映画『キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド』ネタバレ感想 味気ないファルウィンの延長戦

キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド (オリジナル・サウンドトラック)

 

待ちに待ったキャプテン・アメリカシリーズの最新作、『キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド』。キャップのシリーズとしては4作目(つまりキャップ4)に当たるが、キャプテン・アメリカの肩書きがサムに移って以降の映画としては1作目。『アベンジャーズ/エンドゲーム』でスティーブがキャップを引退し、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でサムが正式にキャプテン・アメリカの座を継いでから約5年。いよいよサム・ウィルソンが主役の物語がスクリーンにかけられた。

 

MCUはフェーズ4以降どんどん評価が右肩下がりになってしまっているが、私個人は割と楽しめている。というか、次のアベンジャーズ5で絶対凄いことになると信じていて、MCUを離脱してしまった人々に「ざまあ!」と言いたいがために鑑賞している節さえある。かなり邪な動機だが、MCUがなければ自分はここまで映画を観る人間にはなっていなかったと思うので、恩返しの意味でも喰らい付いていたいのである。と言いつつ、Disney+のドラマやアニメは追えていないものもあるのだが。

 

キャプテン・アメリカシリーズはMCUの中でも人気が高く、実際自分もかなり好きな作品群。今作を観るにあたってキャプテン・アメリカシリーズ3作とアベンジャーズ4作を観返したのだが、キャップシリーズとアベンジャーズ3,4の脚本を担当したクリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーのコンビにガツンとやられてしまい、製作陣がガラッと変わった(ファルコン&ウィンター・ソルジャーから続投した)このキャップ4は、ギャップが生まれてあまり楽しめないかもしれないなと懸念していた。「左から失礼」をはじめとする鮮やかな台詞回しとキャラの立て方、そしてルッソ兄弟の駆け足かつ斬新な演出の数々に、復習がてら勝手に心を奪われたのである。

 

とはいえ、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』もかなり楽しめた人間なので、この座組が映画になってどう化学反応を起こすのかと期待していたのだが、正直すごく落胆してしまった。これまでのキャップシリーズにあったワクワク感が薄れ、ほとんど味のしない時間が流れていたように感じさえしてしまったのだ。というか、『ファルウィン』の延長戦を映画でやっているだけのようにさえ思えてしまった。政治を絡めたサスペンスという社会派な一面はそのままで、自分もそのテイスト自体は嫌いではない。ただ、物語の展開が過去のキャップシリーズと比べてあまりに粗末で、スムーズに物語に没入できた過去作に対し、本作は「これがこうなったのでサムはこうします」という丁寧すぎる誘導がされている印象を受けてしまった。よく言えば分かりやすさなのだが、悪く言えばぎこちなさである。物語がツギハギになっているように見え、どうにものめり込めなかった。もちろんそんな映画は古今東西山ほどあるのだけれど、復習したキャップシリーズはその繋ぎ目が鮮やかでノイズが一切なかったこともあり、余計にマイナスになってしまっているのである。

 

それと、宣伝。自分は映画にはワクワクさせてほしいという気持ちが強く、なるべくネタバレを踏みたくない側の人間である。今回はキャプテン・アメリカとなったサムの物語で、ヴィランとしてレッドハルクとなったロス大統領が立ちはだかり、『インクレディブル・ハルク』以降消息不明だったサミュエル・スターンズ(ブルー博士)が登場するという事前情報だけで行ったのだが、このピースで既に映画が完成してしまっていた。端的に言うと、ロスに監禁させられ続けたサミュエルが復讐としてロスをレッドハルクに仕立て上げ、彼の人生を崩壊させようとしている…というのが物語の筋書きなのである。映画はロスの裏にいる謎の人物の存在を仄めかしつつ、サム達がその正体を暴く構成となっているが、事前にサミュエルが出ることを知っている自分からすれば、「まあアイツだろうな…」とすぐに分かる。そのため、敵の正体に対する意外性はない。しかも肝心のレッドハルク戦はまさかのクライマックスであり、それ以上のサプライズ展開もなかったために、すごくあっさりと映画が終わってしまった印象なのである。

 

ロスが大統領になっていて、それをハリソン・フォードが演じ、しかもレッドハルクになるというのは凄く面白いのに、それを全て「事前に知っている」ために、物語への興奮がほとんどなかった。とはいえレッドハルクの部分を隠して宣伝するのは厳しい内容のため、ここは難しいところなのだが。どちらかと言えば自分は、レッドハルク以外に黒幕がいるような予告から別ヴィランとのアクションを期待していたので、レッドハルクと戦って終わりというのはかなりガッカリ。また、黒幕のサミュエルに関してもちょっとハルクっぽくなっていて基本はフードを被っているというつまらない風貌。スマホから光を放たせることで人々を洗脳するというのも、独特な言葉を並べていたバッキーの洗脳を知っているこちらとしてはちょっと弱い感じを受けてしまう。ただ、彼の痕跡としてfleetwoodsの『Mr.Blue』という曲が掛かっている演出は良かった。『インクレディブル・ハルク』を知っている人からすると「ブルー!?」と繋がることもあるのかもしれない。自分はそもそもサミュエルが出てくると分かっていたので驚きはなかったけれども。

 

その他、アクションも全く光るところがなかった。ファルコン時代の翼ガジェットとキャップから受け継いだ盾。この2つの武器を上手く組み合わせた刺激的なアクションにも期待していたのだが、目新しい要素はほとんどなかった。盾を投げ、翼で飛行し、レッドウイングの助けで救助活動を繰り広げる。諸々の要素が噛み合っておらず、アクション面では全く満足いく出来になってなかったのが非常に残念。これなら『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』冒頭の空中戦のほうが断然素晴らしかった。キャップとの違い、つまりはサムの庶民性を出すために敢えて泥臭いアクションなのかなとも思ったのだが、レッドハルクのCGのクオリティもかなり低く、単に工夫がされてないだけか…と落胆してしまったのである。ファルコンの戦い方に「盾を投げる」が加わっただけというか、すごくチープなDLCだなあという印象を受けた。せっかくサムが重い肩書を背負ったのに、それがアクションに反映されていない。

 

と、ダメ出しばかりをしてしまったのだけれど、この映画が描こうとしているサムの葛藤に関してはかなり好きなので、簡単に嫌いになれない映画ではある。おそらく2度目3度目、手の内が分かった状態では作り手の思惑もしっかりと感じ取れてより楽しめるのだろう。

そもそもスティーブ・ロジャースという気高い精神の持ち主の隣にいながら、新たなキャプテン・アメリカは自分でいいのかと悩むサムと、ヒドラに操られ人を殺してきた過去の呪縛から逃れられないバッキーのコンビがかなりツボなので、映画でバッキーがサムに言った「スティーブは人々の希望になれるが、お前は目標になれる」にはちゃんと泣かされた。サムとバッキーは互いにスティーブの戦いを間近で見てきたからこそ、自分が彼のようになれないコンプレックスを共有していて、その繋がりこそが、そもそも相容れないお互いを高め合っている関係なのだと思う。だからこそ、超人血清を打っていないために自分では力不足だと悩むサムの背中を押すのは、似た葛藤を抱えるバッキーしかいないのだ。だが、この葛藤は正直『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で解決しただろ…という気持ちもあり。ドラマ未見の人に丁寧なことは悪くないのだけど、自分としては「サムはまだそこで立ち止まってるの!?」という思いも出てきてしまった。その葛藤自体が自分の好きな類なので全然許せてはいるのだが。

 

今回のサムの状況は『シビル・ウォー』でキャップが置かれた状況との対比になっていると思われる。 『シビル・ウォー』ではキャップの親友であるバッキーが犯罪者として指名手配され、彼の罪を晴らすためにキャップが奔走し、アベンジャーズの分断が起きてしまった。そこまでの大事になったのは、キャップに「力」があったからとも言える。そして今作では、サムの友人のイザイヤが敵に操られて大統領を銃撃し、警察に捕まってしまう。サム自体が追われる側になることはなかったが、奇しくもスティーブが陥った状況と酷似しているのである。スティーブは信念と力によって体制側と対立するに至ったが、サムはレッドハルクとなったロスとの対話で戦いを終わらせる。正直「大物さん…」のスピンオフを観てるような気持ちになってしまったが、スティーブとの対比としては悪くない終わり方だったと思う。サム・ウィルソンをキャプテン・アメリカたらしめる要素は、やはり良い世界を作っていけると信じる心なのだ。

 

サム・ウィルソンというキャラが大好きだし、この作品で彼が更に掘り下げられたのは嬉しいのだが、脚本とアクションと宣伝が全く自分にハマらなかったので非常に困る1作だった。ただ、MCUの最大の特徴は連作ものであるという点なので、今後アベンジャーズ5や6を観た後で今作の評価が大いに変わるかもしれない。でも今は、期待したものが観られず残念だったなあという気持ちが勝っている。

 

あと、鑑賞した人達の多くが言っている「インクレディブル・ハルクを予習して」にも自分はあまり好意的に受け取れないでいる。あの作品を観ていたらより楽しめるのは間違いないのだが、明確な繋がりを感じるというより、自分は「ここまでのMCUであんまり触れられてなかった部分から取ってきた」みたいな印象を受けてしまったのだ。冷蔵庫の中の具材を余すことなく使った感というか。もちろん半ば黒歴史扱いされていた『インクレディブル・ハルク』にスポットが当たるのは嬉しいのだけれど、自分にはMCUの余ってた部分を使ってみましたくらいのものに見えてしまった。これも少ししたら変わってくるかもしれないが。

 

ただ、『インクレディブル・ハルク』のことなんてもう滅多に話せないと思うので、ちょっと紹介したいのがこちら。

 

 

MCUの裏側が赤裸々に語られた書籍なのだが、特に『インクレディブル・ハルク』の項は本当に目から鱗な話がどんどん飛び出すのでぜひ読んでほしい。何故ハルク役が『アベンジャーズ』から変更になったのか、何故この作品が黒歴史的な扱いを受けているのか。普通のインタビューでは聞けないようなネガティブな側面を、ケヴィン・ファイギをはじめとした関係者がどんどん解説してくれている。ハリウッドの人達も我々と同じ人間なんだな…と思わせてくれる名著。ぜひ読んでみてほしい。