映画『誰かに見られてる』ネタバレ感想

誰かに見られてる

 

『エイリアン』『ブレードランナー』『レジェンド/光と闇の伝説』に続いてリドリー・スコットが監督したのがこの『誰かに見られてる』。ヒッチコックを彷彿とさせるような抽象的な邦題からサスペンス映画なのかと思ったが、スリラー要素はほとんどない。ラブストーリーとも違うような気がする。確かにリドリー・スコット監督のフィルモグラフィからすると捻りのない直球な現代劇は異質だが、だからといってそれが新たな彼の魅力を引き出しているということもないように感じた。なんだろう、この凡庸な物語は。正直、観ている間も展開にほとんど興味を持つことができなかった。なんだろう、あまりに…あまりに面白味がない。

 

簡単に言うと、殺人の現場を目撃した女性と、彼女を警護する既婚の男性刑事が仲を深めていく…という話。というか、本当にそれだけなのである。命の危機が挟まってはいるものの、映画の大半は既婚者で子どももいるのにクレアに惹かれていってしまうマイクの葛藤が描かれる。マイクの奥さんも子どももいい人だし、特別不仲というわけではない。ただ、確かにクレアは美人で惹かれる気持ちが分からないではない。奥さんも相当美人ではあるが。誰に相談するでもなく、悩み続けるマイクを観ていると段々苛々してくる上に、物語も全然進まない。一度犯人のベンザが逮捕されるが、マイクの捜査に問題があるとして釈放。クレアは再び命の危機に晒され自暴自棄になり、マイクはそれを自分のせいだと責任を感じる。そして2人は遂に結ばれ…という、説明していて恥ずかしくなるような展開がダラダラと続いていく。てっきり体の関係にはならないまま終わるのだと思っていたので、あっさりと結ばれたことには驚いた。マイク、お前何をダラダラと悩んでいたんだ…。

 

とはいえ、ダラダラと悩む期間がこの展開で終わりを迎えたのは素直に嬉しい。遂に完全に不倫関係に陥ってしまって、これは一体どうなるのか…と期待したのだが、最後にはマイクの妻と息子がベンザに人質に取られ、マイクが救出に向かう展開に。そもそもこれも、逮捕されたくなかったはずのベンザからすればかなり不可解な行動なのだが、マイクへの逆恨みと取ればよいのだろうか。アクションシーンはさすがリドリー・スコットといったところで、陰影の使い方に独特な緊迫感がある。犯人と対話するマイクの目の部分にだけ光が当たる演出が面白い。しかし結末はあっけらかんとしていた。息子の代わりに人質になったマイク。ベンザの隙を見て妻が拳銃を手にし、そのままベンザを銃殺。う、嘘だろ…奥さんがやるのかよ…。テーマが重厚だとかそういう映画ではないのだろうけど、ここまで中身がないともはや笑ってしまう。しかも人質に取られたのが吊り橋効果になったのか、マイクは家族とやり直すことを決意する。奥さんはそれでいいのか?元警察とはいえ人殺しまでする羽目になって?浮気も有耶無耶なままで仲直り?マイクはまだクレアと連絡取ってるのに?

 

疑問が止まないまま、あまりにおかしな着地をしたため面食らってしまったが、1987年という時代を考えれば、一時の過ちで美人と結ばれその後家族と仲直りというのはそこまで変な物語でもないのかもしれない。もし2020年代だったら一般には全く受け入れられないだろうし、そもそも物語として全然起伏がないのも苦しいとは思うが。リドリー・スコットの他の作品に比べるとかなりマイナーなようなので、ぜひ多くの人に観てもらいたいなとは思う。残念ながら、自分はつまらない以上の気持ちを持つことはできなかった。リドリー・スコットの映画は映像美や画面の迫力に魅力があると思っていたのだが、現代劇だとさすがにその点は難しかった。

 

あとは楽曲もやたらかかっていて、なんだかなあという気持ちになってしまう。もちろん歌詞付きの楽曲がかかる映画でもいいものはあるのだけれど、この使い方はどうなんだろうなあ、と。感覚的なものなので好みはあると思うが、自分はすごく「ドラマ的」というか、「一般ウケを狙ったのかな」という印象を持った。洋楽には詳しくないので、もししっかりとした意図があったら大変申し訳ないのだけれども。ただ、BGMがノイズになっちゃってるなあみたいな、PVみたいになってる瞬間が映画の中にあったのは残念。冒頭で音楽を流しながら街の夜景を映すのはワクワクしてよかった。ただ映画全体の出来を知った後だと、あまり感動はしなかったかなあと。

 

好きな方には申し訳ないが、自分にはまるで刺さらなかった。やはりリドリー・スコットには想像力をフルに働かせるような画作りをしていてほしい。せめてサスペンスであればもっと楽しめたのだろうけども、あまりに都合のいいラブロマンスで残念だった。

 

 

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