トランスフォーマーシリーズと言えばマイケル・ベイによるド派手な爆発と長ったるい上映時間が特徴。しかし実写作品初挑戦のトラヴィス・ナイト監督の手によって、まるで毛色の違うジュブナイル作品として生まれ変わった。スピンオフにして最適解であり、むしろ後続としてのシリーズスピンオフ実写作品が2026年現在作られていないことが不可思議でならないほどである。
物語の主人公は18歳になったばかりの少女・チャーリー。これまでは男性だった主人公を若い女性に置き換えた点も、シリーズにおいて革新的であると言える。しかし何より正史と異なるのは、ドラマ性に重きを置いているところだろう。トランスフォーマーシリーズは爆発に次ぐ爆発、アクションに次ぐアクションを何より重視して作られている向きがあり、巨大なスクリーンで観てこその大迫力をウリにしていた。それと引き換えにドラマ面はおざなりになっており、第2作目『トランスフォーマー:リベンジ』の時点でラジー賞を受賞しているほどである。私自身も映像の派手さに対して脚本の拙さが気になっており、しかも2時間を超える上映時間のために毎作観るのが億劫なシリーズでもあった。だが、この『バンブルビー』はその点が決定的に違う。父親と死別し再婚した母親を含めた家族に疎外感を覚え、同世代の若者からは馬鹿にされている孤独な少女が、同じく地球に1人降り立った孤独な機械生命体と心を通わせる、見事なジュブナイルムービーになっているのである。舞台となった1987年の取り込み方も非常に上手く、ビーが懐メロの歌詞で気持ちを伝えてくる演出は圧巻。子どものようなバンブルビーの振る舞いも非常に可愛らしく、この辺りの機微はさすが『クボ 二本の弦の秘密』などを手掛けたトラヴィス・ナイトと言ったところ。キャラクターの扱いがとにかく素晴らしい。
チャーリーは決してあからさまに孤独な少女ではない。人とのコミュニケーションに支障があるわけではないし、家族との関係もそこまで悪くはない。だが、父との別れで心に空いた穴を埋められず、新しい家族に対しても違和感を覚えてしまっている。このキャラクター造形も絶妙。車好きという側面はあるのだが、決して浮世離れしていたり安直な暗い性格ではない。等身大の少女らしい言動だからこそ、観客に感情移入を強く促すのである。家族3人が仲良くテレビを観ている中に入っていけない繊細な心の動きをカメラワークと表情だけで表現するシーンは特に素晴らしかった。
そんな彼女が車を手にし、しかもそれは宇宙から来た機械生命体だった。ガール・ミーツ・ボーイ的な良さも醸し出しつつ、バンブルビーを追うディセプティコンの行動も並行して描かれ、緊迫感はどんどん増していく。それでもおっちょこちょいで子どもっぽいところのあるバンブルビーの可愛らしさはすかさず描かれており、重苦しくなりすぎていない点が好印象。ジョナ・ヒル演じるザ・軍人といった出で立ちのバーンズ少佐も見事だった。根は良い奴であることが序盤からずっと感じられ、最後にバンブルビーとチャーリーを逃がし敬礼をするシーンはしっかりと感動させてくれる。貫禄と人間味が同居する魅力的な演技。
変形をはじめとしたVFXも素晴らしく、アクションも見応え抜群。本家トランスフォーマーがとにかくアクションを重視していたのだから気が抜けないのは当然なのだが、見せてほしいものをきっちりと見せてくれるし爆発も程よく差し込まれている。ごちゃごちゃしすぎていないアクションはとても分かりやすいし、何より長ったらしくないのが良い。強いて言えば今回のメインヴィランであるシャッターとドロップキックがあまり強そうに見えないのが残念だった。赤と青の色違い(もちろん差異はまあまああるが)兄妹のようなニュアンスが出てしまっていて、もちろんバンブルビーが2体同時に相手するのは厳しいというのは分かるのだが、明確な強さを感じられなかった印象。また、追ってくる敵を倒すだけのシナリオになっているため、バンブルビーと2体の因縁があまり生まれなかったのも勿体ない。だが、それを差し引いてもチャーリーとバンブルビーのドラマが素晴らしいため、全体的なバランスとしてドラマは非常に見応えがあった。飛び込みを止めてしまったチャーリーが、最後友人となったビーを助けるために水の中へ飛び込む終わり方も完璧だった。
監督が初めて泣いた作品だと言う『E.T.』らしさが存分に詰まっており、舞台とした1980年代の再現性もお見事。映像は最新技術による大迫力なのに、観た後に心に残る感触は1980年代の映画を観た時のものに似ている。私は90年代生まれなので、リアルタイムで80年代映画を観てはいないのだが、何となくテレビを点けたら夜やっていたSFやアクション映画に心を奪われた思い出がある。『バンブルビー』は、正にその懐かしさを思い起こさせてくれたのだ。姿形は違っても、抱える孤独は同じ。そんな2人が出会い、共に戦うまでを面白おかしく描きつつ、臨場感もたっぷり。奇を衒うこともなく、1980年代らしい王道で真っ直ぐな展開。変則的な作品が好きな人には物足りないかもしれないが、個人的にはこのストレートさが清々しく、非常に楽しめた1作だった。



