグレイモンとワーガルルモンにはしれっと進化し、そのまま究極体へと至る。いやいや、ワープ進化は一体どうしたんだ…。むしろ進化の流れと挿入歌さえ押さえておけば多少ストーリーが拙くても評価できるというのに、どうしてその「燃える」ポイントで冷めた演出ができるのだろう。更にはヤマトの「オメガモンだ!」という発言。アルファモンに敵うのがオメガモンくらいだというのは理屈では分かる。それでも、オメガモンってそんなに簡単に手段として出てきていいものなのだろうかという疑問は残ってしまう。映画にのみ登場した特別感、絶体絶命のピンチに現れる救世主感、そういった神秘性があるからこそ私はオメガモンに惹かれ、『ぼくらのウォーゲーム』に感動したのである。それをヤマトと太一の一存でしれっと進化できる存在にしてしまった上に、アルファモンを追い払うくらいの功績しかあげられなかったというのは非常に勿体無い。オメガモンなんてむしろ第6章まで温存しておいてもよかったのに…。

 

ジュブナイルもリアリティも、私が小さい頃に心惹かれたデジモンアドベンチャーにはなかったものだ。シリーズの進化として、子供番組にそういった視点を持ち込んで成功した例は確かにある。それでも、自分にとってこの『tri.』は失敗作のようにしか思えない。期待を裏切り、デジモンアドベンチャーという名作の上に胡座をかいた、お門違いなシリーズという印象が拭えない。こういう路線が好きな人もいるのかもしれないが、デジモンアドベンチャーの延長でやるべきことかどうかはもっと検討してほしかった。そして仮にそこを詰めていたとしても、もっと内容に光る物がある素敵な作品に仕上げてほしかった。印象に残らないセリフ、浮いたような恋愛問題、感情移入できない太一の葛藤。どれもこれもため息ばかり出てしまう。「間違った進化」とはこのことを言うのではないだろうか。