映画『ブレイド』評価・ネタバレ感想 アメコミ映画の影の立役者

ブレイド (字幕版)

 

 

2026年末のアベンジャーズ新作に向けてMCUを全て観よう、ということで『X-メン』のTVアニメシリーズを完走したため、ようやく映画に突入。TVシリーズは1話は短くとも話数が多いのでなかなか大変だったのだが、映画ならば2時間ほど画面の前に座ってるだけでいいのでとても楽。本来ならMCU1作目は当然『アイアンマン』なのだが、アベンジャーズ新作はマルチバース・サーガの集大成であり何が飛び出してくるかまったく分からない。単にMCUを最初から押さえただけでは感動を逃してしまう可能性がある。そんなわけでMARVEL映画を遡っていき、1作目はウェズリー・スナイプス主演の『ブレイド』とした。

 

正確にはそれ以前にもMARVEL映画は存在するのだが、観る方法が限られていたり、さすがにこれより前のネタは拾ってこないだろう…と考えている。いや、『デッドプールVSウルヴァリン』でまさかブレイドを拾ってくるなどとは当時誰も予想してなかったと思うのだが。とはいえ、3時間に満たない映画の中でMCUができることも限られているだろうし、勝手に『ブレイド』以降を観ておけば大丈夫だと思うことにした。

 

実際、1998年の『ブレイド』がアメコミ映画の契機になった側面は非常に大きいと言える。スタイリッシュなアクションとこれまでの吸血鬼観を見事に打ち砕く斬新かつスピーディーな脚本は多くの人々を魅了し、今でもカルト的人気を誇るシリーズとなった。そしてこれ以降はコンスタントに『X-MEN』や『スパイダーマン』などのMARVEL映画が登場するのだ。『ブレイド』がなければ今のアメコミ映画は存在していなかったかもしれない。歴史上、それほど重要な地位を占めていると言える特異点的映画なのである。

 

私が初めて観たのはもう10年以上前で、正直内容もほとんど憶えていなかった。しかし、だからこそ今回の再見では新鮮に楽しむことができたのである。そしてこの映画、非常に面白い。アクションも脚本も素晴らしく、MCUに組み込まれていたらクオリティとしてトップ5に入るくらいのポテンシャルはあるのではないだろうか。何もかもがスタイリッシュで本格的。映画バットマンシリーズが子供向けになっていく中で、こんなにもストレートに面白い作品を出してくるとは。制作陣の本気度と実力がしっかりと映画に表れている。

 

冒頭、1967年の病院にブレイドの母親が運び込まれる場面。ここだけでもう作品のグロテスクさをドンと提示してくる。血の量や母親の迫真の演技で、映画が低年齢層に向けられたものではなく、シリアスな作風であることをしっかりと宣言してくれるのだ。もちろん低年齢層向けが悪いわけではないし、血の量と映画の面白さが比例するはずもないのだが、当時スーパーヒーロー映画がファミリー層向けのものへと移り変わっていた時期にこのスタートを切るのはとんでもない冒険であっただろう。

 

主人公の異常な誕生を描いた後、この作品を象徴する、「血のシャワー」が始まる。精肉工場の裏に吸血鬼達のダンスクラブがあり、女吸血鬼に連れ込まれた若者がスプリンクラーから止めどなく吹き出す血飛沫と赤く染まった吸血鬼達に恐怖する名シーン。映画の内容をほとんど忘れていた私でも、このシーンのことははっきり憶えていた。それほどインパクトの強いシーンだったのだ。Blu-ray特典の音声解説によると、スプリンクラーから流れる血はなるべく液体っぽくならないように、粒に見えるように工夫を凝らしたとのこと。「血のシャワー」と表現してしまったが、確かに言われてみると水っぽくないというか、少なくともシャワーには見えない。それが余計に怪奇的で、絶妙な恐ろしさを醸し出している。

 

そこに突如ブレイドが登場し、最初のアクションが開幕。大きめの銃やS字型手裏剣など、特殊な武器が次々と飛び出す。角刈りで後頭部から背中にかけて刺青の入った大男は到底ヒーローには見えないのだが、強さは別格。次々と大量の吸血鬼を無慈悲に殺していく直球のバイオレンスアクション。そのスタイリッシュさに思わず目が眩むほどである。これだけでもうそこから先2時間への期待が高まり、実際その期待は裏切られないまま映画はエンディングへと一気に突き進む。アクションもシナリオも、素晴らしすぎるのだ。

 

ほとんどスタント無しでアクションを演じたウェズリー・スナイプスは言うまでもなく完璧で、ハリウッド対策のような派手さがなくとも手数の多さとアクションのスタイリッシュさで映画は充分に面白くなるのだということを体一つで教えてくれる。対するフロスト役のスティーヴン・ドーフもよく見るイケメン吸血鬼のルックながら見ず知らずの子どもを平気で人質に取り、目的のためなら所構わず人間の命を奪う残忍さを持っている最悪の敵。しかしながら人間と吸血鬼の共存を図る旧態依然とした純潔吸血鬼達への横柄な態度や部下達に恐れられている描写から、実力とカリスマ性と野望を兼ね備えていることが伝わってくる。ブレイドとフロストが対峙するシーンは実は真昼間のシーンとラストだけなのだが、両者を魅力的に描いているため、因縁の敵という趣が非常に強いのだ。MCUはヒーローを目立たせるばかりで、悪役との両立が出来ている作品がなかなかないというのに…。

 

ヒロインのカレンも最高。この時代に冷蔵庫の女にならず、医者という肩書をフルに活かしてブレイドをサポートし、戦いに巻き込まれながらも逃げ惑うだけでなく吸血鬼達と張り合う芯の強さを兼ね備えているのが素晴らしい。しつこい元恋人が吸血鬼になって襲ってくる…なんて見せ場もしっかりと用意されており、彼女の扱い一つ取っても、この作品がいい加減に作られていないことがよく分かる。そして最後は傷ついたブレイドに「私の血を飲んで」と身を捧げるのだ。『ブレイド』は彼女がいなければ成り立たない物語なのである。それでいて、別に恋仲になるでもなくブレイドの吸血鬼狩り旅の一幕というような関係性なのも良い。

 

ブレイドの父親代わりとも言える吸血鬼ハンター仲間のウィスラーも完璧。人間でありながら土壇場でブレイドを救出し、彼の武器も作っているという裏方兼師匠のような男。活躍の場こそ少ないものの、ブレイドとの別れのシーンは必見。ウェズリー・スナイプスはガーゼでひたすら彼の血を拭うアドリブをあまり気に入っていなかったようだが、あの手の動きと表情にきちんと悲しみが宿っていて自分はしっかり感動した。というか、映画1作でブレイドのキャラもこんなに立っているしフロストもカレンも素晴らしいのに、父親代わりだったウィスラーとの死別なんて重大エピソードまできちんとやれる脚本のバランス感覚が凄まじい。改めて、デヴィッド・S・ゴイヤーが凄すぎる。

 

カレンの血を飲んでブレイドが復活してからのラストバトルはとにかく圧巻。ネットでもよく見る突き刺さった刀を引き抜いた後のブレイドの動きもそうだが、最初から最後までまるでダンスのように流麗なアクションを楽しむことができる。アクションにリズムがあるというか、呼吸があるというか。正直展開的にブレイドが勝つことなど分かり切っているというのに、見せ方一つでこんなに面白くなるものなのかと。特典映像ではフロストがゼリー状の血の化け物に変わる最終決戦を観ることができるが、試写での評判があまりに悪かったために変更したらしい。大正解である。やはり巨大モンスターとのバトルが最終決戦というのは一気に興を削がれる感がある。どこかの超能力戦争にも見習ってほしかった。

 

これまでの甘美な吸血鬼映画とは一線を画すものにしたかったと語るデヴィッド・S・ゴイヤー。それは病院のシーンから始まるというリアリズムに表れている。シナリオもアクションもテンポも、どれも完成度が高く、やはりMCUを語る上でこの映画を外すことはできないだろう。『ブレイド』はアメコミ映画の潮流を生んだ立役者なのである。

 

 

 

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